83 彼シャツ②
彼はフラフラと俺に近づいてきた。
「え?ちょ……なに……?」
俺はなにかヤバそうな雰囲気を感じて後ろに後退する。
しかし彼は止まらなかった。
そしてついには俺の顔の横の壁に手をドンッと置いて逃げ場をなくしてしまった。
壁ドンである。
「なになになに!?」
俺が混乱していると真面目な顔をして彼が話しかけてきた。
「な?こうやって誰かに襲われたらどうする?」
「うっ……」
俺はそう指摘されて顔をしかめた。
ちょっとした悪ふざけのつもりだったけど、やりすぎたか?
しばらく黙っているとファブリスは壁から手を放して笑いながら俺の頭をポンポンと叩いた。
「わかればいいんだよ。次からはこういうことはしないように」
「……はい」
「よろしい!」
そう言うと彼はもう一度、頭をポンポンと叩いた。
あんまりポンポンってやらないでほしいな。調子が狂う……
「さて、遅くなったけど晩御飯の準備をするか!」
それから俺たちは一緒は料理を食べた。
今日は二人とも食材を買ってくるのを忘れたので魔法のテントに作ってもらった。
食事中。
「そういえばお前ってアルバイトやってないって言ってたよな?そしたら生活費はどこから出てるんだ?」
俺が晩御飯を食べながら彼に聞くと彼は口をモゴモゴとさせながら答えてくれた。
「あぁ、それは池袋に住んでる親戚が送ってくれてるんだよ」
そう言うと彼はご飯を口のなかに入れた。
妙だな……
ファブリスにはこちらの世界で親戚なんていないはずだ。
ということはその親戚はあっちの世界の人間である可能性が高い。
もしかしたら龍神と会えるかもしれないな。
「なぁファブリス」
「……? なんだ?」
いつの間にかファブリスという呼び方に違和感を感じなくなってきているようで彼は自然に言葉を返してくれた。
「今度その親戚とやらに会わせてくれないか?」
「いいけど、なんで?」
「まだわからないのか?」
俺がそう言うと彼はコクリと頷く。
それを見て俺はため息をつきながら説明することにした。
「この俺がお前はこの世界の人間じゃないって言ったのを忘れたか?」
「あ」
彼もどうやらこのことに気づいたらしい。
「で、でもあのおばさんは小さいときから面倒を見てくれたんだぞ?」
「バーカ。異世界の人間なのにこの世界の人間に面倒になったわけないだろ。どーせ記憶をすり替えられでもしたんだろ?ということでソイツに会わせてくれ。要注意人物だ」
俺がそう言うと彼は無言で頷いた。
絶対にその謎の親戚の要注意人物を問い詰めてファブリスの記憶を戻してもらおう。
そして二人で一緒にニュードラグーンに帰るんだ……
俺はそう強く決意をし、再び手元のご飯を食べ始めた。
日曜日。
俺とファブリスは池袋にいた。
駅からその親戚の家までは30分ほどかかるらしくかなり歩かされた。
そういえば俺の親戚も池袋に住んでたな。
あん時は「ミカンのおばちゃん」って呼んでたっけ。
そう心のなかで呟き俺は過去の思い出に浸っていた。
当時、俺は幼稚園生だった。
池袋には親戚のおばさんがミカンをくれたことから俺はおばさんのことを「ミカンのおばちゃん」と呼ぶようになったのだ。
我ながらヤバいあだ名だな、と思い口元をほころばせる。
そして再び前を向いて歩き出した。




