74 黒髪の彼と銀髪の少女③
俺は彼に出されたお茶を飲んだ。
そして一呼吸すると話し始めた。
「私の名前はルーナと言います。気軽にルーナと呼んでください」
俺がそう言うと彼は慌てた様子で自己紹介をした。
「え、えーと俺の名前は黒宮龍之介って言います。俺のことは龍之介と呼んでください」
「いや、ファブリスと呼ばせていただきます」
俺は彼にそう言い返す。
自分でもこの発言はヤバいと思った。
だけどファブリスと同じ顔の彼を違う名前で言うのはかなり抵抗がある。
彼はその言葉を聞いて不思議そうに聞いてきた。
「……ファブリス?なぜですか?」
記憶を失っている彼にとってはファブリスという名前は聞き覚えがないだろう。
しかし俺は彼には早く記憶を戻してもらいたい。
そういう考えもあって、そのわけを彼に話す。
「これから私が言う事はあなたにとって少々混乱を招くものかもしれません。それでもいいですか?」
俺がそう聞くと彼は頷いた。
「いきなりですがあなたはこの世界の人間ではありません。言うなら人間ですらありません」
「は?」
(異世界の人間だっていうのか!?まさかな……)
俺の発言に呆れたように彼はため息をつく。
「あなたは記憶喪失になっていて覚えていないでしょうがあなたの本名はファブリス=ドラグーンです。私はあなたを探しに来たのですが……まさかこんなことになっているなんて……」
俺は色々とこみあげてきて黙る。
しばらくすると彼が口を開いた。
「ちなみに……記憶を失う前の俺とはどういう関係で?」
俺はその質問に対して機械のように答える。
「えーとファブリスに馬鹿みたいにアプローチされまくっていて断り続けてたけど、なぜか一緒の家に住んでた、という関係です」
「……ゴメン。どゆこと?」
彼は俺の言葉が意味不明すぎたようでどう反応すればいいのか困っていた。
(つまり記憶を失う前の俺が彼女に告りまくっていたけどフラれてて、それでなぜか一緒に住んでたってこと?なんだよそれ)
そんなことを考えながらも彼は違う言葉を口にしていた。
「あのさ……俺、君のことを襲ったりしてなかった?ちょっとそんなことしてたらショックだけどさ……」
しかしその心配は杞憂に終わった。
「大丈夫ですよ。そこのところは一応しっかりしてたので。あ。でも一回だけお風呂に入ってる途中に凸ってきたことが……」
「あーあー聞こえない」
そう言って彼は俺の言葉を遮った。
よほどそういうのが嫌いなのだろう。
「それで?ここに来た理由は?」
彼は話題を変えようと俺に尋ねる。
「ここにはあなたに会いに来ました。ただ記憶が戻らないと帰れないので、記憶を戻してもらう必要がありますね」
「なるほど……」
彼はすこしの間、黙る。
しばらくの沈黙のあと、俺は思い出したように彼にあることを言った。
「はやく記憶を戻すためにもあちらの世界での話し方で話してもいいですか?一人称が普段は私ではないので」
「いいですよ。ちなみに一人称はなにを使っているのですか?」
彼は自分とか、僕なのかなと期待してそう聞く。
だが返って来た返事は予想とは違った。
「私の一人称は『俺』、です」
「へ、へぇ……」
(「俺」って結構変わってるな……。そういう人もいるのか……)
そう思いながら彼は目の前の少女の話を聞いていた。




