73 黒髪の彼と銀髪の少女②
俺のからだを光が包んだ。
『もういいですよ』
なぜかエコーがかかったような声のクソ女神にそう言われ、俺はゆっくり目を開けた。
そこには下にアスファルトの道路、そしてまわりにはコンクリートでできた住宅街が広がっていた。
明らかに、あちらの世界ではない。
そして目の前には一軒のアパートがある。
「……ここは?」
俺はクソ女神に聞くが、クソ女神の姿が見えない。
俺はキョロキョロとまわりを見渡す。
するとどこからかクソ女神の声が聞こえてきた。
『ここは2029年の新宿区です。ここに彼が住んでいます。あ。ちなみに私はそちらには行けないので意識に直接、話しかけてます』
俺はそれを聞いて絶句した。
もしこのクソ女神の言う事が本当なら俺が死んでから数年経っていることになるからだ。
『さて、先程言った条件についてですが……』
クソ女神は一呼吸置くと再び話し始めた。
『これはすこし……あなたにとってはショックを受けるかもしれません……』
俺はその言葉に一瞬だけ戸惑う。
でも俺はそれでもと。
「構わない。言ってくれ」
俺はクソ女神に返事をする。
するとクソ女神はそれをしかと受け取ったように口を開いた。
『私が出す条件……それは……』
それに続いた言葉を俺は一文字も漏らさずに聞いた。
「……ファブリスが、記憶喪失……?」
俺はクソ女神の言ったことに大きくショックを受ける。
そのクソ女神が出してきた条件はファブリスの記憶が戻るまでは帰ることができないというものだった。
そもそも俺はファブリスが記憶喪失だということを知らなかったため、いきなり彼女に記憶喪失になっていると聞いて動揺した。
「なんで……ファブリスは記憶喪失に……?」
俺は色々と考えながらもクソ女神に聞く。
『彼の目的は龍神になること。その条件は不明。ならば龍神に会いに行けばいいということですよ』
「あ」
俺はある事実に気づく。
ファブリスの目的は龍神になることだ。
でも彼は龍神になる方法を知らなかった。
自分の考えていた龍神になる方法は間違っていたから、だからファブリスは龍神のいた場所の規則性を探していたんだ。
それでスリジエにたどり着いて、なにかの拍子にこの世界に送られたのか……
『つまり彼は龍神に会いに行って、それで記憶をなくした』
「そしていまに至る、と?」
『はい』
ということは龍神はこの世界にいたりするのか……?
まさかな。そんなわけない。
そんな都合のいいことがあるわけがないじゃないか。
俺はなにかと考えすぎて頭がおかしくなりそうだった。
『いま彼はこのアパートの201号室にいます。これから行きましょうか』
俺はそれに頷いて階段を昇っていく。
その201号室は二階の階段のすぐそばにあった。
俺はそのインターホンを鳴らす。
するとなかから一人の黒髪の少年が出てきた。
その人物の顔は嫌というほど知っている顔で、見るのがすこしキツイ。
それでも俺は彼の顔を見なくてはいけないと彼の顔を見る。
それから二人をしばらく沈黙が包んだ。
その沈黙を破ったのは黒髪の彼だった。
「あの……どちら様で?」




