32 ただあなたを信じて
俺たちはお風呂を出た後、夜通し恋バナをしまくった。
「ルーナさんは告白とかされたことはあるのですか?」
「私ですか?私は…」
ファブリスのあれは告白に含まれるのだろうか?
ただ自分の婚約者になってくれと言われただけではっきりと真正面から好きと言ってくれたことがない気がする。
「…さん?ルーナさん?」
「あ、はい」
俺は我に返ってセレスティアのほうを向く。
「大丈夫ですか?さっきからボケーとしていましたけど」
「大丈夫です」
「で?ルーナさんは告白されたことがあるんですか?」
フェルナンドが身を乗り出して興味津々に尋ねてくる。
「ない…と思います」
「あれ?お兄ちゃんには婚約者になってくれとか言われてなかった?」
「あれはカウントされるんですか?ファブリスさんは私のこと…やめません?この話」
自分で言っていてすこし恥ずかしくなったので俺は恋バナをやめることを提案した。
「まぁ私たちみたいな恋愛に関わらない人が話していても面白くないですからね」
「たしかにそうだね。あと、私そろそろ帰らないといけないから。じゃ!」
そう言うとフェルナンドは部屋から飛び出してしまった。
前世では一回だけ告白されたことがあった。
小学五年生のとき、伊織春奈という女子が俺に告白してきたのだ。
当時はあまり女子に興味がなかったから断ったが。
俺はお茶を飲もうとカップを掴むがもう中身は消えていた。
「セレスティアさん、お茶のおかわりはいりますか?」
「お願いします」
俺はお茶を入れるためにベッドから立った。
その時、俺の目に数秒後の未来が映し出された。
俺は歩みを止める。
「セレスティアさん」
「なんでしょうか?」
セレスティアがなにか?という声で尋ねる。
俺はそんなセレスティアの声を聞いて悲しくなった。
でもこの人があんなことをするはずがないと信じて俺は口を開いた。
「その手に握っているダガーから手を放してくれませんか?」
「…っ!」
俺はゆっくりとセレスティアのほうを向く。
そしてその手には予想した通りダガーが握られていた。
「できれば本当だと思いたくなかった。なんでこんなことを?」
「言う必要がありますか?じきにあなたは私に殺されるんですよ?」
「いや、あなたは私を殺すことはできない」
俺はそう自信をもって言った。
「なんですって?」
「この数日間、私はあなたと過ごしてきました。あなたは私とファブリスのことを探っていたんですよね?でも私たちと話しているときのあなたの笑顔は本当に笑っている顔だった。そんな人がこの私を殺せるはずがない」
セレスティアが俯く。
そのダガーを握っている手が震えたように見えた。
「……なんで」
「・・・」
「なんでそう言い切れるんですか。私は…私はあなたを殺そうとしていたんですよ?」
「根拠はないです。ただあなたは私を殺せないと思っただけ。なんなら私のことをそのダガーで刺してみます?さあ」
そう言い俺は両手を広げた。
セレスティアがダガーをさらに強く握る。
「うわぁああああああああああああ!!!」
セレスティアが叫びながらダガーを刺そうとする。
だが足がすくみ一歩も踏み出せなかった。
「なんで…?」
手からダガーが落ちる。そしてセレスティアはその場で座り込んだ。
「言ったでしょう?あなたに私は殺せないって。その通りにあなたは私を殺せなかった。つまりあなたは優しい人だということです」
俺はセレスティアの目の前でしゃがみ頭を撫でる。
「あなたは強い人ですね。死の恐怖にも立ち向かえて」
セレスティアが泣きながら話す。
「死ぬことは怖いですよ。ただあなたを信じていただけです」
そう言うとセレスティアはさらに泣き出してしまった。




