106 迷宮
「いやぁ、懐かしいな」
俺はファブリスの背中に乗りながら、そう呟いた。
『だろうな。ここは俺とお前が初めて出会った場所だからな』
そのファブリスの返事に俺はうん、と返す。
俺たちがいまいるのはゴライ大迷宮付近の上空だ。
なぜ? と思った人もいるだろうが、これにはきちんと理由がある。
まず軍が敵に戦い勝利して敵の残党が敗走した。
そして敵が逃げた先がゴライ大迷宮だったというわけだ。
ちなみに第三軍と戦っていたほうは国に帰ったらしい。
まぁいつかまた攻めてくるだろう。
自分的には来ないでほしいが。
そんなことを考えているといつの間にかファブリスが地面に着地していた。
俺は黙って背中から降りる。
「じゃあルーナ――」
「わかってる」
そう言うと俺は姿を刀に変えた。
するとファブリスは満足したように頷いて部下たちに指示を始めた。
このゴライ大迷宮は悪魔たちのテリトリーだ。
だから悪魔たちは自由にここに入ることができる。
そんな悪魔たちが従う恐るべき存在がいる。
鑑定をすることができず、常に魔力のオーラを放っている人物。
それは女神トルスマンだった。
女神は圧倒的な強さで悪魔たちを支配し、なぜかニュードラグーンに攻めるように命令した。
そして敗北したあとはこの逃げ場のない(テレポートすれば逃げられるが)ゴライ大迷宮に立てこもった。
「女神様、本当にここにいてよろしいのですか?」
一人の悪魔が女神に尋ねる。
すると女神はニヤニヤとしながらそれに答えた。
「ええ、もちろんですよ。どうせ敵もここまでたどり着けないでしょうしね」
その後に女神は二人以外は、と小声で呟いた。
いつまでもニヤニヤし続ける女神を悪魔たちは気味悪く思いながら見つめる。
そしていつか、この人に殺されるのではないだろうかと思った。
「さて状況は?」
女神が一人の悪魔に尋ねる。
すると表情を強ばらせながら一人の悪魔が答えた。
「敵は魔物の攻撃を受け、早々に撤退したようです。しかし大きな反応が次々に魔物を突破しています」
それを聞いて女神以外の人がざわついた。
というのも迷宮内にいる魔物はすべてかなりの強さを誇っていて、そう簡単に突破されるはずがないからだ。
「なっ……! 敵が上層を突破しました!」
「意外と早いですねぇ」
その報告に女神はいかにも余裕そうなかんじで言う。
その女神の様子を見た悪魔たちは本当に大丈夫だろうか? と心配になった。
しかし女神はそもそも魔物の壁で二人を殺そうとは思っていなかった。
つまりあえてここまで到達させて自分が直接倒すということだ。
魔物と戦えば魔力は消費していくし、片方は魔力が尽きるのが早い。
そこを叩けば二人を同時に殺すことができると女神は考えていた。
「中層を突破!」
そして次こそ本当に自分を止められる人物はいなくなると。
こんなことならあの娘を転生させなければよかった、と女神は深くため息をつく。
男を女にしたらどんなことになるのかと最初はふざけて転生させた。
でもそれがこんなにも強くなるなんて思わなかった。
しかも自分は特殊能力を与えた覚えはない。
ならば誰が与えたのだろう、と首をかしげて女神は最下層の魔物を二人が突破したという報告を聞いていた。




