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「どういうことだよ」
エメリヒの声が低くなる。
ユリウスはエメリヒを見つめるとチラリと私を見た。
え、何?
エメリヒまで私を見るとなぜか無言になり「分かった」と頷いた。
「えっ!?何で??」
全然分かんないんですけど!?
エメリヒとユリウスって仲悪いように見えて、ホントは違うの??
私の反応を拒絶と感じたアドルフが「あ~」と頭をかいた。
「やっぱり嫌だよな。ごめん」
その「嫌だよな」はおそらく私を魔物と勘違いして攻撃したことを言っているのだろう。
でもそれは誤解だと分かってもらえたし、元々は心配して声をかけてくれた人だ。
そんな人を嫌だとは思わない。
「違います!あの二人が以心伝心してて、何でって思っただけで」
私はアドルフを嫌がってないと説明する。エメリヒとユリウスはなぜか能面のような顔になっていたけど。
「え~と、じゃあ俺も同行していいのかな?」
彼の申し訳なさそうな顔にこっちが申し訳なくなる。
言い出しっぺのユリウスを見ると頷かれた。
ユリウスが同行を決めたってことは彼の仕事に関係してるのかなと思った。
それなら私に異存はない。
だってユリウスが同行しているのは私の体のためで、成り行きで私達の事情に巻き込んでいるのだから。こちらも協力するのは当たり前だ。
「はい!大丈夫です」
私の返答に心底ホッとし「良かった」とくしゃっとした笑顔を見せてくれた。
あ…そうか。
アドルフって、なんかエルンストに雰囲気が似てるんだ。
エルンストの方がもっと大人で落ち着いているけど、いつでもこちらを受け入れてくれそうな包容力と穏やかさがある。
私の中で一気にアドルフへの好感度が上がった。
「あーえっと、今からどうするんだ?昼飯?それとも先に宿取りに行くか?」
アドルフがそう切り出してくれて、まずは宿に荷物を置くことになった。
アドルフはアーテムを拠点に仕事をしているらしく、町にはそれなりに詳しいと話してくれた。そして彼がいつも利用している割安の宿は私みたいな女の子には向かないと、女性冒険者が多く利用している宿を教えてくれた。
ユリウスの要望でアドルフも私達と同じ宿、同じ部屋に泊まることになった。アドルフは私に遠慮して断ろうとしたが、ユリウスの「ダメだ」の一言で同室になった。
「なあ、あの人いつもあんな感じなの?」
アドルフは戸惑った様子で私に聞いてきた。
「まあ…概ね…」
私は苦笑いしつつ頷く。
「でもすごく優しいんですよ」
そう付け加えると
「…あんたにはそうだろうなぁ…」
とよく分からない呟きが返ってきた。
宿が決まり荷物を置くとアドルフは私達が今食べたい物を確認してくれて、全員一致で「肉」となった。
「肉っていっても女の子もいるし、野菜とか甘い物とかある方がいいよな」
そんな風に私のことも考えてくれて、以前女性冒険者と行ったというお店に向かった。
アドルフの連れて行ってくれたお店は清潔感があり多くの女性客で賑わっていた。
そんな中にユリウスとエメリヒ、そしてアドルフが入って来たものだから、女性の視線を一気に集めてしまったのだが。
なんだろう…この人達は。フードを被っていても前髪で顔が隠れていても、イケメンオーラが出てるのかな。
私は無の境地になり、空気に徹してついていった。
「どれにする?」
メニューを私達が見やすいように広げてくれたアドルフ。
そしてお店のおすすめなどを説明してくれた。
お目当ての肉料理は鶏・豚とそれぞれ串焼き系からハーブの蒸し焼きなど定番の調理法ではあるものの使われているハーブの種類が豊富だったり、女性が楽しんで選べるようになっていた。
そしてサイドメニューには野菜を使ったスープや炒め物、サラダなどもある。
二種類だけだが甘いパイもあった。
でも値段はお手頃で。
アドルフが言うにはここでは複数の料理を頼んで皆でシェアする食べ方が多いそうで、私達も各々食べたい料理を頼み皆で一緒に食べた。もちろん甘いパイも二種類頼んで、エメリヒと半分こした。確かに女子向けなお店だった。
ユリウス達への熱い視線は気になったものの、私は大満足だった。
「すごく美味しかったです!ありがとうございます、アドルフさん!」
私は満腹になりご機嫌である。
「ならよかった。肉料理ならガツンとしたやつもあるんだけど、そっちの店は男ばっかだったからさ」
アドルフの口ぶりではエメリヒとユリウスだけならそっちでもよかったようで。
「私平気ですよ?ガツンとしたのも食べてみたいです」
私も食べたいアピールすると次はそこに連れて行ってくれると約束してくれた。
アドルフとリナが楽しそうに話しながら歩いている後ろを、エメリヒとユリウスがついてきていた。
「…あっという間に打ち解けたな…」
エメリヒの感想にユリウスも同意する。
だが後ろから見ているとさすがと言うべきか、アドルフはリナが他人とぶつからないようにさりげなく誘導し、リナを見る人間からは視線を遮る位置を常に歩いている。
『おい犬、しっかり小娘を守れ』
アドルフはユリウスに言われるまでもなく、それをしっかり実践しているようだ。
「で、何であいつ連れて行くことになったの?」
エメリヒはリナから目を離すことなくユリウスに聞いた。
「奴は獣人だ」
意外な単語が出てきて驚くエメリヒ。
「リナの中に混じるイーヴォ殿の魔力に気づかれた」
獣人は人より五感が鋭いと言う。それで気づいてしまったのだろうと想像がついたエメリヒ。
ユリウスは昨日彼が見たアドルフとイーヴォの様子をエメリヒに話して聞かせた。
エメリヒはイーヴォがリナの姿でそんなことをしたのかと愕然とした。
「連れて行く理由は分かったけど、部屋まで同じにする必要はなかったんじゃないのか?」
エメリヒの意見はもっともで、まだ信用に足る人物か分からなかったからだ。
「奴は獣人だ。危機察知能力が高い。同室の方が何かと便利だ」
ユリウスの意見ももっともだった。効率重視な彼らしい判断である。
だがエメリヒ的にはこれ以上リナの周りに男が増えるのは好ましくないと思った。
エメリヒとユリウスの内緒話を知らずに私はアドルフのことをいろいろ聞いていた。
アドルフは二十二歳、ソロで仕事をしているらしい。優しくてカッコいいのに彼女はいないらしい。私が十六歳だと言うと「へぇ、もっと年下かと思った」とあっさりとした反応で今までで一番マシだった。
そして彼がアーテムを拠点にして半年以上が経つと知り、エルンストやアンネリーエに似た人を見たり聞いたりしたことがないか尋ねてみたのだ。
すると二か月程前にずぶぬれで宿に駆け込んだ美形の男女がいたらしいと言うのだ。
「え!?それ本当ですか?」
私はここにきて二人の手がかりが掴めたのかと気が急いてしまう。
「それで!その人達はどうなったんですか?」
私はアドルフに腕に縋り続きを促した。
「さ、さあ?俺も飲み屋で誰かが話してるのを聞いただけだから」
「そんな…」
アドルフは戸惑った様子で私の腕を支えるように手を添えると困った顔をした。
「どうした?」
私がつい声を上げたせいでエメリヒとユリウスが心配して駆け寄ってきた。
「エメ…、ユリウスさん」
私は今の話を二人に伝えた。
「父さん達の可能性はあるけど…」
エメリヒは何か考え込む。
「とりあえず彼に事情を説明しよう」
一番の情報を持っているアドルフに私達の事情を共有すべく、一旦宿に戻ることになった。
「は~…そういうことか…大変だったんだなあ…」
アドルフは長いため息の後そう言った。
宿に戻るとアドルフに今までの出来事を話した。
実家から追われていること、盗賊に襲われ両親が行方不明になっていること、盗賊は捕まったがブンゲルト子爵の依頼でユリウスがエメリヒと私を保護するべく私達の顔が知られていない隣国ドリーネルケ王国に向かっていること、その途中で両親の行方を捜していること。
「じゃあ俺が聞いた『宿に駆け込んだ男女』が両親かもしれないってことか」
エメリヒと私が頷くと「よし」と彼は両足を叩いた。
「今から確認しに行こうぜ」
彼は立ち上がるとあっさりそう言った。




