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やり直し転移は選べない  作者: 望月蜜桃


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 リナがいないことにエメリヒとユリウスが気づいたのは、アーテムへ向かう道をだいぶ進んでからだった。


 かなり後方で突然イーヴォの魔力が放たれたのだ。メーネルでリナの体から出た時とは違い、ある程度抑えられた魔力。

 それでもここ、この箱馬車の中ではないことは確かだった。


 ユリウスはゆっくりと走る箱馬車のステップに足をかけると台に上がり扉を開けた。中を見るとスイエルと侍女、責任者の男性の三人しか乗っていない。

「リナは?」

 走行中に突然扉を開けられ本来なら怒る場面だがユリウスの声は怖いくら真剣で、責任者の男性は答えた。

「昨日のように荷馬車に乗ってるんじゃ…」

 その言葉を聞くと扉を閉めて飛び降りた。そしてそのまま四台目の幌馬車へ走る。


 昨日ユリウスと並んで座っていた場所には誰もいない。積まれた荷物のみだった。

 ユリウスは最後尾を警護しているエメリヒのところまで走ると

「リナがいない。魔力が放たれたところまで戻る。お前は隊商を停めて事情を確認しろ。俺が戻るまで隊を動かすな」


 イーヴォの魔力を感じていたエメリヒも異変に気付いていた。ユリウスの話を聞くと頷き、護衛の指揮を執っている上級パーティー『ウルス』のリーダーのもとへと走った。

 ユリウスは駆け出しそのまま飛行魔法であっという間に飛んでいった。


 エメリヒもリーダーを捕まえると訴えた。


「リナがいなくなった。馬車を停めて下さい」







 ガンッ!!


 エメリヒは箱馬車の扉の枠を強く蹴った。




「正直に言え」


 エメリヒの殺気にスイエルは真っ青な顔で体を震わせるだけで何も答えない。


 今にも掴みかかりそうな殺気に『ウルス』のリーダーが止めに入る。

「ユリウスさんが戻るのを待とう。それまでは俺も隊を動かさない」

 落ち着かせようとエメリヒの目をみてしっかりと言葉を伝える。


 エメリヒは一度俯くと顔を上げた。スイエルを見据え

「逃げたら殺す」

 そう言うと箱馬車の扉を閉める。

 そのまま馬車に寄りかかり「待ちます」とリーダーに答えた。




 箱馬車の中は重い空気になっていた。

「はぁ…困ったことになったなぁ。お嬢様は知らないんですよね?何もしてないですよね?」

 責任者の男性は焦った様子でスイエルに確認する。


 だが何も返事しない彼女に痺れを切らしスイエルの侍女を見る。

「リナさんがこの馬車降りて戻るところ、見たんだよね?」


 リナが自分で降りていなくなったのであれば、過失を問われたとしても不慮の事故として処理できる。だが商会の人間が故意に、となると今後の信用問題にも関わってくる。

 責任者の男性はリナの自己責任に持っていきたいのだ。


「いえ…私は食器を返しに馬車を降りていたので…」

 侍女はそう言うとチラリとスイエルを見る。

「私が戻った時にはリナさんはもういなくて…お嬢様が荷馬車に戻られたと…」

 責任者の男性は真っ青になり「ああ…」と声を漏らした。


「お嬢様…あなたは本当に何もしていないんですよね?」

 再度男が念を押すと「知らないわ」とスイエルはそっぽを向いた。


「分かりました…それで押し通してください。ですが会頭には報告します。いいですね」

 男性はもう迷ってはいなかった。商会の信用を守るのが彼の役目だからだ。







 アーテムはもう目と鼻の先である。

 だが町に入らず、その手前に隊商を停めるという緊急事態。だが荷馬車を守るという護衛任務は続いている。


 中級パーティー『オングル』のビアンカは周囲を警戒しつつ、少し離れた場所で同じく警戒にあたっているケヴィンに声をかけた。

「あの子、大丈夫かな」

 ケヴィンは人の好さそうなそばかす顔をしょんぼりさせて答えた。

「きっと大丈夫だよ。ユリウスさんが飛んで行ったんだから」


 文字通り飛んで行ったユリウスを見て護衛にあたっていた『ウルス』と『オングル』のメンバーは驚いた。


 それはこの世界で飛行魔法を使える人間がほとんどいないからだ。


 飛行魔法は膨大な魔力が必要で、しかも魔力操作に長けていないと使えない魔法だ。使える人間はそれだけで引く手あまたの存在になる。

 おそらくユリウスはこの護衛任務にあたっている冒険者の誰よりも強いだろうと、さっきの動きで分かってしまったのだ。


「ユリウスさん達が騒ぎ出す前に魔物の魔力感じたよね…無事だといいんだけど…」

 ビアンカはリナが魔物に襲われていないか、それを心配していた。どんなにユリウスが強くても間に合わなければ意味がないからだ。

 ケヴィンもビアンカと同じ心配をしていた。

 でも…。


「信じよう、大丈夫だって」


「…そうだね」


 ケヴィンもビアンカもユリウスが飛んで行った方角を見た。リナの無事を祈って。







 体に感じる振動で私は目を覚ました。

「ん…」

 視界に広がったのは真っ黒な外套と美しい顎のライン。

「目が覚めたか?」


 あ…。


 声の主がユリウスと分かり思わずしがみついてしまった。

「よかった…置いてかれてなかった…」


 独りぽつんと、誰もいない道に立った時の孤独感。


 でもやっぱり迎えに来てくれた。

 ユリウスのぬくもりを感じて安堵する。


 ユリウスは速度を落としゆっくりと止まった。

「すまなかった…」

 ユリウスは抱きかかえていた手に力を込めた。

 と、痛みに体がビクリと跳ねた。

「っ…」

 ユリウスはすぐ力を抜いてそっと降ろしてくれた。

「ケガをしてるのか?」


 そうだった、置いて行かれた原因…。


「森の斜面を転がり落ちたんだとよ」

 私が説明するより早く答えた声。

 声の方を見るとーー。


「ひっ!」

 この人ーー!!


 驚きすぎて足がもつれよろけてしまう。

 咄嗟に掴んだユリウスの外套。

 ユリウスがさっと支えてくれ転びはしなかったものの、ナイフを投げつけられたことを思い出し体が硬直した。


「ああ!大丈夫!!誤解は解けたから!!」

 彼は両手を突き出し手を振った。

 そしてパンと両手を合わせるとギュッと目を瞑った。


「ごめん!!ホント悪かった」


 そして合わせた手を掲げ、頭を下げてくれた。


 彼の様子に嘘はないようで、出会った時に声をかけてくれた気さくさしか感じなかった。




「あの…分かってもらえたなら…大丈夫です。顔を上げて下さい」

 そう伝えると彼はおずおずと私の顔色を窺うように顔を上げた。


「ホントにごめんな。怖い思いさせて」

 あんまり申し訳なさそうな顔をするから、こっちの気が抜けてしまう。

「…ふふっ、はい。怖かったですけど、もう気にしないで下さい」


 ナイフのケガがないところを見るときっとユリウスが助けてくれたんだろう。


 私はユリウスを見上げる。

「ユリウスさんが助けてくれたんですよね。ありがとうございます」

 私を見たユリウスは何とも言えない複雑な顔をした。




「…ああ」

 返事にはやや間があった。


「えと、誤解も?」




「…そうだな」


 ん?歯切れが悪いな。どうしたんだろう?




「それよりもケガをしているのなら見せなさい」

 ユリウスに言われ思い出す。

「ああ…捻ったりはしてないんですけど…」


 そしてケガをした経緯をユリウスに話すことになった。







「…そうか」

 聞き終えた時のユリウスの声があまりにも感情がなくて冷やりとした。


「まあまあ、話はそれぐらいで。この子の弟が待ってんだろ?治療して早く行こうぜ。日が暮れちまうよ!」

 すかさずそう声をかけてくれた彼。私もそれに頷きユリウスを見るとさっきまでの怖い感じはなく、いつものユリウスに戻っていた。


「ああ、そうだ。俺はアドルフ。えっとリナ、って言うんだよな?よろしくな!」

 そう自己紹介されて私も「よろしくお願いします」と返事をした。

 アドルフのおかげで場の空気が和らいだ。


 その後はケガの確認と治療をしてもらった。

 服のおかげで擦り傷は大したことはなかったが、全身の打ち身の方は酷かった。

 見える部分はすぐに回復魔法をかけてもらったが、外で服を脱ぐわけにいかず服で隠れた部分の打ち身はアーテムの町の宿に入ってからとなった。




 そして移動についてはもう一悶着あった。

「いいです、ユリウスさん。自分で歩きます」


 私が頑なに抱きかかえられるのを拒んだからだ。


 ユリウスは「大丈夫だ」の一点張りで私が距離をとって断るという膠着状態である。


「あのさ、マジで日が暮れるよ?俺が背負っていこうか?」

 アドルフの言葉も今回は助け船ではない。

「いいえ!!……ぃので」

 思わず小声になってしまう。でもアドルフにはしっかり聞こえていたようで。

「ん?重い?誰が?」

 キョトンとした顔になる。そして恥ずかしさで俯く私とユリウスを交互に見る。

「いや…軽々と抱えて走ってたけど?」

「それは!!…無理してたんです」

 アドルフのフォローをすかさず否定してしまう。


 もういやだ…なんで初対面のアドルフにまでこんなこと暴露しなくちゃいけないんだ!


 俯く私にユリウスがずんずんと近づいてきたかと思ったら無理やり抱き上げた。

「きゃぁっ」

「重くないと言っている」

 そう言うと、有無を言わせずアドルフに合図し走り出した。




 ちょっと~~!!ユリウスのバカ~~!!




 あまりの速さに私は涙目でしがみつくしかできなくて、悔し恥ずかしい思いをするのだった。








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