178 番外編 狩りの日(1)
その日は、いつもより、少し早い時間に起きた。
ハルムは手早く支度を済ませると、いつもよりも分厚いブーツを履く。
「わたくしも行きましょうか?」
アセリアがそう声をかけてきたので、笑ってみせる。
「大丈夫だよ。相手はリーフだ。心配するようなことなんてないから」
「そうですわね」
「ふぅ」とアセリアが窓の外を見る。
外はすっかり冬前の空気。
今日から数日は、男たちが狩りに出るのだ。
村の広場では、大勢の人間が集まっていた。
男たちは手に手に銃を持っている。若者から年寄りまで、70人はいるだろうか。
けれど、正直、これだけ大々的に狩りに行っても、正直冬の生活は心許ない。
リーフは比較的小さな動物だ。時折獲れる鳥も、それほど大きなものはいないようだった。
これまでの冬は、肉をそれほど食べることも叶わず、干した野菜やハーブ、それに根っこなどをかじって飢えを凌いでいたらしい。
思いの外、冬越しは大変な村だ。気合いも入るというもの。
アセリアの方は、どうやら近くの大きな湖で獲れる魚を買えないか考えているようで、今度また香袋やそれにあたる何かを作ろうと研究中だ。
今日は、女性たちは獲ってきたリーフを捌くため、広場で準備をしている。
大きなテーブル。まな板にナイフ。そして、大量のハーブ。
大量のリーフともなれば、よほど臭いのだろう。
「準備はいいかー!?」
オタルさんの掛け声で、人々がざわめく。
「おー!」
と一際大きな声で応えているのはバルドだ。
狩りが好きなのかなんなのか知らないが、うるさいやつだ。正直、今でも気に入らない人間の代表であることに代わりはなかった。
俺は、アセリアと向かい合う。
「行ってくる」
「ええ、待ってますわ」
下から覗き込むその姿があまりにも愛しい。
……口付けをしてもいいだろうか。
こういう時にキスで挨拶をする恋人同士がいることは、公爵家での仕事中、何度か見たことがあった。
巨大な公爵家の中のこと、使用人同士そういう関係ということは時折あったものだったのだ。
……今なら、自然なんじゃないか?
アセリアが困ったように周りを見渡す。
確かに、ものすごく視線は感じるが。
……ダメだろうか。
アセリアが視線をやった先には、ウィンリー、ミラ、ベラの三人娘がいた。
三人とも口に手を押し当て、ランランと輝く瞳でこちらを見ていた。
他にも大勢がチラチラとこちらを見ている。子供たちまで騒がずに静かに見守っているくらいだった。
ミラが震える声で、
「キ、ス……!?」
と小さく呟く。
「し、しませんわよっ」
アセリアが真っ赤な顔で手を振る。
……しないか。ダメか。
番外編は、二人がくっついたあとの村での生活シリーズです。またしばらくよろしくね!




