142 この方は一体何者ですかしら!?(3)
ハルムは、ほどなくして戻って来た。
普段通りを装っていたけれど、時々厳しい顔になる。
何を話したのか聞けないまま、気付けば夕方になっていた。
「あの貴族のお嬢様、村長の家に泊まるんですって」
と教えてくれたのはウィンリーだった。
「……そうですの」
まさか、この村に滞在するだなんて思っていなかった。
けれど、ここから王都まで数時間かかる。馬車で来た直後にすぐ馬車で帰るのは、確かにあまり現実的ではない。
こんなことが気になるなんて……、気にし過ぎですわ。
そのまま、夕食の時間になる。
ハルムが作ってくれるスープは、時期的に食材が増えていることもあり、日に日に美味しくなっていた。
二人でいつも通り黙って食事をとる。
もう、村人たちは喋りながら食事をすることを知っているけれど、静かに食事をすることは、相変わらず当たり前になっていた。
食事が終わると同時に、ハルムが姿勢を正し、こちらを向いた。
何か話があるのだとわかる。
もし、ここを出ていくなんていう話だったら?
不安を抱え、それを顔に出すわけにもいかず、アセリアは真剣な顔のハルムと向き合った。
「お嬢様。お話があります」
「なんですの」
ここまで来たら、もう覚悟を決めて聞いてしまった方がいいとすら思う。
「昼間来たお客様のことなんですけれど」
「ええ。あなたに会いに来たという方ね」
「はい。あれは、私の従姉妹なんです」
「従姉妹……」
なんだ。
なんて、拍子抜けする。
それならば、恋人の可能性よりは身近な親戚の可能性の方が大きいですかしらね。
従姉妹同士で結婚出来ないわけではない。
けれど、貴族の結婚とは、家同士の契約であり結びつきだ。
そんな近い親戚と結婚したところでメリットはない。
それでも。
では、どうして。
と、アセリアは考えざるを得ない。
ではどうして、ハルムはこんなに厳しい顔をしているんですの?
それは、これから明かされるはず。なんて考えたのは甘かったかもしれなかった。
ハルムの説明は、
「住んでいる場所が判明したので、様子を見に来ることにしたそうです」
というものだけだった。
言っていることは間違っていないかもしれない。
貴族の家なら当主が出かけてしまうと途端に情報が漏れてしまう。娘や息子の方が動きやすいことはあるものだ。
問い詰めたい。
そう思うものの、それは出来ないことだと、アセリアにはもうわかっていた。
アセリアがもう貴族ではないのと同時に、ハルムももう執事ではない。
いくら忠誠心があるといっても、お給料も出せていない関係で、縛り付けることは出来ない。
ましてや、プライベートなことを問い詰めるなんて。
ただの従姉妹だったからいいじゃないか、と、自分に言い聞かせる。
今アセリアには、そう思うことで前を向くことしか、出来ることがなかったのだった。
さて、いったい何があるというのか。




