141 この方は一体何者ですかしら!?(2)
どうしてですの。
崩れそうな表情を、なんとか保つ。
目の前で、ハルムが困った顔をする。
ミルドリックはニッコリとハルムに笑いかけた。
「ハルム様、わたくし、ハルム様と二人でお話がしたいです」
ハルムが、より一層眉根を寄せた。
「なんのお話なんですか」
ミルドリックが、ハルムの耳元へ口を寄せる。手で隠された口がいったい何を言葉にしたのかはアセリアにはわからない。
わからないけれど、ミルドリックの栗色の巻き毛はハルムへ近付いた。その香りが、ハルムにも届くくらいの距離まで。
ハルムは少し嫌そうな顔のまま頷き、こちらを向く。
ドキリとする。
「お嬢様」
嫌な予感がした。
「少し、話を聞いてきますね」
「……ええ」
やっぱり。
どうにも出来ず、二人の背中を見送る。
あんな顔をするなんて。
ハルムの後ろ姿を見送る。
普通なら、嫌そうな顔はそのまま嫌な気持ちと受け取ってしまいそうなものだ。
けれど、アセリアが嫌そうな顔のハルムを見たとき、そうとは思えなかった。
ハルムは執事だった時、いつだって無表情だった。
相手が誰であれ。どんな仕事であれ。
アセリアが知る限りでは、ハルムが表情を崩したことはない。
ということは、表情を崩す相手ということだ。
笑顔なら、牽制という場合もあるだろう。
貴族ならば使う手だ。
けれどあんな。
あんな、感情が出る表情をするなんて。
アセリアは、もうすっかり見えなくなったハルムの背中を探すようにそちらをじっと見ていた。
それだけ、ハルムとあの少女が親しいということだろう。
親戚だから?
ううん、わからない。
ハルムに、王都でそのような親しい人間がいるかどうかまでは、知らない。
血筋などは執事にするときに調べた。
執事は毎日会う人間だから、おかしなおじさま方がついていないか、調べるに越したことはなかった。
けれど、最終的にどんな人間と親しいのか、把握まではしていない。
もちろん帰省休暇は取っていたはずだ。
その中で、誰と会っていようと、監視をつけることはなかった。
ルーシエンとガルドルは当主同士が仲が良く、そんなものは必要なかった。
信頼していたから。
……もし、恋人がいたとしてもわからない。
『ハルム様』
ハルム様と呼ぶ相手は、どの程度親しいものなのだろう。
二人で消えていった場所に、アセリアはもう一度視線を送り、目を逸らした。
そこには、まだ村人たちに取り囲まれている馬車があった。
「あいつ、浮気か?」
「それはない」
なんていう声が聞こえる。
じっと手綱を握っている御者だけが、取り残されている。
ただ、親戚が顔を見に来たとか、こんな場所から救いに来たとか、そんなこともあるかもしれませんわ。
そこまで考えて、あの少女と共に行ってしまうハルムのことを思い描いてしまい、アセリアはその想像を振り払おうと頭を振った。
さて、何者でしょう?




