126 そんな話は聞きたくないです(2)
アセリアはじっとこちらを見ていた。
まるで、俺の質問がどういう意味なのかじっくり考えるように。
その瞳から、目を離すことが出来ない。
まるで、断頭台に立っているようだった。
君の言葉を。
待って。
待って。
待って。
アセリアは、瞳を逸らすことをしなかった。
「わたくし、」
アセリアの声に、心臓が硬まる。
「ダンスのお相手は決まっておりませんわよ」
その声に、息が出来なくなる。
決まって、ない──?
どうして……?
「今日は、その話だったんじゃなかったんですか?」
それは思わず出た言葉だった。
そこまで踏み込んでいい話ではないのに。
アセリアは、少しだけ驚いた顔をした。
「あら、ご存知だったのですわね」
そこでやっと、アセリアはハルムから視線を逸らした。少しだけ、過去を振り返る顔をする。
「結果的に、ダンスのお誘いはありませんでしたわ」
「バルドと、二人だったのでしょう?」
踏み込んではいけないと思いつつも。聞けば後悔するような気がしつつも。もう、止めることはできなかった。
「いいえ。ほとんどウィンリーと三人でしたわね」
三人?
確かに子供たちは、“デート”だと言っていたのに。
それは、ハルムには子供たちの聞き間違いや勘違いだとはどうしても思えないものだ。
バルドは確かに、アセリアを誘おうとしていた。少なくとも、朝アセリアに寄っていった時点では。
言い損ねたのか?
だったら──。
期待の気持ちが頭をもたげ、すぐにそんな期待はいけないとその気持ちを抑えつける。
何、考えてんだ。
冷や汗が額を濡らす。
「わたくし、」
アセリアの透き通った声が、静寂を破る。
「ハルムにお話があるのですけれど」
ダメだ。
話を変えさせるわけにはいかない。
この唯一のチャンスを手放したら終わりだ。
「その前に、私からいいですか」
アセリアが少しムッとする。
けれど、言わなければ後悔すると、そう思った。
もし、断られるとしても。
アイツより先に、手を伸ばさなければ──。
「ええ、いいですわ」
「お嬢様」
いつもの調子で言葉を紡ぐ。
「ダンスは、私と踊りませんか?」
真っ直ぐに見据える。
気持ちはバレてしまうだろうか。
けれど、言わなくては、きっと後悔した。
アセリアは、少しだけ、驚いた顔をしている。
「わたくし……」
アセリアの瞳が、じっとこちらを見た。
「そうしますわ」
言葉は簡素だった。
簡素だったけれど、確かに承諾の返事だった。
それ以上、俺は何も言うことが出来なかった。
何を言ってしまったのかと、少し自己嫌悪した。
目も合わせられない沈黙の時間がたっぷりあってから、
「ところで、お嬢様のお話はなんですか」
そう、遮ってしまった話を繋げようとしたのだけれど。
アセリアはニッコリと笑って、
「もう、忘れてしまいましたわ」
と、それだけを言ったのだった。
結婚の申し込みであって、ダンスの申し込みではなかったという認識なんですかね。それとも、あのダンスの申し込みはアセリアの中でノーカンなのか……。




