第51話「魔法学校の体育祭(2)」
授業が終わると、教室は一気に活気づいた。キオは少しだけぼーっとしたまま、机の上の教科書や筆記用具をゆっくりと鞄に詰めていた。
「キオ、大丈夫か? さっきから、少し顔色が優れないように見えるけど......体調でも悪いのか?」
隣の席から、オーウェンが心配そうに覗き込んできた。彼はキオの変化に敏感だ。キオは無理に笑おうとしたが、親友の前では繕うことも難しく、少し肩を落として正直な気持ちを漏らした。
「......うん、ごめん。ちょっとね。ベゼッセン先生が指導に来るって聞いて、反射的に......少しだけ気が重くなっちゃって」
「......そうか。君にとって、ベゼッセン先生は複雑な存在だよな」
オーウェンはすべてを察したように、キオの肩に力強く手を置いた。
「無理に強がることはない。もし、辛いことがあったら言ってくれ。僕が代わりに対応する」
その真っ直ぐな優しさに、キオの胸が少し軽くなった。
「ありがとう、オーウェン。助かるよ」
その時、後ろから足音が近づいてきた。
「キオ! オーウェン! 体育祭、楽しみね!」
明るい声の主はカリナだった。隣には、同じくらいワクワクした表情のルイもいた。
「精霊と一緒の頑張る体育祭って、どんな感じになるんだろうね。トロプやフレアと楽しめたらいいな」
二人の後ろからは、少し遠慮がちにセドリックも近づいてくる。彼は足元でトコトコと歩くコロネの様子を気にかけながら、はにかんだような笑みを浮かべた。
「僕も......コロネと一緒に頑張りたいな。コロネの相棒として、恥じないように練習しなきゃ」
いつもの五人が揃うと、教室の隅に停滞していた湿った空気は、一気に霧散していった。
「いい天気だし、中庭で作戦会議でもしようか?」
オーウェンの提案に、全員が賛成した。五人は賑やかな声と共に、中庭のベンチへと向かった。
―――
中庭の中央にそびえ立つ、大きな樫の木の下。そこはいつしか彼らの定位置になっていた。木漏れ日が地面に水玉模様の影を落とし、春の穏やかな陽光が五人を包み込む。
「やっぱり、体育祭でもベゼッセン先生が指導されるんだね」
ルイが少し背筋を伸ばしながら言った。
「ああ。精霊召喚儀式の時も中心になって仕切っていたし、何より、この国で精霊との協力や戦術について、あの人の右に出る者はいないと聞くからな。妥当な人選だろう」
オーウェンが、どこか分析的な口調で頷く。
「私はあの先生の精霊さんへの接し方や教え方は好きよ。メラメラちゃん達にも優しいし、授業の内容も分かりやすいし。あ、でもキオに酷いことしたことは許してないわ!」
カリナの言葉に、キオは少しだけ自嘲気味に微笑んだ。
『そうだよね。みんなにとっては、素晴らしい先生なんだ』
「キオ君......?」
ルイがキオの沈黙を心配して、顔を覗き込んできた。
「あ、ごめん。ちょっとだけ、別のことを考えちゃってた。大丈夫だよ」
キオは今度こそ、自然な笑顔を作った。
「体育祭、楽しみだね」
「うん、みんなで頑張ろうね」
ルイも嬉しそうにはにかんだ。
「それにしても、各競技、どんな感じなのかしら? 障害物競走とかもあるって聞いたけど、あくまで魔法を使うのよね?」
カリナがうーん、と首をひねる。
「精霊と協力して障害物を避けたり、くぐり抜けたりするのかもしれないな......」
オーウェンが腕を組み、真剣な表情で考え込んだ。
「例えば、風魔法で加速して障害物を避けたり、土で足場を作ったり。状況に応じた瞬時の判断が試されるんだろうな」
「僕も......コロネが小さいから、どう協力すればいいか、少し不安かな。大きな障害物があったら、僕がコロネを助けなきゃいけないし......」
セドリックが困ったように、足元で寝転がっているコロネを見つめた。コロネは「大丈夫だよ」と言うように、しっぽをぱたぱたと振っている。
「大丈夫だよ。大切なのは、スバルとどう協力するかだよ」
キオが優しく声をかけた。
しばらくの間、体育祭の競技と魔法がどう関わってくるのか、様々な想像が膨らみ、ワイワイと楽しく盛り上がった。
「そういえば......団体戦もあるんだよな」
オーウェンが、ふと思い出したように言った。
「チーム対抗の魔法合戦......。これこそ、僕たちの団結力が試される場じゃないか?」
「僕たちなら、きっと大丈夫だよ」
キオは自信ありげに言い放つ。
「そうだね。私たち、ずっと一緒に勉強してきたもんね」
キオの様子に、ルイもふふふと笑う。
五人は、互いに顔を見合わせて微笑んだ。この仲間たちとなら、どんな困難も乗り越えられる——そんな確信が、五人の心に芽生えていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
面白い、続きが気になると思っていただけましたら、
下の☆マークから評価や、ブックマーク(お気に入り登録)をしていただけると、執筆の励みになります!
(お気軽にコメントもいただけたら嬉しいです)
よろしくお願いします。




