準備は万端です
俺たちが気づいた違和感──
それは昨日まであった日常の変化をここにいる人達は何も無かったのように平然と暮らすこと──
例えば自分の娘が突然《消えて》しまったとする。普通ならば自ら探しに行くはずだし、捜索願などを提出するのではないだろうか?それは至極当然な行動パターンだ。
しかし帝都カナルギアの住民達はその普通のことをしない。何故か?純粋に気づいてないのだ。認識を阻害されているのだろう。
昨日まで2人で切り盛りしていた宿屋の相方が居なくなったとしても。明日誕生日を迎えるはずだった息子達が消えたとしてもだ。
先日のこと──
宿屋の女将さんことマリーと長男のマッケン、次男のリッケルの3人で出かける所に出くわした。聞くと『2日後がマッケンの誕生日なのよ。貧乏であまり大層なお祝いは出来ないけれどせめてこの子が欲しそうにする物を一つ買ってあげようって話になって今から買い物なの。』とマリーは少し照れながら嬉しそうに語っていた。
だがあの3人はあれから1度も姿を見せない。たまたま出くわさないだけかと思ったが違った。
俺は聞いたんだ。こんな会話を。
『おい。旦那?宿屋を1人で切り盛りするのは大変だろ?嫁さんでも貰ったらどうなんでぇ?』
「そうなんだよな。ここ数日何か知らんがしんどいんだ。パートナーでも探そうかな……」
こんな会話だった──
嫁さんを貰う?マリーがいるのに?あんなに可愛い息子2人も居るのにか?
ここ数日だけしんどいのを変に思わないのか?明らかにおかしい。
ここまで来ると俺はこの《違和感》の正体は巷で騒がれている《神隠し》なんだろうと思った。
そして《神隠し》が問題として上がらない理由──
それは……何者かの手によって《認識阻害》されているからだろうと。
俺は《郢曲》に所属していた時からずっと斥候に関する全てを行ってきた。罠や地形の変化などにも即座に適応し、毒や環境にも適する能力を必死で会得したのだ。それゆえ俺に《認識阻害》等の状態異常は無効なのである。
「さて……これはどうしたものか……」
宿屋の主人エッケンさんの《認識阻害》を解くのは容易だ。しかし今解くとどうなる?《嫁と子供を知らぬ間に失ったショック》から立ち直ることができるのか?協力者として話を聞きたかったが断念するしか無いだろう。
ではどうする?──
道行く人々に聞くのか?──それも無理だろう。
例えば恋人を目の前で《神隠し》にあっても認識阻害されていれば何が起こったのか分からなくなる。住民達に要らない不安や負担をかけるべきでは無い。
アレンは過去に目の前の崖がまるで恰も陸続きになっているような《認識阻害》に遭遇した事もある。それ程《認識阻害》とは恐ろしく厄介なものなのだ。
「これを理由に天帝に直談判に行くか……それしか無いな。」
召喚獣達を全て召喚し意見交換したが『アレン様に従います!』と全員が言った。彼らにも《認識阻害》がかかっていた様で俺が解いてやった。どれほど《認識阻害》が狡猾な手段であるかを身をもって体験し身震いしている召喚獣も居たほどだ。え?おしっこ行きたいわけじゃないよね?
『では…これから城へ乗り込むんですね?』
「うん。そうしようと思う。多分だけどいきなり戦闘になるかも知れない。念の為だけど皆装備を念入りに準備しておいてね?」
するとふたつの手が上がる。
アリスとアリサだ──
聞けば武器が欲しいとの事だ。確かに戦闘向きでは無い少女達。武器を持ったとしても剣や斧など扱えない武器が多い。そこで妄想召喚する事にした。時間は切迫しているが準備は念入りに。これが俺の座右の銘だ。
「希望する武器はある?」
紙とインクの付いた羽根を持たせるとサラサラ~っと絵にしていくアリス。
『『この様な武器が作れませんでしょうか?』』
これは……飛び道具?
「ふむふむ……硬い何かを爆発の勢いで飛ばせる飛び道具……と言った所か。爆発は何で起こすの?」
『かつてメギド様が創造された魔道具《拳銃》という物でございます。資料はこちらに。』
数十枚に及ぶびっしりと書かれた弾丸の形状や拳銃内部の図説。飛び切り目を引いたのは《えーけー47》だ。弾倉という硬い何かを沢山入れられる物がついていて半自動的に硬いものを撃つ事が出来ると書いてあった。
「ふむふむ……これなら……」
俺は早速眠りについた。脳内にイメージがあるうちに。
そしてそれは完成した。いや──完成された。
赤と青のシュールなゴシックドレス──
同色の淫靡に輝く《えーけー47》──
真っ白な顔に真紅の紅が引かれその妖艶さが際立つ。年齢にして10歳前後に見える彼女たちだがその美しさには息を飲むほどだ。
『『ありがとうございます。ご主人様。これで歯向かうものを蜂の巣にしてみせますわ!』』と恐ろしいことを口にする2人。
今回の妄想召喚では様々なものを《ついでに》召喚した。
チビには全ての攻撃を吸収する盾を。
クロには斬るものを全て溶かす大剣《轟炎之剣》を。
ヒカリには時間を操る《時空之眼鏡》を。
ジークには魔槍グングニルと対を成す《神槍ロンギヌス》を。
ライゴには大気より魔力を吸収するする《吸魔之錫杖》を。
ガウにはどんなものでも切り裂く《神滅石之抓》を。
テイラーには強すぎるので何も必要ないかと思ったが流石にちょっと可哀想なので《星屑之鏡》を。要らないと思うけどね。
準備は万端──いざ決戦の時だ!




