帝都カナルギア到着
ここは帝都カナルギア内──
国旗が飾られ槍や剣などが立てかけられている部屋。帝国への忠誠を誓ったもの達の忠義の証だ。国旗の数8つ。その全てが帝国の手中にあるという事だ。
元々帝都カナルギアは小さな国だった。帝都と名乗ったのもいずれ大きな国にしたくて名付けただけの弱小国。周辺の国から相手にもされないそれが帝都カナルギアだった。しかしこの数年の間に劇的な変化があったのだ。
「天帝マズール様。お呼びでしょうか?」黒髪を後ろで一つにまとめた片眼が潰れた隻眼の男が、これでもかと言う程豪華な服を着た老人の前に跪く。
『ハンよ。計画は順調かの?』
「はい。殆どが滞りなく進んでおります。しかし……一部抵抗をする者もいます。」
『一部……か。武力で解決せよ。皆殺しにしても構わん。早急に計画を進めるのだ。』
「御意」
老人は手をひょいひょいっと降ると隻眼の男は煙のように消えた。
『これで万事解決か……ソフィリア。ソフィリアは居るか?』
「はい。こちらに。」
今まで誰も居なかった場所に突如現れた美女。全身水色の超絶な美貌の持ち主だが顔にはまるで精気が感じられない。鼓動すら無いのではないか?と感じる程だ。
『魔竜の件はどうなっておるのか?もう間もなくのはずじゃが?』
「それが……帝都へ着く直前に何者かの手によって殺られた様で……」
はぁ?魔竜が?あのダジリグアじゃぞ?ただの龍じゃ帝都の防衛に不足だろうと魔界最強の魔竜を呼んだはずじゃが……?聞き間違えかの?
『魔竜ダジリグアが殺られた?まさかとは思うが……死んだのかの?あの天地を創った神すら恐れる存在と噂に名高い魔竜ダジリグアが死んだ?何かの間違いじゃないのかの?』
「いえ……それが正確な情報なのです。帝都ギルドに所属するAランク冒険者があの魔竜を倒して食べる化け物たちが居たと報告に来たのです。」
『ダジリグアは化物に殺られたのか?ではその化物とやらを防衛に雇えば良いのではないかの?』
「いえ……その化物というのは《人》なのです。冒険者達は仲間が魑魅魍魎の類かもしれないと報告していたので本当は化物かも知れませんが……この情報は不確定なものです。」
『ぬぅ……魔竜を殺られた上にこちらには引き抜けんと……これは国家の一大事じゃな?では……アレを呼ぶしかないかのぉ?』
「そ、それだけはご勘弁を……」
『ほっほっほ。まぁ今回はそなたの美貌に免じて目を瞑ろうでは無いか。じゃが……次は無いぞ?分かっておるな?』
「はい。重々承知しております。では。行ってまいります。」
『うむ。』
天帝マズールが返事をすると美女はまたしても煙のように消えた。
彼の側近たちは皆ドロンと煙のように消え、煙のように現れる。まぁ普通に考えたら普通の人では無いだろう。これこそが帝都カナルギアが数年で大国となった理由だった。
この帝都カナルギアの計画──
それを知る人物は少ない。
帝都カナルギアに住む住民たちは知る由もなくただ日常を過ごす。時々起こる《神隠し》にも全く気づかずに。
《いらっしゃーい!いらっしゃい!美味しい美味しいイカの甘辛焼きはいかがですか〜?こっちには南国の果物もあるよー!いらっしゃーい!》
帝都カナルギアに入ったアレン達はその賑わいに驚いた。中央に大きく伸びたメイン通り。そこにはごった返す人。通りの端には露店が立ち並び美味しそうな匂いと威勢のいい声が途絶えない。
『アレン様~美味しそうです~あれ買って欲しいなぁ~』ヒカリが涎を垂らしながらフラフラーフラフラーと露店に寄っていく。
しかしチビが『買い食いはダメです。』とピシャリ。項垂れるヒカリなのであった。俺としても美味しい棒棒鶏もどきを食べたばかりで買い食いする必要性を感じなかった為チビに反対することは無かった。
ちなみに魔竜ダジリグアは筋肉質だったがパサパサではなく若干油が乗った鶏肉みたいだった。ま、簡単に言えばめっちゃ美味かった。
棒棒鶏とは棒で叩くことで柔らかくして食べる中華料理の1種。ライゴはあの後激しく鈍器で殴っていたので肉も筋繊維が壊れ柔らかくなったのだろう。
俺たちは帝都カナルギアの中央通りを抜け城前に着いた。城の周囲には堀がありアレン達の前には橋がかかっていた。橋には5名の兵士がいた。全身を真っ白な鎧に身を包んだ異様なほど同じ体格の5名の兵士。
アレン達が兵士に声をかけようとすると突然手に持っていた槍を前に突き出された。問答無用と言いたげな態度だ。
「王様に会いたいんだけど……」この国のトップが王様という肩書きなのかは分からないがとりあえず王様と言っておけば一番偉い人と言うことは伝わるだろう。
『ただの王などそんな小さき者では無い。我が主は天を司る帝。天帝マズール様だ。天帝様に一般庶民風情が会おうなど天地がひっくり返っても有り得ぬ。早々に帰られよ。』
「そっかぁ……じゃまた来ます。」無計画に突撃してはみたものの見事に失敗した。流石に無理だったかと後悔する。
アレン達は宿屋へ向かった。ここでエリーゼは自宅に戻るという事で一旦別れる事に。
宿屋は宿泊所エッケンという名前だった。エッケンというのはここのご主人の名前で、妻はマリーと言った。マリーは宿の女将さん的な立場で料理も殆ど彼女が作っていた。というか2人で切り盛りしている様だった。彼らには5歳と3歳の息子がおり宿泊所内を走り回っていた。名をロンとオイニーと言った。ここを利用する客も慣れたもので二人の息子と遊ぶ事を楽しみに来ていたりするようだった。魔竜との戦いで疲れた(美味しかったが)アレン達は風呂に入ると泥のように眠った。
翌朝。小鳥達の囀りと朝日の差し込む光で目を覚ます。昨夜、最近召喚獣が多くなってきて宿泊にも困るなーと召喚獣達に相談すると『え?召喚獣ですからアレン様の好きな時に出せますよ?』と恰も知ってたでしょ?とチビ達に言われた。俺はとてもじゃないが知らなかったとは言えず、「寂しかったからずっと召喚していたかったんだ」と言った。何とも恥ずかしい思いをしたもんだ。
大型の召喚獣達は1度戻ってもらい翌日再度召喚することにしたのだ。特にライゴやテイラーは巨大だ。少しばかり邪魔なのだ。ほんと少しね?猫3匹とリスと人形2体だけならかなり小さな部屋でも十分事足りる。そもそも召喚獣達は寝る必要も無いからね。今回は完全に一部屋で寝泊まりする事になった。まるで修学旅行の様にガールズトークに花が咲いていた。
そして宿に来て3日連泊した。あれから城内に入る手立てを思いつかずここに滞在してしまっていた。しかし……3日目でようやく足がかりを得る。
──それは確実な違和感があったからだ。
その違和感正体は……《神隠し》だった。




