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悪の組織の悪たるゆえん  作者: ファイル
22/35

私と記憶と魂と

すこしグロテスクな表現があります



「奴らは雷の街の傭兵に違いない!うちぬけぇ!」



堀から上半身だけをみせて矢が放たれる



「任せてくださいまし!」


地味だがドレスの服装をしているメシアが私を追い越し瞬時に球形状の魔法の盾を展開する



堀の警戒をしておらず不意を突かれた形で驚き、速度が落ちていたとはいえ


獣人の速度を追い越し、立ち止まり盾を展開したメシアに更に驚く



ついでにドレスの中の黒タイツに鎧のように装備してる盾は使わないのかよ、と別の方面も驚く



…いかに早く光の街を潰そうかと焦っていたが、驚きから謎の冷静さが生まれたようなきがする



「アンさん!風の魔法で対抗してくださいまし!」


「あ、あぁ、うん、わかった」


アンは偽名だし風の魔法も使えないから完全に別の人の事と思ってしまった、そもそも二人組での移動だった


…すこし抜けが激しいな


「カンザシ…」


フウカの自称偽名を呟く


「おっけ」


返事とともに私の横に透明の槍が作られていく、その空間だけ歪み、月明かりが反射している


風魔法の槍か…

神槍フウカってばれるよ?



「…ふっ!」



その槍はメシアの盾で弾かれていた矢や、未だ撃ち込まれていた矢を吹き飛ばしながら敵の一グループに投げられた


着弾し一瞬、竜巻が巻き起こる


「…凄いんですのね、人型の魔物が魔法の矢を使うのには驚きましたが、それらを吹き飛ばしながらランス系魔法で攻撃するなんて」



メシアが褒める、これバレない?大丈夫?



フウカは間髪入れずに二発目、三発目と槍を投げ、堀から敵兵が吹き飛ぶ


「あと三発討っちゃうからそれ頼む」


フウカは六グループの残りの三つを優先し、一人で堀から這い上がり斬りかかってきた敵兵は無視するようだ


「…ん」


一瞬だけメシアの魔法盾から出て敵兵を殴りあげる



その瞬間に運悪くフウカの槍が敵兵の命を散らして行った



「…射線上に殴りあげないでよ」


いや…うん…ごめん…



堀から来たんだから殴りあげたら射線上だよね…うん




「ぁ…ぃゃ…え?え?なんでですの?」



少しばかり弾けた兵の血を浴びたが、メシアの方をみると半透明の魔法盾は消えており膝を着いている



矢に撃ち抜かれた?まだ敵兵が切りかかってきた?

普段は商売敵とはいえ、今だけは仲間だ、心配し、近づくとメシアの手には先程弾けた敵兵の頭が



「…どしたの?」



「え?だって…


これ、人間ですのよ?」


プルプルと手を震わしながら敵兵の頭を持つ



最初に飲んだ薬が何故だか切れてしまったようだ


敵が魔物に見えるという効果があったのだろう、それで戦争ではないように思わせていたが、それの効果が切れてしまったと


「う…きもぢわるい…」


頭を落とし、先程簡易テントのように使ったドレスの使い方をしてメシアが引っ込む


…あのドレス何が仕込んであるんだろう、針金?


あぁ、口裏合わせなきゃ


冷静さがなかったさっきの状態だと構わん突っ込めとか言ってそうだ


「…人?それは魔物の頭だよ?」


薬は全員に渡された、私は幻覚耐性があるから普通に見えているが…組織側の人も魔物に見えているなら、本格的に目的が分からない



「…本当にいってます?」


ひょこっと頭だけだすメシア、口を抑えてるから吐いてはなさそうだ、吐いた方が楽になるのに…


というかメシアの状態がコケシっぽい


「ねぇ、乗り込んでいい?」


フウカが空気を読まずに聞いてきた

なかなか物騒な性格だな


「風さんが乗り込むのですか?相手は街の人ですわよ?」


メシアは疑問なくフウカを風さんと思い込んでいる、正気じゃないかもしれない


「…メシアの体調が悪いなら森に戻るよ?そしたら風さん一人でどうぞ」


「…戻らしてくださいまし」


「やりいー」



私も目に見えていないが風が強く吹きフウカの気配が消えた



メシアに肩を貸して撤退する、攻めいれるような精神状態ではない


『こんな時、どうすればいいの?』

組織のみんなに呼びかける



……?

あれ、返事がない



「ぉおっ!よくもぉ!」


後ろから敵兵が斬りかかってきていた

全身血みどろで痛々しい


メシアを突き飛ばしたが、敵兵の剣から逃れるには遅すぎた


片腕で剣を受ける



ものすごく痛く、剣は最後まで振り下ろされた



その痛さから悲鳴があがる


その声が私から出ているのだと認識が遅れるほどに痛い


今までこれほどまで痛いことがあっただろうか痛い

いや、ない、痛い


痛い、痛い!




突き飛ばされたメシアが私を見ていた


剣を振り下ろした敵兵は何か気味の悪いものを見るように私を見ていた



それらの目から違和感を感じた



……剣は、最後まで振り下ろされた?



私の腕を見る

斬られたのは左腕だ

関節と関節の間、骨のある部分

のはずなのに、斬られている、振り斬られている


血が出ていない

腕は断面が見えている


…まるでデザートのゼリーのような

表面はツヤツヤで、弾力もありそうな


「…あ?…れ?」


痛みはとっくに消えていた


「う、うわぁぁあ!!」


敵兵が逃げ出す、私から


メシアも下を向き吐き出した



…私は施設のジェルから出てきたはず


本物のはず


いつから?その時には既に?

私は…


「…アン、その、その腕は何?魔物だったのですか?」


急に冷えていく感覚、何もかもぜんぶ分からなくなっていく

私から大切な何かがこぼれ落ちていく感覚



私が私でなくなる感覚





なんだこれなんだこれなんだこれ



「ナンダコレ」

『たすけて、きられた』

応答はない


「ひっ…」


メシアは私から後ずさり、距離を取ろうとする


助けを乞おうとメシアに近づこうとする

「ひぅっ……おぇぇ…」


足元に私の腕が落ちていた


断面がゼリーな腕だった



…私は誰だったのか

アン、とは覚えている、その前から名乗っていた名前があるはず、本当の、名前が



古い記憶を呼び起こそうとして、思考が止まる



私は誰かの施設のジェルからこぼれ落ちる

床にベチャリとおちると、そこには誰かの足があった、そのまま視線をあげると誰かの顔が…見えなかった

黒く塗りつぶされていて、誰だか分からない


…それが私のいちばん古い記憶



うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああ

「あぁぁぁあああ!!」


私は走り出した、誰にも見られたくなかった、見て欲しくなかった

私は私を隠すために森の方へ走り出した





目を覚ますと目の前は水で満たされていた

口から管が伸びていて、呼吸の確保をしているのだろう


水の先はガラスがあり、その先は暗い部屋だった


そこには誰かがたっている


変な音と共にガラスに隙間がうまれる

私はその隙間から出ていく水に流されていく


「…ごほっごほっ」

「おはよう、気分はどう?」


「最悪な夢を見ていた」


「どんな?」


「…アンと呼ばれて魔物の疑いをかけられる夢」

「うーん、魂に深く刻まれてる…失敗か」


白衣の女性は手元の紙に何か書いて私に手を伸ばしてきた


夢の記憶と一致する、嫌な光景だ



「…私は本物?ナズは煙の毒にやられたはずじゃ?」


「…結構覚えてるね、大失敗かも」


「私は、本物?」


「本物ですとも、ナコさん」


試しに薄皮切りますか?なんてナイフを渡される


…意地悪だ




二人で狭い部屋に入る、そこにはお茶が用意されていた

丸テーブルを挟んで座る


「ねぇ、ナズは私の事好き?」

「すきですよ」


「…どれくらい?」

「なんですか、初々しいカップルじゃあるまいし…」

「…どれくらい?」


「そうですね…投薬実験よりは好きですね」


「……」

マジ?


「なんですか、コイツマジで言ってるの?みたいな顔して、睨まないでください、可愛い顔が台無しですよ」


「わたしはナズのことはすきだよぅ…」


「小声で言ってもこの距離だと流石に聞こえますよ、私はってなんですか、私はって、まるで私はナコさんの事が好きじゃないみたいじゃないですか」



「ぅー…夢のナズがなあ…」

「…夢と言っても現実で起きたことですよ、人形に魂をのせてたんですが、肉体的に死んだら、または精神的に壊れたら、などで続行不可になったら魂が本人へと帰って来るようにしたんです」


「…私の体のアンがいるってこと?」

「まぁ、髪の色も変えましたし、耳としっぽもないですが、横に並べば双子には見えるでしょうね」


「うえ、きも」

倒しに行こうかな


「殺すのは無駄ですよ、それはもう心の壊れた人形ですし、魂もないので時期に体の維持も出来なくなるでしょう」


やだなぁ、殺すなんて、自分に似てるんでしょ?しないってぇ


「維持出来なくなるとどうなるの?」

「それこそスライムみたいにデロデロとなり、地面に吸収されます、スライムと言っても成分は特殊な水ですし」


「ひゅー、ごくあくにーん」


「いやぁ、褒めても薬しか出ませんよ」


そう言って小瓶を出してくるナズ

…飲みかけだなコレ


「なにこれ」


「直近の記憶を飛ばせる薬です、やばい植物しか使ってません」

ドヤ顔が薄ら見えるナズの顔


「飲みかけだよね」

ズキリ、と少し頭痛がします



「…ナコさんしか飲んでませんよ?」

何言ってんの?みたいな顔をするナズ



…この実験、何回目?






ナコさんは否定しましたが

また、失敗しましたので、変に記憶が残っています、自我の崩壊を招く可能性がありますのでやはり飲まないと出られない部屋に誘って正解でしたね



私は否定するナコさんを置いてさっさと転移で退出しました、色々とやる事あるので…


半日ほど経過してからナコさんは飲みました、今回は最長ですね、やはり大失敗ですね、魂の疲弊も激しいです



少し休憩ですかね?

ナコさんに嫌われたくありませんし





悪夢ですわ

これは悪夢ですの


わたくしの仲間は人を魔物と思い込みながら蹴散らし

わたくしの仲間は魔物が人と思い込みながら過ごしていた



うぅ、遊撃隊の皆さんの所に帰りたい…


お二人の配置は聞いておりませんでした


フラフラとよろめきながら雷の街へと帰ります、まだまだ、遠いです



…ふと思い出してしまうのはふたつの光景


ひとつはあんなに歪んだ魔物が次の瞬間には兵士となり、次の瞬間には頭だけが転がってくるところ


いつから幻覚系の魔法をかけられていたのでしょうか…わたくし魔法耐性はあるはずでしたのに


戻ったら再検査してもらいましょう…



もうひとつは、人の形をした魔物が泣き叫びながら森に走っていくところ


…アンさん、彼女はどうなったのでしょうか


茶髪の、少し冷めたような目が印象的でした


斬られた断面に人のものはなく、透き通るような透明感のある水色でした


…切り落ちた手は回収しています

部隊長に渡せばなにか分かるでしょうか


…思い出しただけで気分が


うぅ…この調子で半日で戻れるでしょうか…遠い、雷の街が遠いですわ…

ひとつは、魔物だと思い込み攻撃していたら実は人だった

もうひとつは、自分がスワンプマンと気がついてしまった、この実験での解釈、結末です


…スワンプマンは原子レベルで同じなので切られたら出るのは血みたいですけど

正確には人と思い込んでいたホムンクルスの方が正しそうですね


シロの時系列的には倒れたあと直ぐに回復しています

…締りが悪いからか続きが書けそうです


いつも読んでくださってありがとうございます、励みになっております。

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