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もう一度、あなたに会えた、その時は。  作者: 野菜処理班
第一章 そんな事よりも、生きていける自信がありません……。
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第一章 一話 初戦からクライマックス

 天気は快晴。

 俺たちがいた世界は深夜だったのに、こちらの世界は昼のようだ。

 辺りを見回すと、そこには、どこまでも続いていそうな草原が広がっている。

 その草原の、ある一つの木の下。そこに二人の人間がいる。

 辺りの草をなでるように、春の爽やかな風が吹く中、ある一人の人間はその場に頭を抱えてかがみながら、それはそれはもう、悲痛な叫びをあげていた。


「あ、あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああ」

 

 来ちゃった。

 来てしまった。

 

 異世界に!


「ねえ、何してんの?」


 普通の人間にはありえない狐の耳と尻尾を持っているイズハが顔をのぞかせる。

 清涼感のある透き通った緑色の瞳で、まるで絵に描いたような整った顔立ち。

 一度はこの美しい顔にときめきかけたが、何とも遠慮のない態度のこいつを見て、俺は、ただの美人で顔立ちの良いコスプレイヤーということにしてある。


「な、何って、お前………」


 ちなみに、今この場で頭を抱えながらかがんでいる俺の名前は『高橋 和也』。

 行方不明になってしまった妹を探すため、異世界へとイズハとともに送られた、いたって普通の男子高校生。

 ………だったのだが。


「こんなの詐欺じゃん! 確かに異世界に連れてけって言ったのは俺だよ。どんな世界に連れていかれるのか楽しみにしてたし、連れてきてくれたのはものすごく感謝してるよ。でも! でもさ! 日本みたいな優しい世界だと思うじゃん。世紀末みたいな世界なのかなと想像したけど、そんなの冗談みたいなもんじゃん! そしたらお前!」


 俺が、イズハに文句を言っていると、イズハが腰に掛けてある刀の柄で俺の頭をコンコンとリズミカルに殴りながら。


「あんたほんっとに最低よね。あんたが何を想像してたかわかんないけど、異世界に連れてきてあげたのは私なのよ! あんたが何が何でもって言うから連れてきてあげたのに、なんであたしが文句を言われなきゃなんないの? しかも詐欺? よくそんなこと言えたわね。理不尽で弱肉強食じゃない世界なんてあるわけないでしょ。どこまで甘いのあんたは? 他のあんたと同じ年の人間の方がもっとましだと思うんだけど?」


 ごもっともです。

 俺はその場に立ち上がって。


「そうだよ、そうだけども! 言ってることはド正論だけど! …………いや、もういいよ。これ以上言ってもどんどん俺が最低な奴に見えてくるから」


 最初は色々言いたいことがあったが、どう考えても俺が悪いので、もうこれ以上は言わないようにした。

 イズハはさっきまで俺の頭を殴っていた刀を腰に掛けなおすと、エナメルバッグを斜めに掛け。


「ちゃんと反省できたのなら、さっさと行くわよ」


 何もない草原を、イズハがスタスタと歩いていく。

 イズハのキラキラと輝く金髪を、吹き抜ける春の風がたなびかせる。

 その姿は、とても可憐で、神聖的で、美しいものだった。

 …………でもやっぱりエナメルバッグがそれをすべてぶち壊す。

 というか、この世界に来る前から思っていたが、なんでエナメルバッグなんだよ。

 エナメルバッグって、スポーツしてる人とかが持っているものなんじゃないのか?

 いや、俺もリュックとか明らかに雰囲気ぶち壊しのものを持ってきたけど。


「お、おい、ちょっと待てくれ!」

 

 まあいいや。それよりも早く行かないと置いていかれる。

 俺は、愛用している黒色のリュックを背負い、イズハからもらった薙刀を杖代わりに手に持ち、イズハの後ろ姿に向かって走り出した。

 しかし、なぜこんなにも草原を走ることが気持ちいいんだろうか。

 この開放的な空間で走れることで、何かに縛られていた俺が解き放たれ、自由になった感じがする。

 前の世界ではこんなことなんてなかったし、多分これからもなかっただろう。

 この世界ならではの体験ができて、俺は少し満足していた。


 イズハに追いついた俺は、さっきから疑問に思っていたことを聞いてみる。


「なあ、今からどこに行くんだ? 近くに町があるならいいんだけど………」

「? 何を言ってるの? 目的地なんて決まってるわけないでしょ?」


 …………………は?


「え、あ、ああそれじゃあ、何かこの状況から脱するための解決策を」

「考えてないわよ。ただ同じ場所に居るのが嫌なだけよ」


 …………こいつに期待した俺がバカだった。


「………とにかく、このままじゃ埒が明かないから、どこか大きな道に出よう。道があれば、必ずどこかにつながってると思うからな。もしかしたら、行商人とかに会うかもしれない。その時は、頼りにさせてもらおうぜ」


 俺の提案を聞いたイズハは「おお!」と感嘆の声を上げた。


「なるほど! それは良い案ね。で? どこに道があるのか知ってるの?」

「知らん。今からそれを探しに行こうって言ってるんだ」


 俺の提案の意味を知ったのか、イズハは「ええ…」と嫌そうな顔をしながら、その場に立ち止まり。


「なんでそんな面倒くさいことしなきゃいけないの? 別の簡単な方法を探そうよ。そうしようよ! もっと時間をかければそれも見つかるはずよ!」


 自分から茜を探しに来たはずのこいつが、早速、楽な方へと逃げ始めようとしている。

 さっきの俺とほとんど変わらねえ気がするんだが………。


「見つからないと思うし、探す気もねえよ。いい加減覚悟決めろって。ほら、さっさと行くぞ」

 

 立ち止まったイズハを放っておいて、俺は先に歩き始める。


「………あーもう! わかったから、置いていかないでよ!」


 ………なんだかんだ言ってついてくるのか。可愛いやつめ。

 そう思いながら、イズハの方へ振り替えると………。


 イズハが俺の顔目掛けてドロップキックをしてきた。

 

 あまりに突然だったので、俺は抵抗しきれずそのままふっ飛ばされた。

 草原に俺の体が打ち付けられる。

 全身に痛みが走る中、その場にバッと立ち上がり、顔を両手で抑えながら。

 

「っ! お前、いきなりなにすんだ!」

「あんたがこんなところに勝手に置いていこうとしたからでしょ!」


 なんて口喧嘩をしていた——————その時だった。

 


「ピシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



 突如、耳をつんざくような鳴き声が草原に響き渡る。

 口喧嘩していた俺たちは、その鳴き声に驚いて、何だなんだと周りをキョロキョロと見回した。

 …………だが、周りには何の動物の姿もない。

 さっきの鳴き声みたいなものは、気のせいだろうと思った瞬間。


「! 上よ、上!」

 

 イズハが何やら、空を指さしている。

 いったい何なんだと俺は空を見上げた。

 太陽の眩しい光から逃れるため、手をサンバイザーのように添えながら、どこまでも広がる青空を見る。

 

「何もいない気が………って何だあれ?」


 太陽の近くでキランと何かが輝いた。

 輝いた瞬間それはものすごい勢いで、俺たちに向かって飛んできた。

 それは——————————



「ドラゴン?」



 鉄よりも固そうな黒い鱗で覆われ、どんなものもぶっ壊してしまいそうな太い尻尾。羽ばたくだけで突風が起きそうなほど大きな羽。山をも抉り取ってしまいそうな鋭く大きい爪。とても大きな口と何でもかみ砕きそうな牙。そして、トカゲみたいな体をしていたその姿は、初めて見た瞬間、ドラゴンとしか言い表せなかった。

 ドラゴンは俺たちを見つけると、俺たち目掛けて飛行しながら突進してきた。


「うわっ! ちょっ!」


 俺とイズハは、それぞれ正反対の方向に転がりながら回避する。

 俺たちの荷物は体から離れ、草原の上に転がっていく。

 突進した後、体制を整えたドラゴンは、俺たちに向かって火球を吐き出して攻撃してきた。

 さっき転がって回避したため、逃げる体制ができていなかった俺。

 

 まずい! 死ぬ!

 

 どんどん近づいてくる火球。それにおびえながら目を瞑っていると——————

 

 シャッ、と何かが切れる音がした。


 恐る恐る目を開けると、そこにはイズハの姿が。

 片手には、イズハが帯刀していた桜色の刀身の刀があった。

 辺りの草が燃えていることが、イズハがあの火球を切ったことを証明している。

 

「カズヤ! 戦うか逃げ回るかはっきりして!」


 イズハの目は、怒りと心配な気持ちが入り混じっていた。

 …………仕方ない。


「………女子に守ってもらうっていうのは好きじゃねえんだよ!」


 俺は、リュックをその場に捨て、薙刀を構える。

 火球を切られたことに驚いていたのか、少しの間時間が止まったように硬直していたが、すぐにこの状況を理解し、また俺たちに突進してきた。


「ねえ、そのセリフかっこいいと思ってんの?」

「う、うるせえよ! お前何この状況で笑ってんだよ!」


 絶体絶命のピンチではないが、負ければ『死』というこの状況で、イズハは突然笑い出した。

 いや、明らかに俺のさっき言ったことに対して笑ってるんだな。

 …………恥ずかしいから笑うのはもうやめてくれ。


「さ、来たわよ」


 空を見上げると、どんどん近づいてくるドラゴンが。

 薙刀をつかむ手がガタガタと震えている。


 俺はこの状況に恐怖を感じているのか?

 いや、この状況で恐怖を感じない奴なんて人間じゃない。

 

 ドラゴンが咆哮をする。


 体がビリビリと振動する。


 ………いい加減覚悟を決めろ、高橋和也!

 ここは理不尽で弱肉強食の世界。勝ったやつは生きて、負けたやつは死ぬ。

 簡単なのに厳しい、そんな世界だ。

 それに、俺たちの目的はこいつと戦って死ぬことなんかじゃない。


 ——————妹の『茜』を見つけ、この世界に来た目的について知ることだ。


 これは俺たちの物語の始まりにすぎない。

 いきなりこんなところから、ゲームオーバーになってたまるか。

 

「いくぞ! イズハ!」


 こちらに突進してくるドラゴンに、薙刀の刃を向ける。


「それはこっちのセリフなんだけど!」


 イズハも、ドラゴンに桜色の刃を向ける。


「グルルオオオオオアアアア!」


 ドラゴンも負けじと、声を上げた。


 なんという熱い展開!

 

「勝負だ! ドラゴン!」

 


「ピイイイイイイイイイイイ!!」

 


 ドラゴンは鳴き声を………って、え?


 それはドラゴンの声というよりか、なんだか『笛』の音の方が近いというか………。

 いや、完璧に、まごうことなき純粋な笛の音だ。

 その笛の音を聞いたドラゴンは、急ブレーキをかけ、その場にゆっくりと下りた。

 その音がした方を見ると、遠くに人影が。

 その人影が近づいてきて、その人の声が聞こえてきた。


「ま、待ってくださ~い!」


 何かを必死に乞う、女性の声が草原に響く。

 おそらく彼女が笛の音の主だろう。


「誰?」


 イズハは警戒していた。

 まあ、確かに一回笛を吹くだけで、あのドラゴンの動きを止めたんだから、警戒するのも当然だろう。

 

 少しずつ近づいてくる彼女の姿が分かってきた。

 彼女は、背丈は中学生ほどで、髪は少しボサボサで肩までの長さだ。目の色は茶色で、日本人みたいな綺麗な顔立ちをしていた。

 服装は、少しぼろいが、それでもどこか清潔感のある着こなしをしていて、足には走りにくそうな、一般的なサンダルを履いている。

 首には銀色の笛が細い紐で掛けられている。おそらくその笛でこのドラゴンを操っているのだろう。

 ようやく彼女が俺たちのところに辿り着くと、呼吸が乱れながらも俺たちに尋ねてきた。




「はあ…はあ…、大丈夫ですか? うちの…『ココア』ちゃんが…なにか大変な目に…合わせませんでしたか?」




 ………ココアちゃん?

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