27話『メダル1千万枚購入するッス』
「おおっ! さすがに中は広いな」
カジノの中は天井が高く開放的であり、新築と思えるほど周りの壁はキレイだ。周りから機械音や歓声が少しうるさいが、それも兼ねて気分が高揚してくる。
というか、俺はなぜカジノの中に入ったんだ? そうそう下見だ! 店にどんな商品が置いてあるかを確認して、必要であればそれを買う事を視野に入れる。それが俺の役割だ。だからそう、俺がカジノに入ったのは、内部の調査であって、決して遊びに入った訳ではない。
「すいません。メダルを購入したいんスけど……」
「いらっしゃいませ。メダルは50枚で1000イリーナになります」
うっ……ちょっと高いな……
お金を確認してみると、ギリギリで1000イリーナ持っていた。しかしこれはみんなの装備を買うお金であって、さすがにこれを使う訳にはいかない。
「すんません。手持ちと相談してから決めますわ……」
「いつでもお越しください」
俺は逃げるようにして受付から離れた。
これはそう! メダルの料金を確認しただけであって、決して購入して遊ぼうとした訳ではない! 俺の役割はあくまで店の調査。メダルの料金も把握しておかねばいけなかったのだ! そういえばメダルはアイテムと交換できたりするのだろうか?
周りを一瞥すると、すぐ近くにアイテム交換所と書かれた場所があった。俺はどんなアイテムと交換できるのかと確認してみる。
・青龍の剣(レプリカ)/2万枚。
これが一番高い景品だ。2万枚というと、お金でメダルを買おうとするなら40万イリーナが必要になる。
「すんません。この青龍の剣ってなんスか?」
「これはあの有名な伝説の剣、青龍の剣を再現した物となっています。レプリカとはいえ、その攻撃力は他の武器よりも高い優れものですよ」
ほ~。そういえば忍が、この世界には伝説の武器防具が存在するって言ってたな。これはそのレプリカなのか。
俺は景品所をあとにして、カジノの中を見て回る事にした。
ゲームなら、カジノで荒稼ぎする裏技というものが大抵存在する。もしこの世界にもそういった裏技が存在するのなら、楽に景品を取る事ができるだろう。
俺はまず、近くのレース場を見てみる事にした。
これもモンスターだろうか? 大きさはネズミくらいの生き物が10メートルほどのトラックを回ろうとしている。
いわゆるモンスターを使った競馬だ。
俺は空いている席に座り、走り回る様を眺める。
これがゲームのプログラムだとしたら、必ずこのモンスターが一着になるという周期がある。そしてそれを操作する裏技も存在するはずだ。
例えば、Aのモンスターに何枚賭けると、次のレースに必ず一着になるBのモンスターが出現する、といった裏技だ。だが――
「そもそもこの世界ってプログラムで出来てんのかもわかんねぇしなぁ……」
この世界は女神様が作った。だが、どんな風に作ったかなど、ただの人間である俺には見当もつかない。
「一つ試してみるか……」
俺は座席を立つと、再びメダル購入口に向かった。
ゲームの裏技にはこんな技もある。とてつもない枚数のメダルを購入しようとすると、逆に安く買えてしまうという裏技! これは簡単に言うと、設定されている値段以上の買い物をしようとすると、プログラムがオーバーフローを起こし、金額が0に戻ってしまうという原理を利用した技だ。
つまり、100万までしか決めていない買い物で、101万を買おうとすると、一周して1万で買えてしまうというもの。
俺は受付にヒソヒソと小声で話しかけた。
「あの、すんません」
「いらっしゃいませ。メダルの購入ですか?」
「はい。メダル1千万枚購入するッス」
「……は?」
受付のお姉さんは驚き、口が塞がっていない。
「だから、1千万枚ッスよ」
「えっと……2億イリーナになります……」
普通に対応された……。ならば値段を釣り上げるのみ!
「じゃあ、5億枚を購入するといくらになるッスか?」
「……100億イリーナになります……」
ええいクソ! まだオーバーフローを起こさないのか!?
「なら9999兆9999億枚購入します!」
「ふざけないでよ! 冷やかしなら帰ってちょうだい!!」
普通に怒られた……
もうこれ、NPCだとかプログラムって認識は止めた方がいいな……
「マジサーセン……」
通じるかわからないけど、取りあえず謝ってからそそくさと俺は退散する。
オーバーフロー作戦は失敗かぁ……。なら次はどうしよう……
次に俺はスロットマシーンの前に来た。日本のゲームセンターに置いてあるようなスロットだ。7図柄やプラム、チェリーなどの図柄を、3×3の横、斜めに揃えればメダルが払い出される、ありふれた形式のようだ。
俺は椅子に座って図柄やレバーを眺めてみる。
「なんだか、『沼』って呼ばれるパチンコを攻略しようとする主人公になった気分だな……」
ぼやきながらも俺は裏技を考える。ゲームでよくあるスロットの裏技と言えば、乱数調整くらいしか思い浮かばない。
乱数調整と言うのは簡単に言うと、あるタイミングで回せば当たりを引く事ができて、そのタイミングを調整して、強引に当たりを引くというもの。
だが、この裏技はセーブとロード。ついでに言うとその乱数を調べるだけの時間が必要になる。当然この世界にはセーブなんてものは存在しない……
「セーブができないとなると、あとは機械を使うしかないんだよなぁ……」
機械というのは、現実世界でいうパチスロに使われる体感器の事だ。当然、そんな物は持っていないし、存在したとしても使えば犯罪。それ以前に入手するだけの時間はない。
俺は立ち上がると、スロットを打っている人の背後に立ち少しの間、見させてもらう事にした。
タン、タン、タン、と図柄を止める仕草を真剣に見つめる。
「回転が速すぎて図柄が見えねぇ。ビタ押しどころか目押しもできないな。……だけど滑りは発生しているか……」
やはり内部で役が成立している場合に、自動で図柄が揃うようにできているようだ。だがリアルな分だけ簡単に裏技が見つかるとは思えなかった。
あまり後ろで見るのは失礼なので、退散する事にした。結局、スロットも攻略する技を思いつく事ができない。
「裏技、バグ技、チート技。なんでもいいから何かねぇかなぁ……」
考えながら次の遊戯に向かおうとすると、足元に一枚のメダルが落ちている事に気が付いた。俺はそのメダルを拾おうと手を伸ばす。すると、ほぼ同時に拾おうとした人の手とぶつかってしまった。
「あ、すいません!」
「こちらこそ、ごめんなさいなのです……」
……なんだか聞きなれた声としゃべり方に、思わず顔を上げた。
「あれ? 恋!?」
「あ! マスター!?」
なぜか恋と鉢合わせをした。
今回のネタ。
賭博破戒録カイジ




