28話『今そこの女性にナンパしてましたよね……?』
「お前なんでここにいるんだ?」
「そ、それは~……ほら、私の担当って屋内での情報収集じゃないですか。次はこのカジノの中で行動しようと思ったのですよ」
うわずった声がなんとも怪しい……
そういえばこいつ、女神様との賭けで人間の体と寿命を勝ち取ったんだっけ? 根っからのギャンブラー体質なんじゃないか?
「マスターこそ、ここで何をしているのですか!? まさか私達ばかり働かせて、自分は遊んでたんじゃないでしょうね……」
「ななな何言ってんだよそんな事ある訳ねぇだろ!? 俺もここを調査してたんだよ!、そんな事よりも恋、ここの景品を見たか?」
「伝説の剣のレプリカなのですか?」
「ああ、俺のゲーマー知識をフル稼働させて楽に入手できないかって考えているんだが、全然うまくいかねぇ……恋はなんか思いつく事あったか?」
「私は地道にメダルを増やす事しか思いつかないのです。落ちているメダルを地道に拾って、これで10枚目なのですよ」
そう言って恋は落ちていたメダルを拾い上げて、手に持つ10枚のメダルを見せつけた。
……こいつ、本当に情報収集してんのかな?
「まぁいいや、そのメダルは恋が自由に使っていいぞ。俺はもうちょい何か考えてみる」
「わ~い♪」
恋は嬉しそうに、どこでメダルを使うか吟味を重ね始め、俺は一人で次の場所を視察する。
次に寄ったのはポーカーだ。一人の女性客が真剣に悩んでいる。
ここで俺は少し方法を変えてみる事にした。
——スキル『ナンパ』を使用した。
「綺麗なお嬢さん。ずいぶんと運がいいみたいだね」
俺よりは年下だと思われる女性の横に詰まれているメダルを見て、俺は優しく声をかけた。ポーカーなら話しかけてもさほど邪魔にはならないだろう。
「ふふ、そんなこと言ってもらえるなんて、確かに運がいいのかもね」
「事実だからな。もしよければ勝てる秘訣を教えてもらいたんだが」
艶のあるロングヘアーが魅力の女性は、手札をスリーカードにしてゲームを終える。どうやらこのカジノのポーカーは自分の手札だけで役を揃えて、その役に決められたレートでメダルが増減するらしい。
今のスリーカードは賭け金が二倍になるらしい。
「秘訣なんてないわよ。しばらく様子を見て、そろそろ勝てそうな流れだと判断した時に大きく賭けるの。それが当たるか当たらないかで大きくメダルが動くわ」
そりゃそうだよな。確実に勝てる必勝法なんて、普通はありえない。
女性はすぐに次のゲームに入っていく。
「あなたはやらないの?」
「今は美女を応援して、運気を手繰り寄せているところさ」
女性はクスリと微笑み、ツーペアで勝負を決める。
「運気を掴んだのは私かもね。あなたに話しかけられてからよく揃うもの。そろそろ大きく賭ける時かしら?」
そう言って女性は一気に50枚を賭けて勝負に臨んだ。
配られた手札を広げてみると、すでにスリーカードが確定していた。
残りの二枚を捨て、二枚を引くとジョーカーが入っていた。
「すごい! フォーカードだ!」
レートは十倍。50枚のメダルは500枚に増えた。
今メダルを欲しているのは俺のほうなんだけどなぁ……
「こういうチャンスは攻めるに限るわ。ダブルアップよ」
ダブルアップは、今の500枚を二倍に増やすチャンスだろう。大体はゲームと一緒だ。
支配人がカードをシャッフルして、一枚のカードを配る。それをめくるとハートの7だった。続いてもう一枚、裏の状態でカードを配る。
「一番難しい数字ね……ここはあなたに決めてもらおうかしら。アップかダウン。ルールは分かるでしょ?」
「次に引くカードが、この7より上か下かを当てるんだよな? 俺が決めていいのかい?」
女性は面白そうに笑って頷いた。
カードが7と言う事は、それより下のカードは1~6。上の数字は8~13。それとジョーカーだ。確率から見れば、ジョーカー一枚分得なアップを選びたい。だが、そんな僅かな確率などギャンブルではアテにならない。
「よし。ここはあえてダウンだ!」
俺は決断して、伏せたカードをめくった。
一瞬9が見えて、あっと息を呑む。だがそれは、よく見ると数字の6が逆に印字されている部分だった。支配人がパチパチと手を叩く。
「おめでとうございます。メダル1000枚獲得です」
俺の目の前で1000枚というメダルが運ばれてきて、面を食らってしまう。
「あなたのおかげね。最初の掛け金の分50枚だけだけど、あなたにあげるわ」
そう言って、女性は袋に50枚のメダルを入れて俺に差し出した。
「いいのかい?」
「あなたが当てたんだもの。ちょっとした報酬よ」
「サンキュー! この50枚を2万枚にしてみせるぜ」
女性は笑いながら「頑張ってね」と手を振った。
ただで手に入れたこの50枚。これを確実に増やす方法はないものか……
俺は再度、考えながら他の遊戯も見て回ろうとした。その時――
「マスター……」
後ろから恋の、小さく、そして低い声が聞こえた。
振り返ると、そこには冷たい目をした恋が立っていて、俺は背中にゾクリと寒気が走る。
「マスター、今そこの女性にナンパしてましたよね……?」
最初の街で、俺がナンパをした時と同じだ。恋ってこんな冷たい表情できるのかって思うくらいに、冷めた目で俺を見つめていた。
「ナンパって……ちょっと話してただけだって」
「……嘘。私、会話聞いてましたから」
まずい……俺が美女とか言ってたのを聞かれていたらしい……
恋が一歩近づくと、自然に一歩後ずさりしてしまう。
「マスター言いましたよね? 私を受け入れるって。愛してくれるって……あれって嘘だったんですか?」
後ずさると背中が壁に当たった。
「嘘じゃねぇって……少し落ち着こうぜ?」
俺は壁に沿って動こうとした。だが……
――バン!
俺の体を挟むように、恋の両手が壁に押し付けられた。
まさか自分の女に壁ドンされるとは……
そしてそのまま、恋は俺を見上げる。
「私ってマスターの何番目なんですか……? これから何番目まで下がっていくんですか……? ぐすっ」
「あ……」
恋は目に涙を浮かべていた。そしてそれを見せないように、壁に両手を付いた状態のまま俯いてしまった。
「何番目も何もあるか。お前は俺の女だし、俺はお前らのもんだ。それは天地がひっくり返っても変わんねぇよ」
俺は恋の頭に手を乗せて、ワシャワシャと撫でてやった。
「本当なのですか……? 信じていいんですよね……?」
「当たり前だろ」
――キュピーン!
スキル『ナデナデ』を習得した。習得条件、自分の大切な人を慰めようとした時に習得できる。消費0。異性を落ち着かせる効果を持つ。
何これ? ねぇこれ必要か? スキルとして本当に必要か? 俺のスキル、ナンパとナデナデとか、これだけ見たらただのスケコマシじゃん! あの駄女神、俺のスキルで遊ぶのやめてくんない?
「わかりました。マスターのこと信じます! その代わり、そのナデナデのレベルをマックスにすること!」
以外と需要があるようだ………
ナンパから始まり、ナデナデに終着するとか、女神様に振り回されてばかりな気がする……
「結局マスターは、何が目的であの女性に近付いたのですか?」
「ただ単に、カジノの攻略法でも教えてもらおうとしただけだよ。結果として、メダル50枚もらったけどな」
俺は袋に入ったメダルを揺らして見せた。
「そうだったのですか。よかった~。マスターが色目を使ってたら、私本当にやっちゃうとこでしたよ」
何を!? やっちゃうって何をやっちゃうの!?
恋ってもしかしてヤンデレ枠か!?
この時、俺はふとシロツメクサの花言葉を思い出した。
忍の正体がシロツメクサだとわかったその日、俺はネットでシロツメクサを検索した。もっと知りたいと思ったし、知らなきゃいけないとも思ったんだ。
そしてその時、シロツメクサの花言葉を知った。その花言葉は主に五つあって――
一つ目は「幸福」
二つ目は「約束」
三つ目は「私を思って」
四つ目は「私のものになって」
そして五つ目は「復讐」
その時は、復讐なんて何かの間違いだろうとあまり気にしなかった。だけど、今こうして恋を見てはっきりと言える事がある。
それは、例え俺が裏切るつもりがなかったとしても、誤解されただけで刺される可能性がある、という事だ……




