僕たちの振り分け作業
まさかこんなにも難民が大流入するとは思っていなかった雅也は若干顔を引きつらせながら黒板の上から人々をカーペットの上へと誘導していく。
せいぜい20人が関の山だと思っていたのだが。
「ミリスさん、ここまで大量にいるとなると、とりあえず面接を通して、ホームステイ先を決める形になります。さすがに我々でも百数十人というのは管理しきれません」
雅也はそう言っているうちに食事が運ばれてきた。
「バイキング形式になっておりますのでご自由にお召し上がり下さい」
執事のような格好をしているホテルのオーナーはそういうと従業員たちに一斉に料理の積まれた机を並べていく。
「お、美味しそう……」
「お、俺たちが食ってもいいのか?」
口々に声を上げながら異世界の人々は湧き上がる食欲と葛藤している。
「とにかく、皆さん。空腹の状態では面接も何も言ってはいられないでしょう。どうぞ、お召し上がりください」
雅也はそう言うと、ミリスに目配せをした。
「みなさん、この方々のお言葉に甘えましょう」
ミリスの言葉が発端となり、数百人は思い思いの料理へと飛びついていく。
そんな中で。
ぐぅぅぅぅぅううう。
と雅也の隣から大きなおとが聞こえた。
ふと、隣を見るとミリスが無表情の顔を真っ赤にしている。
雅也はビジネスモードを崩しそうになるが必死で抑えて、優しい笑みでミリスに言う。
「さ、ミリスさんも遠慮なさらずに。腹が減っては戦はできません。まぁ、うちの国は戦をしないんですがね?」
そう言うと、失礼とは分かっていながら雅也はミリスの背中を押した。
「お、お気遣いなく、私はまだ二回ほど召喚をしなくてはなりません」
「ならなおさらですよ、少しお腹に入れてからでも遅くはないはずです」
雅也はそういうとミリスにお皿とフォークを渡した。
その言葉を聞いてミリスは葛藤しながらもポテトを盛り付ける。
「それでは、い、いただきます」
ミリスはそういうと、ポテトを口に運ぶ。
そして、その優美な舌に食材が触れた途端。
ミリスの体がびくりと震えた。
「み、ミリスさん、お口に合いませんでしたか?」
雅也はそういうと、ミリスは首を猛烈に振って否定する。
「いえ、美味しいです……。美味しすぎて、本当に、涙が出そうなほどです」
ミリスは相変わらずの無表情でそう言う。
ただ、だんだんと速度が上がっていく彼女のフォークをみるとその言葉もあながち嘘ではなさそうだ。
「気に入っていただけて良かったです。満足されましたらお好きなタイミングで召喚を始めていただければ結構ですよ?」
「そ、そうでした。早くみんなをこっちに呼ばなきゃ」
ミリスは駆け足で黒板の上に再び乗ると、また、なにやら難しい記号を書き始めた。
「よし。いきます」
そういうと、難民全員の視線がミリスに集まる。
そして、異世界の民が固唾を呑んで見守る中召喚が開始された。
「封印解除!プロセスを実行します」
そして、また百人規模で増えた難民たちがキョトンとした表情で状況を確認する。
そして、先ほどと同様のことが繰り返され、ミリスは最後の召喚も無事成功させた。
難民の集団は歓喜に泣き、美味しい料理に舌鼓を打ち、これでもかという幸せを噛み締めていた。
雅也もその幸せな光景を眺めると少し自分でも何かの役に立てたような気がした。




