難民大流入
召喚が終了すると、そこには五人ミリスと同様の民族衣装を着ている若者たちが現れた。
「み、ミリス様?こ、これは?」
その一人が状況を未だ飲み込めずに話しかける。
「成功した、ということです」
ミリスはそういうと、ほっと一息ついた。
その後ろで泣き出すもの歓喜の声をあげるものなど様々であった。
ミリスは総理の側に振り返ると先ほどの言葉の確認も兼ねて恭しく礼をした。
「ご協力の締結に感謝いたします、我々もあなた方にただで助けていただくつもりは毛頭ございません。我々には見ての通り魔法があります。なので、戦争にでも何にでもご自由にお使いください」
日本が平和主義を掲げているだなんて微塵も知らない彼女の見当はずれな言葉に、総理は笑い出した。
「いやー、参った。戦争だなんてとんでもない。あなた方のような希少な力を持つ人間をそうやすやすとわが国が手放すとでも?ご謙遜も甚だしいな」
総理はそういうと、徐に立ち上がった。
「さて、疑って悪かったね、ミリスちゃん。どうやらあなたはそちらの国の偉い様のようですな。なら、子供扱いもやめて相応に応対いたしましょう」
総理は崩した態度を徐々に言葉を変えていくという手法によってプライベートからパブリックなものに相手との関係を切り替えていく。
雅也の部屋を出た総理はミリスと愉快な仲間たちを連れてホテルの大広間へと案内をすることにした。
雅也は携帯でタクシーを手配した。
ミリスには家を出る前にドライヤーを貸そうとしたが、乾燥魔法とかいう便利魔法によってすっかり綺麗なっていた。
「え、夜?さっきの明るい部屋は?聖霊の力で昼を運んできているのか!?素晴らしい権力だ」
総理私邸を出た異世界の方々は見当違いなことを仰っている。そうこうしているうちにタクシーが来た。
そこでもめちゃくちゃテンションが上がっていたそうだが長いので割愛する。
雅也は無事に全員をテーブルすら置かれていないホテルの大広間に案内した。
煌びやかな雰囲気の中、ミリスは冷静沈着、ではなく異世界人と同様に無表情ながらキョロキョロしている。
だが、先ほどの召喚を見たこちら側の意図に気付いたのか総理の方へ顔を向け再びお辞儀をした。
「お気遣いありがとうございます」
ミリスはそういうと俄かに先ほどのチョークのような石を取り出した。
「ミリスさん、気持ちが焦るのはわかりますが少し待ってください。一応そのカーペットも高価です。それ相応の道具を用意していますので」
雅也はそういうと、タクシーと一緒に手配しておいた特大の黒板をカーペットの上に用意させた。
「なるほどな、雅也。気がきくじゃねぇか」
「伊達に親父の秘書を五年もやってるんじゃないさ」
そんな会話が終わるまでに設置は完了した。
相手は今まさに国賓となったのだ。お客様を相手に待たせるわけにはいかない。
「本当にありがとうございます!」
ミリスは表情の読めない端正な顔で感謝を表明する。顔や声に感情は載せられないようだが、声の大きさは変えられるようだ。
そう言ってミリスは大きな黒板に足を踏み入れる。
雅也はチョークを用意しながら一つ質問をした。
「ミリスさん、その石は何か特別なものでしょうか?そうでなければ専用の筆記具がございますが」
そういって雅也はミリスにチョークを見せる。
「いえ、特に書くものは関係ありません。なんて描きやすそうな石でしょう。ありがたく使わせていただきますね」
「あんな綺麗な円筒形に石を整えるなんて。我々じゃとても不可能だ。きっと精霊に愛された操魔師がいるんだろうか……」
彼女の感情は異世界の方々が代弁していた。
その表情から異世界の文明の低さが伝わってくる。
チョークを雅也から受け取ったミリスはものすごいスピードで先ほどよりも大きな魔法陣を書き込んでいく。
「すごい、百人規模の召喚だなんて、ミリス様はやはり神子なんだな……」
そう呟いたのは、緑色の服を来た異世界の人だったか。
彼女が魔法陣を描く間雅也は異世界の人の様子を確認していく。
全員、あまり栄養状態は良くなさそうだった。
そのあたりも後で詳しく話を聞かなくてはなるまい。
だが、彼らは多分お腹を空かせているのは言うまでもないだろう。食事を手配しておこう。
雅也はそう考えて支配人に伝えると彼は深く礼をして、奥へ控えていった。
「封印解除、プロセスを実行します!!!」
彼女の言葉とともにとんでもない量の光の粒が溢れ出した。
ホテルの煌びやかなシャンデリアなど比べ物にならない。目も眩むほどの光の暴力はやがて人の形を取っていく。
「なるほど、やはり素晴らしいな……」
総理は再び感嘆の声を上げた。
そこには百人以上の人々が黒板の上に立っていたのだ。




