恵まれたこのニホン
正座だ。
三人はなぜか少年の部屋で正座していた。
ちなみになぜか少女がベッドの上で総理と二人は床だ。
最初に少年の部屋にいた時から気になっていたらしく、足早にその場所を占領したのだった。
「初めまして。私は名前はミリスと言います。魔王国辺境出身の人間です。何かの質問はありますか?」
銀髪の美少女はそう言ってあまり表情の読めない顔で首をかしげた。
なんだ、この反則みたいな生き物は。
少年は童貞らしく顔を赤くしながら頭を掻いていた。
だが、総理は対照的だ。
相手がどんな見た目でも、険しい表情を崩す様子はない。
「一つ質問させてもらおう。君の目的はなんだ?当然だが総理の暗殺なんて物騒なことは考えないほうがいい。一応、俺もこいつも武道の心得がある。それにこいつは拳銃の携帯も許可されてるんだ。下手に動くと死ぬぞ?」
総理はどすの利いた声で少女を睨みつける。
少年は美少女相手にも容赦のない総理の様子に背中から嫌な汗が流れていた。
多分この国に彼に敵うものはいないだろう。文民のくせに軍人より強いという噂は伊達ではない。
ちなみに銃の件はハッタリだ。
「なるほど、そうですね。ケンジュウ?というのはよくわかりませんが殺意を向けられていることは理解しました。さすがに最高権力者の前にいきなり現れたのでは警戒をされて当然ですね。失念していました」
てへ、と声にでも出たらそれらしく見えるように頭にグーをコツンとしたポーズを取っているが、残念ながら表情は一つも変わらない。
不思議ちゃんなのか?
それともこちらを油断させているのだろうか?
少年はそう思いながら観察を止めない。
一応、少年もこの国の長を目指すひとりだ。実際のリーダーを目の前に、学ぶことは多い。
そういう理由で少年は美少女の誘惑にかろうじて耐えているのだ。
「御託はいい。君がこの総理私邸に不法侵入した理由を教えてもらおうか?」
総理は警戒を解かない。相手が総理暗殺の実行犯なら最悪の事態が想定される。死んじゃった、てへ?では済まされないのだ。
さらには、総理は自分に替えが利かない能力があることを謙虚に自負しているのだ。だから、総理は最大限の警戒を以って、この異常事態に当たっていた。
「そうですね、自宅に不審者がいたとなれば当然警戒しますよね。どうしたらいいものか?そうですね。話すとしたらこのラインかな……、そこのあなた、魔法という概念をご存知ですか?」
急に指を指されて一瞬少年はたじろいだ。
「え、僕!?えと、魔法?水とか火とか都合よく出したり時間止めたりなんなりするフィクション限定の能力か?」
少年は未だに混乱する自分に気づかないままあわててそう返事をした。だいたいは偏見だ。厨二だった頃の苦い思い出が蘇る。
「だいたい正解です。魔法の存在を認めていないようですが、この通りそれは実在します」
彼女はポケットから紙切れを取り出し、ベッドの上においた。そこには何か書かれているようだが、少年や総理には意味がわからなかった。
「これは水魔法の呪符です。水道が廃れた我々の世界では代用としてこれを用いています」
そういうと、彼女は手を一度だけ鳴らした。
すると、本当に水が溢れ出し、
彼女の顔面に直撃した。
「ブクブクブクブク!!!?」
ジタバタしている。
「え!?ちょ、大丈夫か!?」
立ち上がろうとした少年を総理は右手で制した。
少年は自分が慌てていることに気づきようやく冷静さを取り戻し始めた。
彼女はもがきながら、慌ててもう一度手をならす。
すると、再び水は止まった。
少年の部屋はびしょ濡れだが、そんなことより美少女がびしょ濡れなのだ。濡れた髪が妖艶に少年の理性を蝕む。だが、長年の総理秘書としての冷静さを少しずつ取り戻しつつある彼は辛うじてその誘惑に耐え切った。
「み、見苦しいところをお見せしました……」
表情一つ崩さないくせに顔から火を吹いている。少年は眩しすぎるその少女から目をそらした。
「それで、その手品を見せに俺たちの家へ不法侵入したと、そういうことでいいんだな?さて、警察に突き出すか」
「ケイサツ、とは?治安を維持する人員のことですか?」
「まぁ、そういうことだ。そして、お前は牢獄行きだな」
「ま、待ってください……!話を聞いてください……!」
慌てる少女を総理はギロリと睨みつけた。
この世界はファンタジーなんかじゃない。
そんな彼の考えに変化はないようだった。
「私たちの世界にもう逃げ場はないのです。どうか、この世界の難民として、我々を登録していただきたいのです……!」
彼女は、そういうと白色の歪な石を取り出した。
「証明します、私たちの仲間をここへ召喚します!申し訳ありませんがこの部屋の床を使わせていただきます!」
彼女は、ベッドから降りて少年の部屋の床になにやら様々な記号を書き込み始める。
「なにを言っているのか、さっぱりわからんが、時間はまだあるな。もしも不用意な真似をした場合は即刻処分する」
総理はそういうと、冷酷な目を向けて彼女の次のアクションを待った。
様々な記号を羅列した意味のわからない魔法陣のようなものが完成すると彼女は大きく息を吸い込んだ。
「封印解除!プロセスを実行します」
彼女の言葉が発端となった。
少年のみた光景がまた始まる。
まずは光の粒がが魔法陣を中心にシャワーのように溢れ出した。
総理はその光景をありえないといった目で見ていた。
そして、神々しい光の粒が集まり、やがて一人の像を結んでいく。
そして、最終的に少女と似たような服を着た人々がこの世界に定着していった。
次々と現れる人々を目の当たりにしながら総理は現実に認識が追いつき始めた。
「ほほう……」
総理は顎鬚をいじりながら、そう感嘆の声を漏らした。
しばらく何かを考えていた様子の総理だったが、光の粒が完全に人間に変わり切った時についにその決意を固めたようだった。
「なるほどな!これは素晴らしい!!!」
表情のない少女はやがて安堵からため息を一つ漏らした。
総理はそのまま続ける。
「疑って悪かったね、ミリスちゃん、我々日本国は現時点を以ってあなた方の勢力に協力することを約束しよう」
そう言って、総理はニヤリと笑った。
「あ、ありがとうございます!!!」
彼女はそう言うとその場でへたり込んだ。
一方、少年は総理の笑みを見逃さなかった。
そして、いつもながらに無茶をやらかそうとしていることを察して少年は深いため息を吐くのだった。




