第九話 異変
カエルム・テクノロジーズ社へ訪問してから二日後のこと。
姉妹校合同授業の発表会に向けて、準備を進める必要があった。
発表会では、企業見学で学んだことや、事業内容をベースにして、エーテルとは何か。神の技術がどのように社会に応用されているか。現在も解明されていない謎など、まとめた内容を発表することになっている。
資料はデータで作成し、当日はスクリーンに映しながら説明する形式らしい。
イチコ先生によると、これまでの授業ではほとんどが、対面で集まることなくチップでやり取りをしていた。
しかし、私にチップがないこと。そして、発田さんの個人的な熱望もあり、直接集まって資料を作ることになった。
けれど、園縁高校と角花高校は、車で約四十分かかるほど離れている。
だから、どちらの高校を選ぶかで少し揉めたんだけど……ちょうど中間地点に、白波さんの実家があるということが判明した。
彼女の快い承諾により、結局、資料作りの拠点は、白波さんの実家で行われることになった。
「お、来た来た。お~い!」
バスを降りると、遠くから瀬戸海さんの声が聞こえた。
白波さんと一緒に元気よく両手を上げて、ブンブンと振っている。
「ナナさ~ん!お久しぶりですっ!」
二人の近くにいた発田さんは、一直線に私に抱き着いてきた。
スリスリと、私の身体に頬を擦り付ける彼女を見て、仲氏さんは溜め息を吐き、アイリは唇を尖らせた。
アイリは、サクラちゃんが私の隣を陣取るたびに、反対側からじりじりと距離を詰めてきた。
気づけば、私は二人に挟まれた状態で、身動きがとれなくなってしまっていた。
「わざわざありがとうね~。じゃあ、行こっか?」
白波さんはそう言うと、ゆっくりとした足取りで住宅街を歩き始める。
涼やかな風が通り過ぎ、髪が靡いた。
夕日の日差しは眩しくて、夏が少しずつ近づいてきているのが伝わってきた。
私は右手でアイリの手を。左手で発田さんの手を握りながら、足を進めていると、ふと、瀬戸海さんが踵を返して振り向いた。
「なあ。オレたち、名前で呼び合わねえか?……なんか、苗字ってよそよそしいだろ」
両手で後頭部を抑えて、器用に後ろ歩きしている。
少しだけ、顔が赤くなっているように見えた。
「アイリ、みんな、なまえでよぶ。……みんな、アイリ、なまえでよぶ」
アイリが、きょとんとした顔で言う。すると、瀬戸海さんは大口を開けて笑った。
「ワッハッハ!アイリは今のままでいいぞ!だが、ナナとシーカは、未だに他人行儀だろ?……なんか、距離感じるんだよな」
名指しされてしまったことで、私と仲氏さんは自然に目を合わせる。
ややあって、仲氏さんは気まずそうにそっぽを向き、口を一文字に結んでしまった。
「じ、じゃあ……アオちゃんと、スナミちゃんって呼ぶね?」
「わぁ、嬉しい。これから仲良くしてね、ナナちゃん」
スナミちゃんは笑顔を浮かべながら、手を差し出した。
私はその握手を受け入れると、発田さんによって、すぐに手を離されてしまった。
「ナナさ~ん。私のことはぜひ、サクラと呼んでください」
腕をぎゅっと抱かれながら、発田さんは上目遣いで私を見る。
一歩間違えればあざとく見られるその仕草がとても可愛らしくて、思わず心臓が跳ねた。
「……ええと。私、基本的には人の名前は、敬称を付けて呼ぶんだよね。だから……サクラちゃん、でいいかな?」
「はぁっ!……も、もう一度、お願いします……!」
「え?……サ、サクラちゃん」
その後、サクラちゃんは何度も何度も、お願いしますと言っては、声にならない声をあげていた。
頬を赤らめて、幸せそうに悶えている。……なんだか、私まで変な気持ちになってくる。
「あれ。でもナナ、お前、アイリのことは敬称付けないんだな?」
「あっ……た、確かに。自覚なかったよ。……なんでだろう?」
ふと、アイリの顔を見ると、彼女は私の名前を呼びながら、肩にぐりぐりと頭を押し付けた。
アイリは私と同じシャンプーを使ってるはずなのに、特別に甘い匂いがした。
「スナミは逆に、アイリちゃんのことは、ちゃん付けしちゃうな~。呼び捨ても、雨村っていう苗字も、なんだかしっくりこないんだよね」
「おいおい。失礼だろ、スナミ」
妙に鋭いスナミちゃんの指摘を、愛想笑いで受け流す。
ライラさんが勝手につけた苗字だけど、私も未だに、アイリを雨村と呼ばれることには慣れていない。
学校生活でも普通に支障が出ているくらいで、本人も困っていた。
「ああ。サクラのことも、ちゃん付けで呼んだ方がいいのかな。とても気に入ってるみたいだし」
スナミちゃんはそう言って、サクラちゃんの顔を覗き込む。
すると、穏やかな雰囲気は一瞬にして消え去り、氷のように冷たい目で、スナミちゃんを睨み付けた。
「別に、好きにしたら?……私はアンタの名前、覚えるつもりも、呼ぶつもりもないから」
「……なぁ、発田サクラ。お前、リーダーのくせに、何でそんなに突っぱねるんだよ」
サクラちゃんは、もう話すつもりはないと言わんばかりに、私の背中に隠れる。
まるで、駄々をこねる子供のようだ。……私、二児の母になったつもりはないんだけどな。
「………………」
仲氏さんは、未だに無言のままだった。
アオちゃんは気を使って、歩くスピードを緩める。
「シーカ。お前も、もし嫌なら無理しなくていいぞ。馴れ合うつもりがないのは、まあ、別に変なことじゃねぇからな」
目を伏せて、ソワソワと身体を揺らしていた仲氏さんに対して、アオちゃんは彼女の背中を優しく叩いた。
すると、仲氏さんはハッと顔を上げる。
「あ。い、いや、そんなつもりは、なくて。ただ……下の名前で呼ばれること、ないから。南雲に関しては、その。今更、だし」
いつもクールで落ち着いている彼女の、新たな一面が見えた気がした。
恥ずかしがっているというよりは、本気で困っているようだ。
眉毛を八の字にして、縮こまっている。
「……だ、大丈夫。嫌なわけじゃない。でも……敬称付けは、やめてほしい。……大嫌いなんだ。"さん"付けで呼ばれるの」
シーカはそれだけ言って、こめかみに手を当てる。
レノちゃんの写真を見て、深呼吸をしているようだ。
しばらく無言が続いたけれど、空気は重くない。
気まずいっていうよりは、シーカを案ずるような気持ちが、私たちの中にくすぶっていたように思う。
「ナナさ~ん」
しかし、サクラちゃんだけは別だった。彼女は、私の背中に頬を押し付けている。
そのマイペースさに辟易としながらも、すっかり慣れ始めている自分に、戸惑いを感じていた。
「あ。着いたよ」
そうこうしているうちに、スナミちゃんが足を止めた。
彼女が指差す一軒家は、思っていたよりずっと大きかった。
外観は、特別派手というわけでもない。でも、どこか、普通の家とは違う雰囲気があった。
「お邪魔します」と言いながら玄関に入り、靴を脱ぐ。
私の家とは違って、築年数は新しめのようだ。扉も土間も、汚れや傷が見当たらない。
そしてスナミちゃんは、リビングの扉を開けた。
「わぁ……っ!」
入ってすぐに、アイリが感嘆の声をあげた。
壁一面に、宇宙の写真が貼られていたからだ。
他にも、惑星の模型が棚の上にずらりと並んでいたり、壁沿いの机上には、英語で書かれた分厚い専門書。
そして天井では、太陽系の吊り下げ模型がゆっくりと回っていた。
「す、すごい部屋だね」
思わず、口から言葉が漏れる。
小さな宇宙という表現がピッタリな空間で、見惚れるほど美しかった。
スナミちゃんはフフンと胸を張って、ドヤ顔を見せる。
「でしょ。ほとんど、お父さんとお母さんのやつだけど。お気に入りなんだよね」
そういえば、彼女の両親は宇宙飛行士なんだっけ。
幼少期からこういう場所で過ごしているんだとしたら、確かに宇宙のことに詳しくなりそうだ。
スナミちゃんのルーツが見えた気がした。
「両親、いないの?……一応コレ、持ってきたんだけど」
キョロキョロと見渡したあと、仲氏さんはカバンから、小さな包み紙を取り出した。
お饅頭、と書かれている。
……私、何も用意してきてない。
誰かの家に遊びに行くことなんてなかったから……って、言い訳だよね。
次に来たときは何か持って来なきゃ。
「ああ、言ってなかったか。スナミの両親、ほとんど家にいないんだよ。宇宙飛行士っつーのは、どうも忙しいらしい」
アオちゃんはそう言うと、スナミちゃんの肩を叩く。
スナミちゃんは特に気にした様子もなく、ニコニコと微笑んでいた。
「ってことは、こんな大きい家に一人暮らしなの?」
「ううん。アオと一緒に住んでるよ」
「え?」
仲氏さんは目を見開いて、二人の顔を見比べる。
アオちゃんは、呆然とする彼女からお饅頭を取り上げると、キッチンへと足を運んだ。
緑茶のいい匂いが、鼻腔をくすぐる。
「アオは小さい頃、おじいちゃんとおばあちゃんの家で暮らしてたの。でも、中学生になったタイミングで、施設に入っちゃって」
アオちゃんは手際よく、お饅頭と温かいお茶を、それぞれお盆に乗せた。
私は慌てて駆け寄って、片方のお盆を受け取る。
「そのことを、お父さんとお母さんに話したら、一緒に住めばいいじゃないって言われたの。アオのおじいちゃんとおばあちゃんも、とっても喜んでくれたよ!」
「ま、スナミを一人にしておくと、碌なことにならねぇしな」
「何それー。アオ、ひどーい」
「いや、事実だろ。何度、火事になりかけたことか」
二人のやりとりは、長年の付き合いを感じさせた。
アオちゃんの言葉は素っ気ないけど、その間に、確かな信頼みたいなものが滲んでいる。
友達というよりは、姉妹という表現が合っているように思えた。
「しまった。こんな話をしてる場合じゃねぇよな。時間は限られてるし、さっさと始めんぞ」
アオちゃんは、リビングの中央にある大きなテーブルに、お盆を置いた。
それを囲むようにして、私たちもソファに座る。とってもフカフカで、心地よかった。
「よし。じゃあ、二日前の見学で見聞きしたことを共有するぞ。全員、チップ起動してくれ」
「んー? ナナ、それ、ないよ」
私が言うよりも先に、アイリが手を挙げて宣言する。全員から集まる視線が痛かった。
最初に伝えたときは、流されたけど。改めてそう伝えると、気詰まりな空気が流れた。
チップがないと言う度に、珍しいものを見るような、哀れむような目で見られる。
慣れているつもりでも、好きになれない目だ。
「あ、そっかぁ。ナナって、そうなんだっけ~」
そう呟くスナミちゃんの瞳には、どちらの感情もなかった。
さっきまでと変わらない、柔和な表情で私を見つめている。
「そもそも、ナナさんの事情で集まったんですから。何も悪くないですよ。むしろ、そんな大事なことを忘れてるヤツの方がどうかしてますよ」
「あー、ハイハイ、オレが悪ぅござんした」
サクラちゃんは私の頭を優しく撫でると、キッと鋭くアオちゃんを睨み付けた。
アオちゃんは両手を上げて、呆れたように溜め息を吐く。
「な、南雲…………ナナ、は、サクラに見せてもらえば。近いし」
仲氏さんは吐き捨てるように呟く。
私を呼ぶときだけ声が詰まっていたのが気になった。
「別に、お邪魔虫に言われなくてもそうするつもりだったけど。……ナナさんっ!思う存分、私を頼ってくださいねっ!」
「え、ええと、皆、ありがとう。気を使わせて、ごめんなさ……」
「謝らないで、ナナ」
机から乗り出して、スナミちゃんは、片手で私の両頬を握った。
そのまま、ぐいっと、顔を上げさせられる。
俯きかけていた視線が、強制的に、スナミちゃんの顔と向き合わされた。
「チップがあるかどうかで、人の本質は変わらないよ。ナナは、ナナだからね」
いつもの間延びした声とは、違う声色。
真っ直ぐで、迷いのない言葉。
宇宙の話をしているときとも違う、初めて見る姿だった。
だからこそ、すんなりと、私の胸に刺さる。
稀有な目で見られるのが嫌だと思いながら、気づけば自分でも、チップの有無を特別なことだと思い込んでしまってた。
誰かに値踏みされる前に、自分で自分を値踏みしまっていた。
スナミちゃんの一言が、その思い込みを、するりと解いてくれた気がした。
謝ることじゃない。萎縮することじゃない。私はただ、そういう人間なだけなのだから。
「ありがとう、スナミちゃん」
そう言うと、スナミちゃんは満面の笑みで頷いた。
「……そうだ。サクラちゃん、アイリにも画面を見せてくれないかな。アイリのチップは……今、ちょっと、調子が悪くって」
アイリには、警察官のチップ読み取り機を壊した前科がある。
ミホ先輩のラボの機械もおかしくなってたし、園縁高校に転校してからも、何度か問題を起こしていた。
原因がアイリにあるとバレる前に、彼女のチップに異常があると嘘をついて、何とか疑いの目を免れていた。
その整合性を合わせるためにも、事情があるという体で話を進めたかった。
「え~……ナナさんの頼みといえど、それはちょっと……」
サクラちゃんは渋っていたけど、何度もお願いすると、折れてくれた。
「さっさと、チップ修理してもらった方がいいんじゃないのか?」
確かに、アオちゃんの言う通りだ。
でも、アイリは素性がわからない上に、遺物と同じマークがついている。
ライラさんに黙って行くわけにもいかないし、お願いしても、拒否されるに違いない。
結論から言えば、私の予想は当たっていた。
ライラさんは、病院に行くくらいなら、DEMsで検査しますわと言ってきかなかった。
DEMsを信用していないわけじゃないけど、何があるかわからない以上、アイリを預ける判断をすることは、私にはできなかった。
「んじゃ、まずは、大雑把にどの要素を取り上げるか決めるか。何かアイデアはないか?」
「あ。じゃあ、スナミから~。神様のことだけじゃなくてさ、中性子星の話もしたいんだよね。あと、パルサーと」
「スナミ」
「ん?……なぁに、アオ?」
「宇宙の話はダメだ。題材はあくまで、神様とカエルム・テクノロジーズ社」
「え~」
アオちゃんが、スナミちゃんの頭をぽんと叩いた。
スナミちゃんは、不満そうに唇を尖らせたけれど、おとなしくこめかみに手を当てて、モニターに目を落とした。
こんな感じで、最初の日は過ぎていったのだった。
+++
資料作りは、五日ほどかけて進めることになった。
毎日集まったわけじゃなくて、全員の予定が合う日を選んだ。
二週間という期限のうちに五日も集まれたのは、上々な結果だと思う。
シーカは、来ない日が多かった。
アルバイトの用事が重なってしまったのだ。
場所は教えてくれなかったけど、ドッグカフェということだけは教えてくれた。
オーナーの好意で、レノちゃんも一緒に働いているらしい。
シーカとレノちゃんが働いている光景を想像したら、なんだか微笑ましかった。
素直にそれを伝えると、軽く頭をチョップされてしまった。
というわけで、資料作りのほとんどは、アオちゃんとスナミちゃん、そして、私が担当した。
本当は、サクラちゃんとアイリも積極的に作ってくれて……何なら、私のメモをデータに起こしたり、レイアウトを整えたり、私がやることなすことを全て代わりにやろうとしていた。
「ナナさんの為なら何でもします」というサクラちゃんと、「アイリ、ナナ、てつだう!」というアイリ。
二人は事あるごとに言い合いになってしまい、正直、手よりも口が動いているときの方が多かった。
「私が」「アイリが」……何度、この押し問答が繰り返されただろう。
その度に私が仲裁して、アオちゃんから哀れみの目を向けられていたのだった。
サクラちゃんに至っては、基本的に私の指示しか聞いてくれず、スナミちゃんやアオちゃんが何かを頼むと「そのくらい、自分でやって」と冷たく断ってしまう。
その協調性のなさには、すっかり呆れ果ててしまった。もしかして、角花高校でもそうなのかな。
そんな親みたいなことを思ってから、サクラちゃんがお手洗いに行っている間に、私は、スナミちゃんとアオちゃんに聞いてみた。
「んー……そうは言ってもなぁ」
アオちゃんは後頭部を掻きながら、眉間に皺を寄せた。
「クラスが違うし、今まで、噂話しか聞いたことねぇんだよな……」
「えっ。今までって……まさか二人って、サクラちゃんと仲良いわけじゃなかったの?」
「アイツの態度見りゃ、一目瞭然だろ。会社に見学したときが初対面だったぜ」
意外な返答に、私は目を丸くした。
「あのねー。サクラちゃんは家庭科部で、顧問のイチコ先生と仲が良いんだよ~」
「ま、部活に所属してるってことは、協調性はゼロじゃないんじゃねぇの」
二人から得たサクラちゃんの情報は、それだけだった。
学校では、ミステリアスな子なのかな……。私がいないときの彼女の様子を、一目見てみたくなった。
いや、でも……もし、私がいるときだけ、つっけんどんな感じになっていまうんなら、それはそれで嫌かもしれない……知らぬが花かも。
「じゃあ二人は、どういう経緯で、今回の授業に参加したの?……サクラちゃんに誘われたわけじゃないんだよね?」
「それはもちろん、見学先が、カエルム・テクノロジーズ社だったからだよ!」
スナミちゃんは目をキラキラと輝かせる。
そして、テンションが上がったのか、アイリの手を取って回り始めた。
アイリは最初こそ戸惑っていたものの、楽しそうに踊り始める。
「スナミ、宇宙関連のイベントはほとんど全部参加してんだよ。んで、オレはいつも付き添い。一人で行かせるわけにいかねぇからな」
アオちゃんはそう言いながら、肩をすくめる。
やれやれと両手を上げた割には、まんざらでもなさそうに笑っていた。
+++
そしていよいよ、発表会当日。
会場となるのは、角花高校の大きな講堂だ。
神由来の最先端の技術を積極的に取り入れている高校なだけあって、講堂の設備はどれもこれも見たことがない機械ばかりだった。
天井は高く、壁面には見上げるほど大きなスクリーンが埋め込まれていて、淡く光っている。
そして、ステージ上には、ホログラムで映像を映し出せる装置が備わっているようで、発表者がスクリーンに触れるだけで、資料がリアルタイムで切り替わるらしかった。
整然と並んだ座席には、既に大勢の生徒と先生が座っている。
園縁高校と角花高校から、合わせて五十名ずつほど。
先生も生徒も、皆がこめかみに手を当てて、視界の中に何かを映し出している。
発表会の資料を、すでに受信しているのだろうか。
「ナナ。顔、真っ青だぞ」
ふと、背後から声をかけられる。シーカだ。私はステージ袖から顔を出すのをやめて、彼女に向き直る。
「う、嘘。貧血にならなきゃいいけど……何か、食べておいた方がいいかな」
「あっ!……じゃあ、これ、あげる!」
観客席にも聞こえるくらいの大声で、アイリはポケットから何かを取り出した。
これは……ラムネだ。いつ、誰からもらったのだろう。
「ありがとう」
そう言うと、アイリは嬉しそうに跳ねたあと、私をぎゅっと抱き締めた。
ラムネを食べなくても、その姿を見たら十分、緊張はほぐれた。
「………………」
しかし、私の視線は無意識に、サクラちゃんの方を向く。
私とアイリの距離が近いと、いつも癇癪を起こすから、少々面倒なのだ。
幸いなことに、サクラちゃんはイチコ先生と何か話し込んでいるらしい。
私以外の人間相手だと冷酷無情な彼女だけど、何故か、イチコ先生にだけは懐いていた。
「そもそも、今回の発表は私がやるんだ。ナナが緊張する必要はないだろ」
「わ、わかってるけど、でも、あれだけの人が一斉にこっちを見るんだよ」
目立つことは嫌いだ。じわじわと胃が重くなって、手と足が冷たくなる。
姉妹校合同授業に参加する以上、覚悟はしていたつもりだったけど、やっぱり、しんどい。
「でも、本当によかったのか。シーカに押し付けるような形になっちまって」
「……むしろ、私の方がアンタ達に押し付けてたんだ。これくらいするよ」
シーカは顔を背けると、台本に目を落とした。
アルバイトがあったことから、シーカは、あまり資料作りには参加できていなかった。
そのことを気にした彼女から、ステージでは自分が話すといきなり提案されたのだ。
もちろん、私たちは反対したけど、いつになくシーカは強情だった。
結局は折れて、任せることになってしまった。
「……あ、そろそろ始まるみたいだよ〜」
スナミちゃんは返答を待たずに、そそくさとステージに立つ。
私たちも、慌てて彼女の後を追った。
ステージに出ると、一斉に観客の視線が向けられた。
……落ち着かない。でも、アイリが手を握ってくれているし、シーカが私よりも前に出てくれている。
「カエルム・テクノロジーズ社の見学を通じて、私たちはエーテルについて調べました」
マイクを持ったシーカがそう発した瞬間、会場は少しだけざわついた。
彼女の姿を横目に、周囲の人とヒソヒソ話し始めたのだ。
「私たちが訪問した、カエルム・テクノロジーズ社では、Aetherの外側から届く信号の観測と解析を行っています」
シーカは特に気にする様子もなく、淡々と発表を続ける。
よく見ると、マイクを持つ手が震えていた。もしかしたら、彼女も緊張しているのかもしれない。
「会社見学や質疑応答を経て、私たちが注目したのは、神様と呼ばれるエーテルの信号の受信精度と、神由来の技術の水準の関係です」
台本を一切見ずに、シーカはステージ上の立派な機械を操作する。
すると、壁一面のスクリーンの画像が変わった。私が考えて、サクラちゃんが作ってくれた資料だ。
「同じ信号を受け取っていても、活用できる量は、受け取る側の技術によって大きく異なります。つまり、私たちが普段使っている技術は、まだ、氷山の一角に過ぎない可能性があり……」
いつの間にかざわめきはなくなり、生徒たちも先生も、黙って資料やシーカを見ていた。
私語をしている人も、寝ている人もいない。
それほど、シーカの発表が……資料の内容がよかったのだろうか。
「ナナさん、すみませんっ!遅れましたっ! 師匠と……イチコ先生と話していたら、止まらなくって!」
ややあって、サクラちゃんが舞台袖から現れた。
アイリとは反対側に回り込み、腕を絡める。
「大丈夫、順調だよ。生徒も先生も、静かに耳を傾けてくれているし……さっきまで緊張していたのが、馬鹿みたいだよ」
柄にもなく軽口を叩くと、サクラちゃんはニッコリと微笑んだ。
目立つのが嫌いなのは変わらないけど、こういう目立ち方は、悪くないかもしれない。
「ねぇねぇ、ナナ」
シーカが次のスライドへ切り替えようとした、その瞬間。
アイリに握られた手に、力が入る。彼女の細くて長い手は、冷たく汗ばんでいた。
「みんな、へん」
そう言われて、すぐにアイリの視線を追う。彼女が見ていたのは、観客席の人たちだった。
「え……?」
静かになっただけ、そう思っていた。
……でも、違った。よく見ると彼らの目は虚ろで、生気がない。力なく口を開けたままの人もいた。
しかも、それは一人ではない。見渡す限り、会場にいる全員が、同じ状態だった。
まるで、小説に出てくるゾンビみたい。
「……あの。皆さん、大丈夫ですか?」
違和感に気づいたのは、アイリだけではなかった。
シーカもさすがにおかしいと思ったのか、マイクを通して全員に声をかける。しかし、返事はない。
「……あー、はい」
観客席の後ろで、一人の生徒が、ゆらりと立ち上がった。
最初は、体調が悪くなっただけかと思った。
退室しようとしているのか、私たちと同じで、この出来事に不信感を抱いているのか。
けど、違った。
その生徒に続いて、一人、また一人と、「あー」と言葉にならない声をあげて、次々に席を立つ。
やがて、観客席の生徒全員が、一様にその場に立ち尽くしていた。
「宇宙人に、操られてるのかなぁ?」
「え?」
こんな時でも、スナミちゃんはのんびりとしていた。
思わず聞き返したけど、スナミちゃんは顎に手を当てて、何も答えてくれなかった。
そして──次の瞬間。およそ百人の先生と生徒たちが、津波のように、ステージへと押し寄せた。
「な……っ、何、これ!?」
おかしなことに、戸惑いの声をあげているのは私だけだった。
他の五人は、特に驚いた様子もなく、冷静な態度で状況把握に努めていた。
「ナナさん、下がってください」
すると、サクラちゃんの腕が離れる。私の前に立ち、小柄な背中を見せた。
そこに、迷いはない。今までに聞いたことがない凛とした声に、自然と私の背筋が伸びた。
「サクラさぁん。やっぱり、来ましたかぁ」
群がる生徒たちを押しのけてやってきたのは、イチコ先生だった。
普段と変わらず間延びした声で、微笑んでいる。
「や、やっぱりって、どういうこと?」
「イチコ先生が言ってたんです。同僚の教師型アンドロイドの様子が変だって。だから、警戒してたんですけど…………師匠、お願いします」
「はぁい。変身、ですねぇ」
イチコ先生の優しい目が、すっと細くなる。
周囲を一瞥すると、サクラちゃんの側に歩み寄り……スカートのチャックを下げて、腰回りの痣を露わにした。
サクラちゃんがそれに触れた瞬間。イチコ先生の身体は、淡く白い光に包まれた。
輪郭がほどけ、細く、長い物体へと変化していく。アイリやクロハが放っていたものと、全く同じ光。
「……アンタらも、そうだったのか」
シーカはマイク越しにそう呟く。息を飲み込む音も聞こえた。
やがて、光が収まると……サクラちゃんの手には、一本の細く長い、大きな針が握られていた。
縫い針をそのまま引き伸ばしたような、鋭く繊細な得物。
サクラちゃんの手の中に、まるで最初からそこにあったみたいに、すっと収まっていた。
「ナナさんは、私がお守りします」
私の顔を見て、そう笑いかけると……サクラちゃんは、地を蹴った。
可愛らしさやお淑やかさをかなぐり捨てた、鋭い踏み込み。
手にした針が、迫りくる生徒たちのあいだを、舞うように走る。
速い。そして、容赦がない。
的確に相手の急所を狙い、針を突き入れていく。
一人目が倒れる前に、もう次の相手へ向かっている。
立ち止まらない。
振り返らない。
迷わない。
流れるように、次々と片付けていく。
その動きには、一切の感情がなかった。
マシロみたいに、楽しんでいる様子も、苦しんでいる様子もない。
ただ淡々と、つまらない仕事をこなしているようだ。
何人かの生徒が倒れ込んだせいで、全員の動きが止まった。
……いや、止まったというよりは、サクラちゃんにターゲットが移った。
ステージの私たちには目もくれず、スカートを翻して講堂の椅子を歩く彼女へと、方向を変えたのだ。
「来なさい。相手してあげる」
挑発的な、サクラちゃんの声。
彼女が針をふるう度に、生々しい音がした。
鈍い衝撃と、短い呻き声が、途切れることなく聞こえてくる。
「うっ……」
思わず、視線を床に向ける。
サクラちゃんは、決して殺してはいない。
でも、手加減もしていない。
少ないとはいえ、彼女に襲い掛かる生徒たちは全員、出血していた。
胸の奥がざわりとして、呼吸が浅くなる。頭が、じわりと白くなっていく。
いつの間にか、私の恐怖心は、戸惑いは、押し寄せてくる生徒たちへのものではなくなっていた。
サクラちゃん。
無邪気な笑顔を向けてきた子が、甘えるように寄り添ってくれる子が、今、あんな風に容赦なく、人を攻撃している。
サクラちゃんとイチコ先生が、私とアイリの関係と同じであることは知っていた。
同盟だって結んだ。でも……彼女の戦い方は、今まで見てきたものとは、大きく違っていた。
あの子は、私が知っているサクラちゃんと、同じ人間なのだろうか。
甘えた声で「ナナさん」と呼んで、傍にいたくて連絡係を買って出てくれたサクラちゃんと、同じ人間なのだろうか。
「ナナ、おちついてっ」
情けないことに、私は気が付けば、アイリの腕にしがみついていた。
彼女が不安に思うのも無理はない。
サクラちゃんが暴れまわっていても、半数の生徒たちは、ステージ前でぴょんぴょんと跳ねている。
いくら彼女が強くても、一人でさばける限界がある。
……怯えている暇なんてない。私も、アイリと一緒にここを乗り切って──。
「ナナ、アイリ、シーカ! お前らは、舞台袖に下がれ!」
アオちゃんの怒声にハッとして、顔を上げる。
私がアイリの痣に手を触れる前に、シーカが、私の腕を掴んでいた。
「来い。隠れるぞ」
「えっ……ちょ、ちょっと……!」
私の声は、シーカには届かない。
彼女はいつも通り、落ち着いた態度で私の腕を引っ張る。
半ば引きずられる形で、私たちは舞台袖へと駆け込んだ。
「シ、シーカ、どうして?……わ、私も、皆を守らないと」
「駄目だ。その震える足で行っても、アイツらの足手まといになるだけだろ」
「足手まといって……サクラちゃんはそうかもしれないけど、スナミちゃんとアオちゃんが」
そう言って、慌ててステージを確認した……次の瞬間。私は、目を疑った。
「あの二人も、私たちと同じみたいだ」
忽然と、スナミちゃんの姿が消えていた。
アオちゃんの手元には、大ぶりの槌が握られている。
風を切りながら、アオちゃんは器用にそれを振り回し始めた。
「行くぞ、スナミ」
『は~い。お手柔らかにね、アオ』
槌からスナミちゃんの声が聞こえると、アオちゃんの顔色が変わった。
カラッとした明るさは消え、重々さと荒々しさが入り交じったような、そんな雰囲気が漂っていた。
けど、サクラちゃんと違って、怖くはない。
ダークヒーローのような、カッコよさがあった。
無駄がない動きで、身体に染み込まれているみたいに、槌を振るう。
サクラちゃんが技術だとすれば、アオちゃんは経験で動いている。直感的に、そう思った。
『前方に二人、一気にくるよ』
「了解」
スナミちゃんによる的確な指示。
アオちゃんは、それを信用しきっていた。
まとめて薙ぎ払うと、生徒たちは意識を失ったのか、眠るように崩れ落ちていく。
あくまで、気絶させているだけのようだ。血も出ていない。
アオちゃんとスナミちゃん。二人の間には、長年積み重ねてきた信頼関係による、阿吽の呼吸があった。
スナミちゃんが指示を出せば、アオちゃんがそれを体で受け止める。
言葉が少なくても、息が合っている。それが、強さになっていた。
「発田サクラ。お前も、同じだったんだな」
ステージ上から動くことなく、アオちゃんは、大声で呼びかける。
しかし、サクラちゃんは答えなかった。ちらりと視線を向けることすらしない。
ただただ、生徒や先生に針を刺し続けていた。
二組共、強い。
舞台袖からステージを見つめながら、私は、そう思っていた。
二人とも、攻撃に迷いがない。
私みたいに、怖がっていない。それが、羨ましくて仕方がなかった。
どうして私は、あの子たちのようにできないんだろう。
「ここは、アイツらに任せておけばいい。アンタが無茶な真似する必要はないだろ」
シーカの言葉は、辛辣だった。
でも、正論だ。
私はまだアイリを十分に使いこなせていない。戦い慣れていないし、血も傷も怖い。
出て行ったところで、誰かに守ってもらうだけになる。
それはわかっていた。わかっていたけれど。
「……悔しい」
気づいたら、口から出ていた。
「ナナ……」
アイリが、そっと私の肩に触れる。シーカは、何も言わなかった。
戦況は、あっけなく決した。
サクラちゃんとイチコ先生。そして、アオちゃんとスナミちゃん。
二組の戦力は、圧倒的だった。
波のように押し寄せてきた生徒たちは、一人、また一人と、倒れていく。
サクラちゃんの針が走るたびに、アオちゃんの槌が振るわれるたびに、その数が、確実に減っていった。
そしてついに、最後の一人が、床に倒れた。
その瞬間、潮が引くように、講堂が静まり返った。
しばらくして、倒れた生徒たちが、ぽつぽつと目を覚まし始めた。
「っ、い、痛いぃ……っ!」
「な、なんで……血が……っ」
悲鳴に近い声が、あちこちから上がった。
服を押さえて、うずくまる先生。自分の傷を見て、泣き出す生徒。
当然だった。
大きな針で刺された傷は、深く、血が滲んでいる。
けれど生徒たちは、自分が何故倒れていたのか、何故傷を負っているのか、誰一人、わかっていないようだった。
「全員、記憶がないみたいだ。ちょっとしたパニックになってる」
シーカは舞台袖から様子を窺いながら、そう呟く。
「数分だけ意識が途切れて、動き出すなんて……そんなこと、あると思う?」
「うーん。私の口からは、ないとは言い切れないよ。幼少期の頃、私にも、そういう症状があったみたいし」
「えっ?……初耳なんだけど」
「言ってなかったからね。……でも、百人近くが一斉にそうなるのは、おかしいと思う」
この騒動についても、この後、ライラさんに報告しなきゃいけないだろう。
そう思うと、ほんの少しだけ億劫だった。だって、こんなこと、絶対に普通じゃない。
遺物の件も、ココナが動かなくなった件もまだ明らかになっていないのに……。
「あっ。ナナさ~ん!……お怪我はないですか!?」
すると、サクラちゃんがこちらへ歩いてきた。
いつもと変わらぬ涼しい顔で、変身を解いたイチコ先生と一緒に。
返り血の一つもないのが、逆に、二人の異常さを際立たせていた。
観客席から、怯える声が聞こえる。あの人たちを傷つけたのは、サクラちゃんなんだ。
その事実が、頭にへばりついて離れなかった。
「お、お疲れ、さま。サクラちゃん」
情けないことに、私の声は震えていた。
わかっている。
サクラちゃんは、私を守るために戦ってくれた。
あの生徒たちは、私たちに襲い掛かろうとしていた。
だから、彼女を責めることはできない。
呆れるような、ありがたいような、怖いような。
言葉にならない感情が、胸の奥で、ごちゃごちゃと渦を巻いていた。
思わず、アイリの手を、きゅっと握りしめる。
すると、アイリは握り返してくれた。それだけで、息がしやすくなった。
遠くからたくさんのサイレンが聞こえてきていた。
騒ぎを聞きつけた角花高校の先生たちが、慌ただしく集まっている。
「マズいな。これ、疑われるのってオレらなんじゃねぇのか?」
遅れて、アオちゃんとスナミちゃんも、舞台袖へと駆け込んだ。
腕を組んで、困ったように眉をひそめている。
「アオ、ヤバいねぇ。昔のこと、ほじくり返されるよ~」
「そうなんだよな……あーあ。だから警察って嫌いなんだよ」
警察。
そう言われて、ようやく気が付いた。
アオちゃんの事情は知らないけど、警察に事情を聞かれたらマズいのは、私とアイリもだ。
もし、あのとき警察の機械を壊した犯人だとバレてしまったら、面倒なことになる。
そんなことを思っていると、ふと、サクラちゃんと目が合った。
「ナナさん、もしかして、困ってますか?」
「え……う、うん。ちょっと、ね……」
どうやら、顔に出てしまっていたらしい。
すると、サクラちゃんは私の眼前まで近づいて、私の頬を両手で包み込んだ。
「私に任せてください。イチコ先生、協力してもらえますか?」
「教師型アンドロイドに、そのような機能は備わっていません」
「まぁまぁ、そう言わないでくださいよ。師匠ならできますよね?」
「……仕方ありませんねぇ。やってみますぅ」
二人のやり取りは、とても奇妙だった。
この二人って、一体、どういう関係なんだろう。
でも、警察の事情徴収を受けずに済むのは、ありがたかった。素直に、お礼を伝える。
「こちらこそ、お礼を言わせてください。無事でいてくれて……私に守られてくれて、ありがとうございます。ナナさん。私はナナさんだけいれば、それでいいんですよ」
彼女の言葉は嘘じゃない。
純粋無垢な瞳は、とても眩しかった。
サクラちゃんにとっては、本当に、私の存在だけが全てなのだ。
さっきまで針を振るっていた彼女の手は、温かくて、柔らかい。
「…………」
私の側にいてくれたアイリは、いつの間にか、シーカの近くへと移動していた。
アイリは少しだけ背をかがめて、頷きながら、シーカの耳打ちを聞いている。
二人が内緒話なんて、珍しいな。何を話しているのだろうか。
「皆さぁん、こちらですよぉ。今回のことは忘れて、気を付けてお帰りくださいねぇ」
イチコ先生は手を叩いて、私たちの視線を集める。
言われるがまま、サクラちゃん以外の全員が、イチコ先生の背中を追いかけた。
生徒や先生たちの泣き喚く声は、未だに耳に残り続けている。
忘れるなんて、そんなこと、できるわけがない。
「ねぇねぇ、ナナ」
「……どうしたの?アイリ」
「あのねっ。さっき、シーカがね」
アイリはそう言うと、さっき、シーカがしていたみたいに、私の耳元に口を近づけた。
「このあと、ライラにあおう。って」
その言葉を聞いて、私は目を見開いた。
確かに、今日は平日。
授業の一環で角花高校に来ていたのだから、こんな時間に家に帰っても、両親に訝しげな目で見られるだけだ。
それなら、モヤモヤした気持ちを抱えて寝るよりも、無理を言ってでも彼女と情報共有をした方がいいだろう。
私はシーカの後頭部を見て、コクリと頷く。彼女の提案は心強くて、頼もしく感じられた。




