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【第82話:ノアを責め続けるもの】

「ユア!」

どん、とアミュアが抱きついてきた。

受け止めるユアの後ろで、役目を終えたクレイモアが地に落ちカランと鳴った。

そのさらに後ろには灰になったセルミアが吹き散らされていく。

真っ白な灰となって。

「アミュア‥‥思い出したんだね全部?」

ひしっと抱きついてくるアミュアが、ただ頷く。

涙で声がでないのだ。

アミュアから伝わる温度と甘い香り、やわらかさ。

ずっと側にいたのに、そこに感じられなかったアミュアの気配をユアは噛みしめる。

ユアもそっと抱え込むようにアミュアを抱きしめた。

もうどこにも行かないでねと。

 二人が満足する前にアミュアの頭に声が響く。

(ええと‥‥コホン。アミュアさん少しいいかしら?)

はっと顔をあげるアミュア。

別にそこにラウマが居るわけではないのだが、ものすごく恥ずかしくなって真っ赤になる。

ぱっとユアから離れて背を向ける。

(どどど、どうしました?ラウマさま)

思考にすら動揺が隠せなかった。

(ええと、感動的再会の所申し訳ないのだけれど、ノアがいません)

なんだとお!となりきょろきょろするアミュア。

真っ赤から青ざめた、まで一気に顔色が変わる。

「ユア!たいへんですノアがいません!」

「えええ!?」

ユアも一緒になって辺りを見て回るが、痕跡もない。

(そうだ!ラウマさまノアの位置は?!)

頭の中のラウマがノアの位置を探せることを思い出したアミュアが尋ねる。

(ええと、あちらです。そんなに遠くはないです)

ラウマの指す気配は、王座の後ろにある階段に続いていた。

 この階段を降りるのは何回目だろうとふと考えユアの頬が緩む。

前は飛んでおりたのだ、半分になったアミュアを抱いて。

今は微笑むことが出来た。

階段を降りた先にもノアはおらず、さらに階段を降りる。

 このさきはあの部屋だ。

アミュアも前に出入りしたことがある扉が見えてくる。

扉自体はユアに壊されたのでないのだが。

二人で儀式の部屋に入る。

壇上は無人。

「なかだね」

ユアの言葉にアミュアも頷いた。

「ユア手をつないで、レビテーション一回なら使えるきっと」

うなずいたユアがアミュアの右手を取り、二人で深淵に入るのだった。




 果てないとも思える落下感から、紫の円盤が見えてくる。

アミュアが詠唱してレビテーションを発動。

無詠唱より消費が少ないのだ。

円盤の中央に人影がある。

ノアだった。

その横に降り立つ二人。

ノアは先程と同じような姿勢でペタリと横すわりしていた。

「ノア、むかえにきましたよ」

アミュアが声をかけるが、ノアに反応がない。

そのとき光が舞い降りてくるとラウマの形となった。

『おかえりなさいノア』

そういってラウマはノアに手を差し伸べる。

ノアも気づいて手を取り、引かれるままに立ち上がった。

アミュアは自分は無視されたと思いプクっとなる。

ユアも心配そうにノアに声をかけた。

アグノシア系魔法の恐ろしさは先程セルミアで見ていた。

「ノア大丈夫?怖い思いさせちゃったね」

心配そうに手を差し伸べたが、パシと手を払われた。

ラウマと繋いでいない右手でだ。

「さわらないで‥わたしはけがれた獣なの」

ノアは泣いていた。

ラウマの手を取ったのは理由があった。

「ラウマさま、わたしをラウマさまの中に戻してください」

アミュアもユアも驚愕の表情。

ラウマですら驚いている。

ラウマの手も離し、ノアが背を向ける。

「わたしはもう生きる理由がなくなった。もう終わりにしたい」

重い告白に3人が声を失った。

最初に声をあげたのは、反発を覚えていたアミュアだ。

「勝手なこといわないで!ラウマさまもユアも心配してるんですよ!」

アミュアにしては珍しく声に感情がこもっていた。

「わたしには心配される価値などないの」

再びの重い拒絶。

ノアの輪郭を紫の光が縁取り始める。

全てを否定するかのように。

静かにノアが続ける。


「石を投げた人がいた・・・けがらわしい獣だと」


「弓を射かけられた。消え去るべきものと」


「目を・・そらされた。愛されることはないと」


「・・影に潜みだれからも必要とされないのだと」


アグノシアの影響だけではない言葉の重み。

それは生まれてから恐れられ、襲われ続けたノアの本音だった。


「ちがう!みんながみんなノアを否定したりしない!」

ユアもたまらず叫んだ。


「ちがわない・・私のなかの痛みがそう言っている」


すこしづつ投げ出されたノアの悲しみと痛みが零れ落ち紫の光になり輪郭をふちどる。

その光はノア自体を溶かしていくように見えた。


「セルミアが見せた悪夢が嘘だってことは解っている」


その夢は恐ろしいものだったろうとは一度見ているユアには解った。

悪意の凝縮した術式は、純粋な悪意で傷つけるのだ。


「ルヴィがあんな冷たく、わたしを責めないと知っている」


ノアの輪郭を縁取った紫の光が揺れながら強くなっていき、世界を否定するように隔絶する。


「でも責められた言葉はすべて本物。本当のわたしに向けられた悪意だった」


そのまま光になるかのように、ふるえるノア。

振り向きじっとラウマを見るノア。

ラウマはゆっくりと首をふった。

『貴方は愛されるべきものです』

ラウマの言葉は善意であったであろうが、ノアには届かない。


「もいいい!!」


叫び駆け出すノア。

いつかのように、端までいくとふっと消える。

しばらく誰も動けない。

強い否定に声もでないラウマ。


「ラウマさま!アミュアが追いかけます。ノアのところに送ってください!」

叫んだアミュアがノアを追って同じく走り出した。

そして同じところでふっと消えるのであった。

残されたユアとラウマは一歩も動けないままでいた。







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