【第78話:月と3人の夜】
「随分しおらしくなったねノア」
アミュアはすっかりノアの記憶も戻り、毒舌も戻っていた。
素直に礼を述べたノアを煽る。
「アミュアと違って大人になったのよ、クスっ」
ノアはカルヴィリスの指導で会話スキルも上がって煽り返した。
あとカルヴィリスのマネも好きだった。
「くぅ!!」
「まあまあアミュア。ノアも大変だったんだよきっと。ベヒモスはソロだとタゲがキツイし、体力再生もソロだと削るの大変だったね」
「さすがユアはわかっている。攻撃のリーチが読みづらくて辛かった」
わいわいと楽しく話しながらも、恐ろしい手際で地巨獣を解体していくユア。
「おおぉ、これは幻とも言われる巨獣の肝ではないですかあ!」
ユアが叫びを上げて、塊を持ち上げた。
モンスターは特定部位が可食部位となる。
戦闘でダメにしてしまうと食べられないのだった。
「おいしいの?それ」
ノアはコテンと首を傾げる。
「おいしいらしい‥あたしも食べたことない~♪たのしみ。ねーノア調理してあげるからこれ皆で食べようよ!」
頷いて賛同するノア。
「ユア達がこなかったらもっと大変だったし、おかげで倒せたもの。もちろんいいよ」
ノアとユアで解体を終え、基本素材の爪や牙、魔石はノアに渡したユアだった。
その夜少し森を戻りながら、良さげな場所を見つけ野営となった。
すぐ側に泉があり水が使えたのだ。
食事には本日のラッキー素材、巨獣の肝もでて濃厚な味に大満足の3人であった。
また肝は大きかったので、ノアの許しを得て夜霧にも振る舞ったのだった。
ノアは夜霧ともすぐ仲良くなり、右手で撫でさせてもらいこれにも満足したのだった。
そのままアミュアの生活魔法で沸かした泉のお湯を使い、交代で湯浴みもして後は寝るだけとなった。
焚き火の側に3人で車座になり夜霧も一緒に寝る事となった。
当番は交代で、最初はアミュアからだった。
ノアとユアは大きな夜霧に抱きついて寝ている。
焚き火を見つめるアミュアはチクチクと縫い物をしていた。
(そうそう、そこで折り返して~)
といった感じで脳内ラウマ先生が指示を出し、上手にノアのスカートとカーディガンを直したのだった。
(ありがとうラウマさま。また機会があったら教えてね、お裁縫おもしろかった)
(うんうん、いつでもいいですよ)
無言でも会話が続けられるアミュアであった。
月が上った頃交代の時間となる。
ユアは恐ろしく正確な体内時計を持っていて、時間ぴったりに起きてくる。
朝起こされても起きないのは甘えたいだけなのだった。
交代でアミュアがノアのとなりで夜霧に抱きついて寝ている。
交代寸前ですでに船をこいでいたアミュアだったので瞬殺であった。
(ノアの気持ちも話してみてわかったけど。アミュアと変わらないよねきっと)
ユアは食事時間などで話し合ったノアのことを考えていた。
(ラウマ様がいやなのではなく、自分でいたいだけだきっと。ラウマ様も話したら解ってくれるはず)
ユアの中ではノアの問題も、解決したようなものであった。
実際に誤解だけで問題になっているとユアは感じていた。
各々の主張は理解していないが、全員が思いやりと優しさを持っていると感じられた。
(あとはお互いわかり合えばいいんだよねきっと)
ユアの中では大抵の問題がこうして簡単に解決するのだった。
カーニャの抱えていた長年の悩みもそうして解決したのだ。
(ただ、もしもラウマ様が残されてさみしい思いをするのなら、なにか解決策がいるよね)
あくまでアミュアの中にいるラウマと、異空間で会ったラウマ様は別だと感じるユア。
アミュアの中のラウマの中にラウマ様がみたいに入れ子問題がぐるぐる回るのであった。
最後の交代時間になり、月は地平線に沈みそうだった。
ノアを起こしたユアはアミュアの隣で夜霧に抱きつくのであった。
(夜霧だっこすると気持ちよかったなぁ。あったかくて優しい匂いがする)
カルヴィリスとも交代の夜番を経験済みなので、ノアは無理なく対応できた。
むしろアミュアより頼りになるのであった。
最初あんなに嫌いだったアミュアだが、今のノアにとっては頼りになる仲間と認識できた。
カルヴィリスとの旅と別れは、ノアを大きく変えたのだった。
焚き火はすっかり消えて熾火になっている。
その暗闇に滲むような赤がノアは結構好きであった。
ぼんやりと眺めていると色々なカルヴィリスを思い出して、少し淋しくなるのだった。
(カルヴィリスも淋しいと思ってくれてるかな?会いたいな‥‥)
ユアやアミュアにも心を許し出しているが、カルヴィリスはノアの中でノーラ以上に特別になっているのだった。
村で獣に食べられていた人を弔ったのも、これがカルヴィリスだったらと考えたからだ。
大事な人が出来ることで、他者をただのモノとして扱えなくなったのだ。
その他者にも大切な人がいたり、その人を大切だと思う誰かがいるのだと想像できるようになったのだ。
そうしてノアは確実に大人になりつつあったのだ。
(たすけて‥‥ノアお姉さん)
はっとノアが立ち上がる。
(嘘だ!わたしがちゃんと弔ったのに)
頭に響いてきた声はあの女児のものだった。
村で救えず死なせてしまった、あの熱い温度の女児だ。
気配の有った方を確かめたくて、森に踏み込むノア。
通り過ぎた木々の合間から突然人影が現れる。
ノアの口を一瞬で塞ぎ、影魔術が発動する。
ノアの目と耳は一瞬で塞がれ、後ろ手にねじり上げた腕が動きも封じた。
ノアの背後にいたのはセルミアであった。
「クスクス、久しぶりねノア。また働いてもらうわね」
立ち去るセルミアの前に人影がふってくる。
ドンッ!
「なにする気?そんなのあたしがゆるさない」
真紅の両眼を輝かせるユアであった。
魔法とセルミアの声に反応したのだった。
右手にはすでに抜き身の短剣が金色に輝いている。
「ユア‥‥会いたかったわ。お礼がしたくてね。またあそこで待っているわ」
ぶわっと闇が広がりユアを襲う。
気配に最大限の危険を感じ取り、全力のバックステップ。
ユアのいた辺りの木々が一斉に枯れてしまう。
(なにかの術か?!しまった)
気配を探るがすでに逃してしまっていた。
「ノア‥‥すぐ助けに行くからね」
歯ぎしりをして叫びをこらえるユアであった。




