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【第65話:こだわりのある選択】

 町に入ったノアとカルヴィリスは先ず宿を取り、買い物をすることとなった。

お金は使い道など特に無いカルヴィリスが金貨を大量に持っていた。

カルヴィリスの装備は基本的に斥候兵の装備と同じで、単独かつ長期の任務向けに作られている。

多重圧縮の技術も惜しみなく使われており、見た目以上に物を持っていた。

金貨もそういったものの一つだ。

「ルヴィはお金持ちなの?いっぱい使わせてごめんなさい」

最近名前が長いのが面倒になりカルヴィリスの名前を短く呼ぶノアだった。

ノアの名前は短くできないほど短いのでそのままだ。

「使うあてもないから気にしないで良いのよ」

と最近よく笑うカルヴィリスがにこっとする。

「でも無くなっちゃうから、服は要らないよ」

「ダメ、ちゃんと着替えないと病気になっちゃうわよ」

ノアは実は着替えや、着ているものの洗濯が嫌いだった。

自分の匂いが薄くなるのが気に入らないのだった。

くんくんとノアの頭を嗅ぎカルヴィリスが言う。

「ちゃんと頭も洗わないとダメよ?変ね全然嫌な匂いしないな?」

ノアは洗ってないのでドキっとして、カルヴィリスから離れようとする。

じいっと睨んだカルヴィリスがノアを捕まえる。

「ちょっと!?もしかして昨日も洗ってないわね!」

ジタバタするのだがノーラ以上に捕縛技術のあるカルヴィリスからは逃げられなかった。





 結局カルヴィリスにお風呂に入れられ、全身徹底的に洗われたノアが、逃げないよう手を引かれて服屋に行くのだった。

くんくんとノアは自分の匂いを確認している。

「すっごいスッキリしたでしょ。気持ちいいでしょ?」

すっごい嫌そうな顔でノア。

「次からは一人で入れる」

と、2度と洗われるものかと意思表示。

「自分で洗えるようになったら良いわよ?」

とニコニコなカルヴィリスであった。

ノアのお風呂単独任務はまだ先になりそうだった。

ノアの顔には疲れ果てた絶望が貼り付いていた。

洒落た服屋を見つけて入る。

辺境の町にしてはなかなか栄えた町で立派な商店街も有るのだった。

ドアを開けノアを先に入れたカルヴィリスがピクっと一瞬止まる。

一瞬後には元の動きと表情に戻ったが、とある合図を受けたのだった。

(ギルドの呼笛‥‥明らかにこちら向けだった。)

何もなかった風に普通に行動し続けるカルヴィリスだったが、頭の中では高速で現状を考察していた。

「この子の服を一式欲しいのだけど?下着もあるかしら?」

年配の上品な婦人店員が対応し、答える。

「それでしたらこちらにございます。お嬢様のサイズお測りしますね」

そう言って、カーテンの裏に連行されるノアであった。

「お願いしますわ」

とカルヴィリスもちょっと上品に答えたのだった。

採寸には付き添わない様だ。

吊るしてある服は既製の工業製品なので、下着向けに採寸するのだろう。

(セルミア麾下にもギルドの人間が居るのか?)

もしくはセルミアの監視向け要員か。

いずれ符号は夜半に、とあったので今は好きにしようと割り切るカルヴィリスであった。

カーテンの影を見に行くカルヴィリス。

ノアがアンダーを測っていて、今日はワンピースだったので首までたくし上げていた。

「そうゆう時は脱いだら良いのよ?」

「脱いだら着なきゃいけないよ」

「当たり前じゃない?」

「これでいい」

測っている婦人も笑みがこぼれる。

「面倒かけるわね」

これは店員向けの言葉だ。




 贅沢に下着を4組と洋服も4組揃え終えたのは、お昼過ぎであった。

まるで長期戦を戦い抜いたかのように、疲れ果てたノアと、買い物が楽しかったのかツヤツヤになっているカルヴィリスであった。

「そこで食べていきましょ」

ミルディス料理と看板にあるレストランだ。

ノアは無言で従った。

お腹も空いててエネルギー切れのようだ。

レンガ積みの小洒落た店舗は、意外に奥に広くそれなりに流行っていた。

カウンターが空いててそこに通された。

「ごめんなさいね、なかなかテーブル開かないので」

とは案内の店員さん。

「ありがとう別にいいわ。ノアも良いよね?」

「うん、おなかすいたよ」

カウンターの奥に座り入り口をチラと確認するカルヴィリス。

(ギルドにしては、お粗末な尾行。セルミアの手のものか?)

洋服店を出てから監視が着いてきていた。

通りを挟んでいるが、気配も乱れるし、視線も真っすぐ来るので、素人臭い。

ただ、身のこなしはなかなかのモノなので襲撃かと警戒していたのだが、動く様子は無いようだ。


 食後のお茶を飲みながらノアと話すカルヴィリス。

「もしかしてノアは自分の容姿に興味が無いんじゃない?」

ぽかんとストローを離し口を開けるノア。

なんの話かそもそも理解していない。

「すごく美人さんなのにもったいないわよ?」

カルヴィリスも美形ではあるのだが、ノアは特別整った容姿をしている。

洋服屋の店員も大喜びで色々出してきて着せ替えていた。

スタイルも良いので何を着せても絵になるのだ。

途中からカルヴィリスも加わり、髪型までいじりだしたのでキリがなくなった。

「寒かったり、暑かったりしなければいい。服は」

正に全く興味がない返答であった。

「勿体ない」

香りのいいお茶を楽しみながら、ノアの反応も楽しむカルヴィリス。

「ルヴィも美人だから、服を買うといいよ」

突然ノアがそんなことを言った。

「別に美人じゃないわ。いい年だしね」

ちょっと嬉しかったのか笑顔になるカルヴィリス。

年は実年齢ならすごいものだろうが、見た目は20代前半だ。

「服だっていっぱい持ってるのよ?」

変装用である。

様々な職種に見える服を持っていた。


でも、今度買ってみようかなとも思うカルヴィリスであった。






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