【第64話:アミュアのちず】
ユアはラウマ像の前に立っていた。
両腕には確かな重み。
アミュアが損なわれず揃っている。
ペタンと座りアミュアを抱きしめるユア。
止めどなく涙があふれ、あーんと泣き出した。
それは喪失の苦しみではなく、腕の中に取り戻した喜びの涙であった。
ラウマ像は静かに微笑み立ち尽くしている。
しばらく泣いていると、優しく話しかけられる。
(ユア、きこえますか?)
はっと顔を上げるユア。
(もうあまり力がないので、大事なことを伝えます)
ラウマの声だ、最近ずっと一緒だった弱々しい方のラウマだ。
(最後にのこった全てをアミュアに与えました。わたくしはアミュアの中に僅かだけ残っている状態です)
頭の中に直接響く声はどこからなのか解らずキョロキョロしてしまうユアだった。
(わたくしを保つにはとても沢山の力が必要です、アミュアにその知識を授けるので可能でしたら力を受け取りに行ってください)
「よくわかりませんが!わかりました!」
とてもユアらしい返事ににっこりとなった気配が伝わってくる。
(わたくしは力が乏しいのでしばらく眠りにつきます。どうかアミュアとノアをお願いしますユア)
そうして声は途切れ、その後何かが聞こえることは無くなったのだった。
なかなかアミュアが目覚めないので、そっとラウマ像の前に自分のマントを枕にして寝かせるユア。
「このままじゃ可愛そうだから服を準備してあげよう」
そう独り言を呟きながら、祠の外に出る。
「夜霧!いるかな?!」
少し強めに声をかけてみる。
すうっと影から夜霧が出てきて体を擦り付けてきた。
嬉しくなったユアも夜霧に抱きついて、涙を流すのだった。
「よかった、夜霧までいなくなったらあたし耐えられないよ‥‥」
ユアの泣き顔をペロリと舌でなめる夜霧。
元気出せよと言われた気がして、ユアも力を取り戻す。
「夜霧の鞄に服有ったよね?」
そういいつつ後ろ足の横左右につまれたバックを漁る。
「あったあった。アミュアの服もあるね!ありがとう夜霧」
いろいろ困った経験から、予備の服は必ず複数もつことにしているユア達だった。
そこにはラウマ用に買い込んだものも一式あって、ちょっと淋しくなるユアであった。
(いつかまた3人で旅をしたいな、ラウマも一緒に)
短い間だったが、姉妹が増えたような嬉しさを感じていたのだ。
アミュア以上に生活力がなかったラウマは一層面倒を見たく成る対象だった。
とりあえず今のアミュアはボロボロの服しか着ていないし、下着も全滅なので一式持って戻った。
そこには上体を起こして、じっとユアを見ているアミュアがいた。
「アミュア!」
服を取り落とし、アミュアに駆け寄るユア。
アミュアを抱きしめようとしてパシっと払われる。
「いたいよ?!アミュア抱っこさせてよ!」
「アミュアはそんなかんたんに抱っこさせません」
「???」
アミュアの視線に親しみは無く、不信だけが満ちていた。
「んっと、あたしのこと知ってる?」
「知りませんたぶん」
「ガーン」
ユアが悲しそうにするとアミュアはなぜか胸が苦しくなったのだった。
表情は変えなかったが。
しかしその僅かな変化を見逃すユアではなかった。
(すこしだけ感触があった。諦めちゃダメだ!)
「わかったよ‥じゃあこれから少しづつ仲良くなろうね!」
「いえ今のところそのよていはありません」
「ぐふぅ」
ユアはちょくちょくダメージを追いながらも、なんとか意思を疎通していくのだった。
「これアミュアの服だから着替えるといいよ。ボロボロだから」
「どうしてボロボロなのでしょう?思い出せないのですが」
うーんと考えてユア。
「今のアミュアは記憶を無くしてしまったの。前は仲良くしていたんだよあたしと」
「そうですか」
「どこまで記憶があるの?アミュア。名前は覚えてるんだよね?」
「はいアミュアはアミュアです」
こてんと首を傾げて考えるアミュアが答える。
「あとはぼんやりとしか覚えていません。戦っていた記憶がすこしあります」
うーんと考えるユアだったが、それ以上は考えが浮かばなかった。
「まいいや、とりあえずそれはアミュアの服だから着替えるといいよ」
服を受け取ったアミュアは頷いて着替え始めた。
まったく躊躇なく裸になるアミュアを見て、心配になったユアが着替えているアミュアに質問する。
「前に教えた女の子の魔法の話し覚えてるかな?」
すっと上を見て片足をパンツに突っ込んだまま考えるアミュア。
「はい、それは覚えています。少女の体には男を惑わす魔法があるそうです」
言いながら残りの足も通して着替えを進めた。
(下着の付け方は覚えてるみたいだし、女の子魔法もちょっと不穏だけどもちゃんと覚えている‥どうゆう基準なんだろう)
そうして着替え終わったぼろぼろの布を何故かぎゅっと抱きしめるアミュア。
「どしたの?」
ユアの質問に答えず、抱きしめた布を不思議そうに眺めるアミュアがいた。
「よくわかりません」
そんな返事がとてもアミュアっぽく感じてクスっと笑ってしまうユアであった。
「あ、そういえば。アミュアの中にラウマの知識があるはずなんだけど。思い出せる?」
「んっと。あ!これですね。わかりました」
アミュアはきょろきょろして、何かを見つけてとことこ歩いていく。
なんだろ?と思いながら後ろをついていくユア。
落ちていた小枝を拾いがりがりと地面に枝で絵を描くアミュア。
結構上手である。
よく見るとそれは地図で、現在地にはぐりぐりと描かれたユアとアミュアとラウマがいるのだった。
かなり広い範囲を描いていて、ユアが行ったことがない地域まで及んでいた。
そしてある程度地図が広がった所で、あちこちに星マークを書き始める。
現在地にも、雪月山脈をこえた先にも星が描かれていく。
その数が10を超えた所で、もどり現在地と廃城にバツを上から書いた。
ここまでいくとユアにも意味がわかる。
「これもしかしてラウマ様の力が残っている場所ってことだ?!」
「せいかいです」
いいながら近くのもりにクマや犬を書き足していくアミュア。
むしろそっちがメインというように描写がしっかりしている。
(ここに行けばラウマを呼び出せるのかな?)
しばらく考えるユアを放置してアミュアは絵を描き続けていた。
「よし!一番近いここを通って、もう一度廃城に行こう!山頂で馬車も回収だ」
方針が決まり、ついに新しい旅を始めるのであった。
ふたたびバディとなる旅を。




