その先に
拓が柔道場へ向かうとそこには一人でつっ立っているゴリを見つける。
「よぉーう!ゴリ~」
「なんだお前か」
「あれ?お前の他に三年の柔道部の奴ら来てないのか?」
「もう帰ったよ」
「そっか、な~んかしんみりしてんなぁ~」
「お前はこの学校に何の思い出の場所は無いのか?例えばあの屋上とか」とゴリは天井を見ながら言った。
拓は「もう行ってきたよ」と嘘をついた。
ゴリはひざまずき畳に手をつけた。
「俺はここで三年間汗を流した。ここから人生が変われると思っていたのに結局、俺はずっとスタート地点に立ったままだったんだな」
「そんなことねぇーよ!お前は確かに一歩前に進んでるぜ!」
ゴリは笑って立ち上がった。
「俺を持ち上げても何も出ないぞ」
「そんなんじゃねーけど、ちっとな・・・」
「どうせ喧嘩だろ?いいぞ!」
「えっ!?」
「踏ん切りがつかないんだろ?ちょうどスッキリしたかったんだ」
拓達は道場裏の空き地に向かった。
「もうここに来ることも、ここで殴り合うことも無いんだろうな」
「卒業だからってお前と冨田に華持たせるつもりはないぞ」
「別にいいさ、正真正銘これで最後の拳にして、最後の喧嘩だ」
「ほぉう自信があるってわけか」
「俺はこの三年間で色んな傷を負った。でも、その傷は俺を成長させてくれた気がするんだ」
「そういうのを自惚れって言うんだ。本当に成長したかは周りの人間が決める」
「なら、喧嘩部門についてはお前が評価してくれ!その他はこれから多くの人が評価するだろ?」
ゴリはクスッと笑った。
「本当にお前は面白い奴だな・・・」
2人は春風に背中を押されるように前へ走り出した。
拓は喧嘩の傷が癒えないままアメリカへと旅立った。
4年後・・・
短髪の黒髪にグレーのスーツとズボン、しましま模様のネクタイと純白のカッターシャツに黒色のピカピカな革靴、手にはカバンを持った拓は再び桜の木に挟まれた東学の門を潜った。
職員室で大きく元気な声であいさつをして今日から教育実習生として学び、そして教えることになった。
職員室にはもちろん知っている先生方がいる。
「桐嶋久しぶりだな!」
「はい!」
「まさかお前が教師を目指すとわな~」
「自分もまさか自分の学び舎に来れるとは思わなかったです」
「そうだよな~、え~と桐嶋君は2年3組の担任の安田先生の所に行ってもらうから」
「はい、分かりました」
拓は2年3組の教室がある3階へ向かった。
向かう途中、廊下の窓から柔道場を見た。
「なっつかしいなぁ~!ハハッ何にも変わってないなぁ~」
そんなことを思い出しながらトイレに立ち寄ると一人の先生と出くわす。
「もしかして安田先生ですか?」
「そうですが・・・」
「あ!遅れて申し訳ありません!私、今日からこちらでお世話になる教育実習生の桐嶋拓と申します」
「あ~すみませんね、職員室に居なくて・・・」
「いえ、何か用事でも?」
「まぁ・・・ちょっと」
話していると3人組の男子生徒が来た。
なぜ拓が東学で実習生になったのか?なぜ2年3組なのか?すべては決められたレールの上を歩いていたことが後に分かるのであった。