お腹は丈夫だった話
今だから笑える話
ちょうど右肩の手術後、だいぶ右腕が動かせるようになった頃の話です。
当時、社員寮に住んでいた息子の様子を見に行きました。
まだ独身の頃です。
一緒に買い物をして、夕飯を作り、卵やら何やら買い込みました。
重い物が持てなかったので、買い物は息子に手伝ってもらいました。
翌朝。
オムレツを作ろうと冷蔵庫を開けると、扉の卵置き場に卵が四つほどありました。
「あら、卵あるじゃない」
私は当然のように、
「古い方から使おう」
と思いました。
卵を割ってみても見た目は普通。
特に違和感はありません。
ふわふわのオムレツを作り、ケチャップをかけて完成です。
起きてきた息子が目を輝かせました。
「美味しそう♪ お母さん、先に食べてていいよ」
私はお言葉に甘えて、一口。
「あれ?」
何だか変です。
卵の味がしないというか、妙にぼんやりした味。
首をかしげていると、息子がおそるおそる聞いてきました。
「それ……昨日買った卵で作ったんだよね?」
「いいえ。冷蔵庫にあったのを先に使ったわよ」
すると息子の顔色が変わりました。
「なんで新しい方から使わないの!?」
「えっ? 普通、古い方から使うでしょ?」
そう言いながら、私はすでに半分ほど食べています。
当時の私には、
「食べ物を残す」
という選択肢がほぼありませんでした。
息子はオムレツを見つめたまま言いました。
「俺、朝ごはんいらない。ごめん。時間ないから行く」
「えー、せっかく作ったのに」
私は不満顔。
息子は玄関で靴を履きながら振り返りました。
「あの卵、半年以上前に買ったやつ」
そして、そのまま逃げるように出勤。
私はしばらく固まりました。
「えーーーーーーっ!?」
もちろんオムレツは即処分です。
でも、
「食べちゃったじゃないかあああ!」
という気持ちは消えません。
その日の夜、帰宅した息子と口論になりました。
「何で半年も卵を放置するのよ!」
「昨日、『卵ないから買おう』って言ったよね?」
「言われたけど、実際にあったら勘違いだと思うでしょ!」
すると息子が言いました。
「息子を信用しすぎだよ。僕がちゃんと自炊していたとでも?」
確かに。
冷蔵庫の中には賞味期限切れの物が大量に入っていました。
「言ってくれたら卵も捨てたわよ!」
「気付かなかったの! 新しく買ったから大丈夫だと思った!」
まあ、済んだ話を蒸し返しても仕方ありません。
私は、
「これからはちゃんと処分してよ!」
と強く言い聞かせておきました。
ちなみに、食中毒は大丈夫でした。
本当に何ともありませんでした。
変なところだけ丈夫な私です。
それ以来、息子の冷蔵庫に入っている物は信用しないことにしています。
後日談
息子の冷蔵庫には、さらに恐ろしい物が入っていました。
謎の海外食品です。
どれも日本語ではない文字が並んでいる。
「ああ、それね。海外赴任した同期がお土産で持ってきてくれるんだよ」
息子の部屋は本社に近く、独身だったこともあって、同期たちの宿代わりになっていたそうです。
賞味期限はたぶん大丈夫。
たぶん。
でも、中身も食べ方も分からない。
半年物の卵を食べた私ですら、そっと冷蔵庫を閉めました。
「息子君、君、あれ食べる気ある?」
「ない!」
即答でした。
半年間卵を放置した男である。
結局、帰る前に新聞紙を持ってきて、中身が見えないように包み、私がまとめて処分しました。
あの頃の息子の冷蔵庫は、まさに魔境でした。
今思うと、よく半年物の卵だけで済んでいたものです。
その後、息子は無事に結婚しました。
今はしっかり者のお嫁ちゃんがいるので、さすがに冷蔵庫が魔境になることはない……と思いたいです。
卵って、意外に大丈夫なんですねー(遠い目)
真似しないでください(誰もしないと思うけど)




