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26 計画発動か ジェニファーSide 

 私は全部の貴族・公爵家の弱点を把握し、いざとなればそれを叩き潰すためのプランを準備していた。


 筆頭はもちろん、クイーンズマディーノモベリー公爵家だ。彼らが資金繰りに青色吐息で、領地の開発に乗り出しているのは把握している。19世紀後半、世界中の貴族が鉄と石炭の時代に対応を余儀なくされた。失敗し、多くの領地が失われた。


 一方で、今回私は会社を設立して、宝石の売買で一気に多額の金を集めた。密かに土地を買い占めてはいる。クイーンズマディーノモベリー公爵家が任せている土地もだ。土地所有貴族と抵当債務においては、先の未来を生きていた36歳のワーキングマザーの方が熟知している。この先に何が起きるか知っているのは、私の方だ。



 はたからは、皇太子の愛に溺れているとしか見えないだろう私は、今回、何も準備していないわけがない。アンドレア皇太子の愛に溺れているだけでは、貴族社会で生き残れないのは2回の死に戻りで明白になったのだから。


 今回の人生では、決して負けない。

 私は必ず生き残る。

 転生も思い出し、遥か未来の知識も使える。

 これから何が起きるかも預言者のように知っている。


「パトリシアが兄と結婚するわけございませんものね。皇太子と結婚するなら初婚に限りますから」


 私は嫌味を言った。19世紀に離婚歴のある女性を皇太子に迎えることができる国はほぼいない。未来で起きる「王冠をかけた恋」そのものだ。キングにはなれない。まだ19世紀なのだから。


 パトリシアが本気でアンドレア皇太子を奪い返す気なら、皇太子以外とは結婚はしないはずだ。


「そうでございますわ。私は妹のアンですの」


 クイーンズマディーノモベリー公爵家の財政基盤は、もはや石炭と鉄の時代となった19世紀に置いて、生き残れるものなのか。抵当債務から何から何まで調べ上げた私にとって、クイーンズマディーノモベリー公爵家を脅しあげて、場合によっては窮地に陥れ、力を奪うことができる。


 クイーンズマディーノモベリー公爵家は帰路に立っている。大袈裟に高貴な身分を自負する彼らは、賭博や高級思考、何人もの愛人、過度に飾りたてた生活スタイル、頻発する増築、新築、改築等で、要は無計画な幾年にも渡る浪費が祟り、莫大な負債を抱えこんだ。


 ブレッチダービー公爵、ヒュームデヴォン伯爵も然り。 

 

 だから、彼らは皇太子を懐柔できる愛人を用意して、自分たちに有利な経済活動をしようととしたのだろうが、先祖が財産を浪費した筆頭原因にある「愛人」をアンドレア皇太子に当てがおうとする思考がもう終わっている。彼らは先代が積み上げてきた莫大な負債を抱えているが、行動はさほど変わらない。


 メッツロイトン家のようなケースではない。

 見た目は贅沢三昧を繰り返し、内情は火の車という、典型的な身分不相応な浪費を繰り返す自転車操業に近しいライフスタイル。


 残念ながら、私はクラッシャーだ。

 二度も死に戻りしたのだ。

 カミソリのように尖っていて、確実に相手を追い詰めるのだ。子供を守るためには、冷酷に計画を進めるのだ。


 生き残りをかけた私のプランは、準備が整い始めていた。


 さあ、クイーンズマディーノモベリー公爵家の思惑を徹底的に調べて、有無を言わさず強硬手段を取るべき自体か考えよう。


「アンさま。ようこそギルフォード・カースル5へ」


 5年戻る「死を回避する球」は私が回収済で、私が持っている。メッツロイトン家から奪おうとしても、無駄だ。


「パリの帽子屋で買った帽子ですわね?私も持っておりますわ。よろしければ、リンメルの香水とゲランのスティックタイプのリップを分けて差し上げましょうか。先程お義母さまにも差し上げましたのよ」


 アンと名乗るパトリシアそっくりの令嬢は、私に親しげに微笑みかけて、話し続けている。


「まあ、私も持っていますわ」


 私は愛想良く調子を合わせた。


 その2大メーカーは遥か先の未来でも生き残って、やはり素晴らしい化粧品メーカーとして君臨しているわ。


 私も生き残るつもりよ、アンさん。

 いえ、パトリシアかしら。

 あなたが燃やしたうちのシーツを覚えているかしら?


 私たち家族はあなたに用心する理由があるのよ。


 皇太子妃になってアンドレア皇太子に夢中になっているだけの私では、今回はないわ。


 私は兄のショーンとにこやかに微笑み合いながら、売買契約書の入った鞄を目の端で確認した。1854年にパリのカプシーヌ通りにオープンしたヴィトンのトランクだ。今も生き残る素晴らしいブランドだ。


 このトランクには特注で錠前をつけてもらった。


 パトリシアが前回引き起こしたシーツ放火事件を受けて、ギルフォード・カースル5には、青い鉱石が至る所に密かに設置されている。基礎魔力レベルでは、魔力発動が抑えられる。私のトランクの中にも入っている。なんなら、オーガンジーの今着ているドレスのポケットにも入っている。私が仕立ててもらっているドレスには隠しポケットが全てついている。


 敵はあなたか?


 私は笑顔の裏で、敵が本性をあらわにするのを待ち構えていた。







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