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21 最愛の妻の秘密 アンドレア皇太子Side

 ブロンドのような赤褐色のような不思議な色の柔らかい髪。 


 手入れの行き届かない、誰が切り揃えたかも分からないような髪の毛だったが、今は手入れは行き届き、美しい艶があり、街一番の美容師の手によって素晴らしいカットになっている。


 母の時代までは、女性の多くは自宅で髪を整えていたと聞く。だが、今は19世紀後半だ。ナポレオン3世の皇后ウジェニーが髪型を素敵に整えるために王室美容師を雇った。我がヴィーラにも母と父のための王室美容師がいる。1870年になると、貴族の上流階級をターゲットとする「高級ヘアサロン」が誕生した。


 その1つにリーヴァイがジェニファーを連れて行ってくれた。なんとそこで、ついこの間、ジェニファーとリーヴァイはパトリシアに会ったらしい。


「とても元気そうだったわ。彼女の髪の毛にはパーマが当てられていたのよ!」

 

 ジェニファーは感慨深そうに遠くを見つめる眼差しで、そうつぶやいていた。


「パーマ?」


 俺は聞き返した。耳慣れない言葉だが、彼女は当たり前のように話した。時々だが、ジェニファーは100年先の未来を知っているのではないかと思う時がある。


 公衆衛生法、学校教育法、慈善活動のあり方、栄養学、全てにおいて卓越したセンスを持っていた。父である皇帝も、彼女の意見を熱心に聞きたがった。俺はそのことについても、鼻が高かった。父は俺に意見をあまり求めない。俺のことをそれほど認めているとは思えなかった父で、ジェニファーしか断固妻に認めないと俺が意地を張った時は、勘当されるかと思ったほどだ。


 だが、今はどうだ。皇帝として、ジェニファーの皇太子妃としての資質を高く評価してくれていた。俺は初めて父に認められたのだ。


「お前の人を見る目は確かだな。ジェニファーは素晴らしい」


 この前、俺は父にそう言われて、グッときてしまった。飛び上がるほど嬉しかった。母も彼女の美容に関する知識を嬉しそうに聞いている。母は最初からジェニファーの味方だった。俺の母とジェニファーの関係は良好だ。

 

 母は孫を楽しみに待っていると俺に囁く。


 俺は「それだけは神様の思し召しだから」と答えるにとどめる。だが、そうなったら本当に嬉しい。 



 彼女の瞳は青い。

 彼女のその青い瞳が俺を見つめる時に、胸はキュンとし、彼女を抱きしめたいといういう欲求がゆっくりと湧き上がる。少し切ない。


 妻になったのに、相変わらず、彼女を見るとカッと体が熱くなるような、いてもたってもいられないような、見ている俺がどうしようもなくなる衝動に駆られてしまうのだ。ジェニファーは不思議な魅力の持ち主だ。


「もしも、僕たちの間に子供が生まれたら……」


 ジェニファーに言いかけたら、ジェニファーは驚いた顔をして俺を見て、即答した。


「ウィルと名付けるわ」


 ジェニファーは柔らかい微笑みを浮かべてキッパリと言った。


 ――この前、泣いていた時に言っていた名前か……?


 ――結ばれることのなかった愛する男の名前を、自分の子供につける心理だろうか……?


 俺は戸惑って、一瞬固まった。


「どうしたの?アンドレア?」


 ジェニファーの青い瞳が俺の顔をのぞきこむ。


 俺はジェニファーをぎゅっと抱きしめた。


 ――いや、余計なことは考えるな。今、ジェニファーは俺の妻になってくれたんだ。何も考えるな。


「いや、良い名だなと思って……」


 その言葉を聞いたジェニファーはビクッとして俺を見上げた。ジェニファーの顔がくしゃくしゃになり、泣き顔になった。彼女の青い綺麗な瞳に涙が溢れている。


「ほんとうに……?あぁ、アンドレア!」


 ジェニファーに泣きながらキスをされた。


 ――これはどういう展開なのだろう?彼女のおそらく好きな男の名前を自分の子につけると最愛の妻が言った。それに俺が良い名だと肯定した。そうしたら、最愛の妻は嬉し泣きをしてキスをしてきた……?


 俺はジェニファーのキスに応えながら、胸のうちがさざめくように切なさが満たすのを感じた。


 あぁ、これが恋か。

 これが妻に恋するということか?


 ジェニファーは子作りに熱心だった。それは夫として最高の妻ということだ。彼女は俺の要求にいつでも、素晴らしい情熱で応えてくれた。


 ――だが、愛する人の名前を自分の子につける……?


 俺は混乱して、嫉妬でどうにかなりそうな気持ちになった。ますますジェニファーが欲しくてたまらなくなった。


 ――ただ、このことを相談できる人は誰だろう?

 ――ドヴォラリティー伯爵家を今日は訪ねよう。リーヴァイに相談してみよう。


 俺はジェニファーが集めている初版本のコーナーをぼんやり見つめながら思った。


 ディケンズの二都物語、アンクル・トムの小屋、戦争と平和、黒馬物語、ジェーン・オースティンの高慢と偏見、色々だ。


 俺は読んでいないものもあるが、いずれもベストセラーばかりだ。いや、これから売れるのかもしれないものも含まれている。


 ――ジェニファーはこういった情報をどこから集めているのだろう?リーヴァイだろうか。



 俺は思考を手放して、キスに集中し始めようとした。切なさでどうにかなりそうになったから。




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