20 妻が可愛すぎて頭が痛い アンドレア皇太子Side
妻が可愛すぎて頭が痛い。
妻はビジネスに夢中だ。俺の方も少しは振り向いて欲しいと思うのに、いや、妻が俺を疎かにしているというわけでは決してないが、貴族交友関係の相関図を作ったり、ドヴォラリティー伯爵と会社の事業について方針を決めたりと、とにかく忙しそうだ。
俺は妻のことをずっと見ていたい。
妻となるべく一緒に過ごしたい。
ジェニファーは、メッツロイトン家のカントリー・ハウスの建て直しにも夢中で取り組んでいる。ギルフォード・カースル5が見違えるほど美しく整備されて行く様を見ているのは、俺も楽しい。
だが、だ。
俺だけの妻だが、ジェニファーがどこか遠くを見つめているような気がする時がある。彼女の心の中には、俺以外にも大切な誰かがいるのではないかと思う時がある。
それが、リーヴァイ・ドヴォラリティー伯爵だとは思えない。彼を見つめるジェニファーの眼差しは、優しく、期待に満ちているが、愛のときめきを感じさせるものではない。
自慢ではないが、俺を見つめる時のとろけるようなジェニファーの眼差しは、リーヴァイに向けられた試しはないと思う。
ジェニファーがビジネスに情熱を注ぐ様は、見ていて頼もしい。だが、もっと一緒に過ごしたいとジェニファーに打ち明けたいとも思っている。
急かされているように彼女がビジネスにのめり込み、なぜそれほどまでに、メッツロイトン家の勢力の拡大に心血を注ぐのか。貴族や有力者との親交を深めて、交友関係を拡大して行くことに、なぜそれほどまでに真摯に取り組むのか。俺には分からない。ジェニファーが遠くを見つめているように寂しく感じる時がある。
今日は、彼女の誕生日だ。
俺の隣でジェニファーが眠っている姿を毎日眺めることができるのは、これ以上の幸せがあるとは思えないほどに、俺をときめかせ、俺を幸せで満たす。すぐ手の届く位置に彼女が無防備な姿で静かに寝息を立てているさまは、毎回俺の胸を打ち、幸福感でいっぱいになる。
俺は朝早くから目覚めて、結婚してから初めてのジェニファーの誕生日を祝おうとジェニファーを眺めていた。
だが、突然、彼女が苦しそうに切なそうに突然泣き出した。
「ウィル……アーサー!ロイ!だめよっ!」
彼女は眠りながら叫び、涙をこぼしていた。彼女が口にしたのは全員男性の名前だ。俺の体は硬直した。
――誰だろう?
ジェニファーの兄はショーンだ。
泣き崩れているジェニファーの髪の毛を思わず撫でると、ジェニファはー目をあけて、俺を見るなり、抱きついてきた。彼女は俺の胸で泣きじゃくった。
「あなた……ごめんなさいっ……」
俺は何のことか分からず、ひたすら最愛の妻の体を抱きしめて、背中をトントンと叩いてあやした。
ジェニファーはひどく泣いていた。ジェニファーにこんな感じで「あなた」と呼ばれたのは、いつ以来だろうと俺は考えていた。ジェニファーは普段は「アンドレア」と俺のことを呼ぶ。
最初に泉で会った時。
初めてギルフォード・カースル5を訪れた夜。
俺はしばらくジェニファーを抱きしめていた。
ジェニファーが泣き止んだあと、しばらくして、俺たちはゆっくりとキスをした。
妻は可愛すぎた。
胸に黙って抱きしめているだけでは、耐えられそうもなかった。




