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#28 水の国・道中

 村で一泊した次の日、パン屋の娘が昼食にと持ってきてくれたパンを頬張りながら、竜車の中で姦しく話をする女子4人組が居た。


「へ、へえ、それでキ、キスする寸前までは行ったんだ……」

「意外と勢いがいいわねえ志郎くんも」

「えへへ……」

「えへへじゃないっつーの。ユートにゃまだ早いよまったく……ふん」


 男子側には丸聞こえなので、まったく肩身が狭くなる思いだ。ユートは何やら頬を染めてニコニコしながら、手首を大事そうにさすっている。エステルの方は相変わらずジト目だが、特別機嫌が悪いようには見えない。泣いたことについてはさすがに伏せているようだ。


「まあ酒に酔った勢いで、ってよりはマシじゃあないかな」

「そうかもしれんね。しかし進展が早いなこの3人は」

「……どうでもいい」


 まあこっちはこっちで色々言われてるわけだが。昨晩は酔ってないにせよ謎のテンションだったので、あまり良くもない気がするんだけど。クレスに関してはとことん興味なさそうにしているので逆に助かる。


(で、ぶっちゃけどうなんだ)


 カイがこっそり耳打ちしてきた。


(ん?)

(ユートとエステルだ。どっちがいいんだ?)


 思わず吹き出しかけた。

 ……どっちが、と言われると困る、のだ。何故かと言えば。


(どっちがいい、と言うよりどちらが欠けてもしっくりこない、って感じかなあ……)


 そして、それはユートとエステルも同じ気持ちなのだろうと思う。少なくとも、今は3人が揃っていないとヤバい。昨晩の出来事で、そんな奇妙な確信をしている自分がいた。


(そりゃあまた大胆なことで! まあ嫌いじゃないぜ、そういうのも)


 カイには何か少し誤解されているような気もする。しかしいまいち訂正する気力も沸かなかった。


「志郎」


 とか言ってるとクレスが声をかけてきた。話を聞いていたのだろうか。これまでにないくらい真剣な眼差しだった。


「……あの2人にも言えることだが、あまり、依存しすぎるなよ。もしもの時辛いぞ」


 ―――物凄くクリティカルな部分を刺された気がする。わかっちゃ、いるんだけどさ。クレス自身もどこか苦々しい表情だったあたり、体験談なのかもしれない……。




 昼過ぎになると、大きな河川が横目に見えるようになってきた。水の国には幾つもの川がある。それらが収束して一つの大きな川となり、滝となって流れ落ちる位置に首都ラグーンがあるのだという。世界でも有数の絶景だそうだ。


 このまま川に沿ってしばらく南に向かうと、各川が合流した大きな滝の上に出る。その脇に整備された崖道を通って下に行くと、そこがラグーンの入り口だ。


 道中では何度か馬車やキャラバンらしき隊列とすれ違ったくらいで平和なものだった。この辺りはほぼモンスターも出ないらしい。……星の国は割とモンスターが出る方だったようだ。ただし水の国は水の国で危ない場所も割とあるらしいが。まあ洞窟の中とか鉄板だよな。




 夜は川岸をキャンプ地とした。釣り竿は持ってないが、魚を捕まえるのにチャレンジしてみる。

 どうやって捕まえるかと言うと……魔剣生成の応用で魔力の糸を針状に加工し、刺し貫いたあと引っ掛けて釣り上げるというものだ。夜なので魔力視を上手く調整して夜目を効かせないといけない。これもまた修行の一環なのだ。ちなみに必要最低限はミツキが鋼糸で同じようなことをやって釣り上げているらしい。便利だなあ、あれ。あと魔剣生成ができるということでエステルも巻き込まれていた。


「釣れねー。というか何処に何がいるかわからん。いっそ発破漁でもしたろか」

「色々と迷惑だからやめようねエステルちゃん」

「しかしこう暗いとなー……せめて水の中がよく見えれば……うん?」


 何やら下流の方からザバザバと音がする。これは……大物の予感!

 魔力の糸をそちらの方に伸ばしてみると、音がこちらの方まで近づいてきた。


「エステルちゃん、下がって」

「りょーかい」


 何やら尋常の魚では無さそうだ。……姿が見えてきた。シルエットくらいしかわからないが、大きな角を持っているように見える……。


「やっちゃっていいよ志郎くん」

「あいさー」


 魔力の糸の先端を針に変え、魚影を刺し貫いた。しかし魚影は構わず物凄い勢いで突進してくる!


「危なっ」


 思わず横に避けると、地上に打ち上がったそれの姿が露わになる。頭部に大きな角を持った、全長3m程はありそうな魚……のような骨のモンスターだ。

 ヒレを上手いこと使ってガサガサと走り回っている。陸上戦もできるのか……。再びこちらに向かってきたので、すれ違いざまに魔剣で首のあたりの骨をぶった斬ってやった。だがまだ頭蓋骨側はガサガサと動いている。危うく突進を食らうところだった。


「まだだよ。この手のモンスターは切り離されても平気で動いてくるからね」


 ミツキが鋼糸を頭蓋に挿し込み、電撃を流してから何かを回収した。……大きな魔石だ!


「こいつはスカルホーンフィッシュだね。アンデッドじゃないかとは言われてるけど、実際に発生する現場を見た人がいないから色々謎の多いモンスターだ」

「へえ……やっぱ本体は頭の中の魔石なのかな」

「うん。残った骨は火を通すと美味しい出汁が取れるらしいよ。わたしは食べたことないけど」

「じゃあ回収しておこうか」

「出来れば全部持っていきたいところだね。食用以外にも資料目的だったり観賞用だったりでそれなりに需要があるみたいだから」


 そんなわけで、ミツキが釣り上げた魚と一緒に、竜車までえっちらおっちらと運んでいく事になった。


「あ、志郎兄ぃお帰りなさーい……わ、凄いねそれ」

「なんだなんだ、モンスター釣り上げたのか」

「私達、骨は主食じゃないわよー?」

「大丈夫、普通の魚ならここに」

「気が利くわねーミツキは。カイも見習いなさいよ」

「はいはい」


 夕食は焼き魚だ。あんなモンスターが居た川で取れた割にはなかなか肥えてて美味しい魚だった。見た目は鱒に似ていた。


 今日の見張り役は俺ではないので、早々に眠ることにした。……ユートがくっついてきた。もう毎度の事だ。暖かくて心地良いと感じてしまう自分がいる。

 エステルは……何だか手が届くような届かないような微妙な距離まで近寄ってきてから寝ていた。

 そんな2人を尻目に、俺も目を閉じ、眠りについた。







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■――再びこの場に来るか――■■■■■■■■■■■■■■■■

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■■■夢を通して、■■■に精神が迷い込■■■■■■■■■■■

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■■■蜃気楼か。それは■■■■■的を射て■■■■■■■■■■

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■■■■■を呪う事があればまた来るがいい。その時は――■■■

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『―――"魔王の種"をくれてやろう―――』

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「……っ」


 何か、嫌な夢を見ていた気がする。中身は思い出せない。全身が汗まみれだ。動悸もする。


「志郎兄ぃ、どうしたの? うなされてたみたいだけど大丈夫?」

「あんたにしちゃ珍しいね。何か変な夢でも見た?」

「いや、それが全然覚えてなくてなー……」

「ふうん、変なの」


 なんかこう、二度と出会いたくない奴にまた会ったような夢だった気がする。何とも微妙な気分だが、覚えてないんならまあ良いだろう多分。


 さて、ここから数日もすればラグーンに着く。今度の町では何があるだろうか……。

■Tips

・アンデッド

 魔力が凝縮して動き出した死体のモンスター、または死体を基に作られたモンスター。後者はフレッシュゴーレムとも。しかし死体の出処が不明なケースが多々あり、ゴースト系モンスターと共に謎が多い。

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