#29 水の国・首都ラグーン
水の都と称される都市、ラグーン。この街は到るところに清潔な水路と、通路を結ぶ橋があり、移動用や観光用の遊覧船が水上を通っていた。
しかし何より目につくのは、大きな湖とそこに落ちる大瀑布をバックにした巨大な城だ。晴れた日のためか、建物の上に後光のように虹がかかっている。
「わあ、凄いね志郎兄ぃ!」
「確かにこりゃあ絶景だなー」
水の都と言われると静かで清廉なイメージがあるが、ここまで迫力のある光景が見えるというのは嬉しい誤算だ。お城なだけに、どことなく見せつけられてる感もあるが。
竜車を停留所に置き、市街地を皆で歩く。市場では新鮮な川魚や果実が売られていた。アクセサリや布地などを取り扱った店もちらほら見受けられ、ユートなどはしきりに気にしていた……時間があったら後で付き合ってあげるか。
「さて、俺達は公演の許可を貰いに行くが、お前達はどうする?」
「なんなら付いてきてもいいわよ?」
「ねね、みんな行ってみない? ボク、お城の中とか気になるんだ」
ユートは興味津々のようだ。さて、どうしたものか……。
「そうねー、面倒だけれど私達も久々に行ってみようかしら。いい、クレス?」
「……俺はどちらでもいい」
「わたしは行ってもいいよ」
カエデは面倒臭そうにしてるけど、エステルは何気に乗り気らしい。うーん、興味もないこともないし行ってみようかな。
「じゃあ俺はついてこうかなって思うんだけど……礼儀作法とか大丈夫かな」
「あー、その辺りは俺達の見よう見まねでいいぞ。昔ならともかく、今はその辺りはそれなりに寛容だって話だしな」
ふうん。じゃあ致命的なマナー違反はしないように大人しくしていようか。そういえばこの世界のお偉いさん方のマナーとか教えられてないよな……元々そういうのには無縁だったし、特に困ったこともなかったけれども。
湖の手前にある城門では、番兵の人に俺やユートやエステルを怪訝な目で見られた。顔が知られてないからか、単に冒険者としては見た目若いからか……まあ、特に何事もなく入ることができた。
見学可能区域というのがあるらしく、そこまでなら一般の人々でも出入りが可能らしい……もちろん入念なチェックが行われるのだが。
城の中は流石に広々とした豪華な内装だ。絵画や石像などの調度品もあるが、とりわけ目を引くのは、ガラスのような透明な素材の床になっているところがあり、その下を水が流れていることだった。元の世界でも見たことがある……気がする? それにしても何で出来ているんだろうか。まさか単なるガラスってわけでもないだろうし。
「凄いね、志郎兄ぃ!」
ユートは羽根をパタパタさせてはしゃいでいる。行き交う人々からは奇異の視線で見られている……羽根も原因だろうけど。
「ほらユート、はしゃがないはしゃがない」
エステルがユートの首根っこを捕まえて引っ張っている。こうして見るとどっちが年上なのやらって感じだ。
受付で対応にやって来た文官の人にカイ達が事情を説明すると、得心した様子で道案内をしてくれた。
「では、各地を回っておられると」
「ええ、しばらく日の国に籠もっていたものですから。そろそろ各国の行脚でも、と思っておりましたの」
「成る程。噂に聞く歌姫の公演、我が国の臣民も楽しみにされることでしょう」
普段、ツバキが丁寧な言葉遣いをしているのはあまり見ないが、こういう場ではそれが普通なのだろう。
ふと横に視線をやると、兵士たちの訓練場のようなものが目に入った。得物こそ訓練用の武器だが、防具を着込んで激しい勢いでぶつかり合っており、迫力は実戦さながらだ。
「おや、兵の訓練に興味がお有りですかな?」
「え? ああまあ、冒険者としては少し」
文官の人にいきなり話しかけられてちょっとビックリしてしまった。興味は……まああると言えばある。何だかんだでこの世界に来て数ヶ月も経っていないので、正道に則った戦い方から学ぶべきことも多いだろう。カイ達には色々教えられているけど、彼らのはほぼ我流らしいし。
「確かに志郎にゃ色々参考になるかもな」
「そういうことでしたら、見学の時間をお取りしましょうか?」
「いいんですか?」
「ええ。たまには外の方が居た方が引き締まるというものです」
「まあ、どっちみち志郎たちには部屋の外で待ってもらうことになるからな……許可が貰えたなら見学していてもいいぞ」
それなら見学をさせてもらおうか。……何故かユートとエステルも付いてきた。まあ手持ち無沙汰なのだろう。カエデさんとクレスはツバキ達と共に案内されていった。
「おい、お前ら今日は外から来た見学人がいるからなー! しっかりとやるんだぞ!」
兵士達に激を飛ばしているのは、壮年の大男だ。それを聞いた兵士達はいっそう張り切った様子でぶつかり合いをしている。
男性が話しかけてきた。隊長格だろうか?
「君達が見学人か。私は兵士長のガルドだ。見たところ冒険者のようだが」
「どーも。青級冒険者の志郎です」
「ボクも青級冒険者です! ユートっていいます!」
「私は黒級のエステル」
「なるほど……君達さえ良ければ、訓練に参加してみないか?」
うん?
「たまにこうやって冒険者の人を訓練に誘ってるんだ。その方が色々刺激になるからな!」
それでいいのかなあ。ふとユートを見るとこちらを向いて目をキラキラさせてた。それは俺にやらせたいのか自分でやりたいのかどっちだ。
「じゃあ志郎とユートは頑張ってくればー。私はマジックユーザーだからパスで」
エステルって割とサボりたがりなんだよな……めんどくせーと言いつつもやる時はやってくれるけど。
それでまあ、結局ユートと一緒に兵士の皆さんと組手をすることになった。
「お願いします! やぁっ!」
「うわっ!?」
礼からの即攻撃! ユートは型破りだなあ、うん。初撃の袈裟斬りを間一髪で受け止めた兵士は大きく後退、しかし構え直す前に突っ込んできたユートの突進突きをもろに食らって吹っ飛ばされ、転倒した。
ユートはあれで魔力強化の具合もかなり強いからなあ。しかも最近は俺の元の世界の話から独自に編み出したのか、翼から魔力を放出して弾丸のような勢いですっ飛んでいったり、曲芸飛行したりなんかもする。見ててハラハラするけど。
「あのお嬢ちゃん、見かけによらずやるなぁ……っていうか本当に青級かありゃ」
「師範役が結構厳しいんでねー……」
「冒険者やってるのは伊達じゃあないみたいだな」
カイ達の修行ではただでさえ地力の差がある上、それこそ不意打ちから何からやりたい放題されるので、嫌でも対応できるようにしないといけなかったのだ。それらへの対応策などの教え方自体は丁寧ではあったんだけどな。
ユートは続けて次の兵士の相手をしている。相手の得物は槍だ。するとユートは相手の突撃に合わせて後方に跳んで下がり、同時に羽根を羽ばたかせて何かを大量に発射した。魔力の礫だ。威力は小さく、大盾を持った重装歩兵相手なら単なる牽制でしかなかっただろう。しかし、両手で槍を扱っている兵士には、防具で守られてない箇所にも次々と命中する。兵士は堪らずしゃがみ込んでしまった。その隙にユートは素早く近づき、槍を踏みつけて剣を突きつけた。
その調子で3人目、4人目と相手をしていく。やがて兵士達もユートのトリッキーな動きに慣れ始めたのか、徐々に試合が長引くようになっていった。
そうして10人程度を下した辺りで、ガルドさんから待ったがかかった。
「嬢ちゃんはまあその辺りで充分だろう。荒削りではあるが、動きの良さと戦法には目を見張るものがあった。皆、戦い方1つでも様々な方法があることが解ったろう。戦いの時は出来る限りあらゆる状況を想定するように! さて、次は……」
俺の番が回ってきたようだ。いっちょやってやりますか。
■Tips
・首都ラグーン
水の都として有名だが、特に"流水"に拘った作りとなっており、街や城の中で水の流れが滞る場所はほぼ存在しない。それが清潔さにもつながっている。
※ストックが切れたため、次回からやや不定期更新になるかもです




