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第2章 想定を上回る成功  第4話【 純粋な論理 】

志村は報告書を握りしめた。


フィクサーXという名を、彼はまだ知らない。


だが、その存在が生み出した

「完璧な静寂」は、すでに確かな形で、

日本の各地に静かに忍び寄り始めていた。


窓の外、朝の光が差し込む中、

志村は新たな捜査本部の設置を、

上層部に進言する決意を固めていた。

新設された捜査本部で、

志村は全国の類似事案の洗い出しを進めていた。


地方都市の資産家宅で起きた

今回の一件を皮切りに、

同種の手口による被害が、

この数週間でさらに三件

確認されていた。


いずれも、侵入の痕跡なし、

住人の認証記録に矛盾なし、

そして被害の発覚までに

数日から一週間のタイムラグがある

点で共通していた。


「発覚が遅いのは、偶然じゃない」


志村は被害報告のタイムラインを見つめながら言った。


「システムが、あえて

『気づかれにくいタイミング』を計算して

 選んでいる」


松永が資料を整理しながら頷いた。


「未来都市Kで見た『盲点』のコードと、

 今回の手口には、共通の

 設計思想が透けて見えます。

 ただ、今回は国家インフラではなく、

 民間の警備システムを標的にしている

 ……対象の裾野が、圧倒的に広い」


志村は、被害邸宅を巡回していた

警備ドローンの通信ログを、

改めて精査させた。


数分間の検知遅延――かつて

K市で確認したものと酷似したパターンが、

そこにも刻まれていた。


「同じ思想を持つ者の仕業だ。

 だが、蜘蛛でもなければ、

 K市を襲った実行主体とも、

 少し毛色が違う」


技術班の解析により、

標的となった邸宅すべてに、

ある共通点が浮かび上がった。


いずれも、過去数年以内に、

同一の民間警備会社と契約していたのだ。


そして、

その警備会社の通信インフラの一部に、

外部からの侵入を許すほどの、

極めて精巧な「模倣信号」が

使われていた形跡が見つかった。


「模倣、というより……もはや

 本物と区別がつかない」


技術班の報告に、志村は唸った。


この発見は、

志村たちに新たな確信をもたらした。


フィクサーXのシステムは、

単に

既存の脆弱性を突いているのではない。


数ヶ月、あるいは数年単位で、

標的となるインフラの

「正常な振る舞い」そのものを学習し、

完璧になりすますことで、

侵入という概念自体を無効化していたのだ。


「これは、もう『ハッキング』とは呼べない」


志村は静かに言った。


「奴らが行っているのは、

 システムそのものへの、完全な『擬態』だ」


一方、フィクサーXは、

日本の捜査本部が

自らの手口の核心に近づきつつある

という情報を、

依然として静かに受け止めていた。


彼にとって、捜査の進展すらも、

AIの精度を検証するための、

貴重なフィードバックデータの一つ

に過ぎなかった。



「人間という欠陥だらけの駒を

 パージしたシステムは、

 ついに一切のノイズを挟まない

『純粋な論理』として、

 物理世界とデジタル世界の双方を

 支配し始めていた」


フィクサーXは、

AIが生成した実験報告書の末尾に、

その一文を静かに書き加えた。


これは彼にとって、

単なる犯罪の成功記録ではなかった。


人間という不確定要素を排除しきった先に、

どのような世界が広がるのか――その

壮大な仮説を検証する、

最初の確かな一歩だった。


「次は、規模を広げる」


彼は

次なる標的候補のリストを呼び出しながら、

静かに呟いた。


地方都市の一邸宅から、地域一帯へ、

そしていずれは、

国家規模のインフラそのものへ。


彼の視線の先には、

まだ誰も想像し得ない次の段階が、

すでに見え始めていた。


日本では、

志村と松永が新たな捜査本部で、

まだ名も知らぬ敵の輪郭を、

少しずつ手繰り寄せようとしていた。


「純粋な論理」と化したその敵と、

人間である自分たちが、

いつか正面から対峙する日が来ることを、

志村は静かに、しかし確かに予感していた。


©2026 [風風風]. All rights reserved.

2031年冬。


警視庁サイバー犯罪対策課、新設された専従捜査本部。


志村涼一は、この一年で

積み上げてきた資料の山を前に、

静かに息を吐いた。


地方都市の資産家宅を皮切りに、

同種の被害は着実に増え続けていた。


だが、……。


本日、19:40 に、第3章 第1話を投稿します。

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