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第1章 カタリストⅡ  第4話【 未来都市K 】

「証拠がないなら、稼働までに作るしかない」


志村は資料を鞄に詰め込みながら、松永に告げた。


二人を乗せた車は、その夜のうちに、

まだ知らぬ脅威が静かに待ち構える九州へと向かっていた。

未来都市Kは、まさに完成の途上にあった。


街全体を覆う統合管理タワーには、

まだ工事用の足場が一部残っており、

正式稼働まで残り三週間という段階だった。


志村と松永が現地入りした時、

市の担当者たちは

国家的プロジェクトの完成を控え、

活気に満ちていた。


「稼働前のテスト期間中、というのが、

 まだ救いです」


松永が管理タワーの案内図を見ながら言った。


「本格稼働していない今なら、

 まだ介入の余地がある」


志村は

市の技術責任者に面会を求めたが、

当初は取り合ってもらえなかった。


国家プロジェクトの

根幹に関わるシステムに、

外部の――しかも確たる証拠を持たない

捜査官が疑義を挟むことに、

強い抵抗があったのは当然だった。


「五年前の未解決事件との関連性を示す、

 状況証拠だけです。……ですが、

 その状況証拠が示す先に、

 この街があるんです」


志村が粘り強く説明を重ねる中、

技術責任者の一人、

若い女性エンジニアだけが、

かすかに表情を変えた。


「実は……

 第二世代インフラのコアモジュールに、

 開発チームの誰も書いた記憶のない

 コードブロックが、一箇所だけあります。

 監査でも問題視されなかったので、

 そのままにしていましたが」


志村と松永は、顔を見合わせた。


そのコードブロックを解析にかけると、

これまで各地の被害で確認されてきた

「盲点」のパターンと、

寸分違わぬ構造が浮かび上がった。


防犯カメラと警備ドローンの管理系統に、

特定の条件が揃った瞬間だけ、

一時的に監視機能を停止させる

休眠プログラムだった。


「起動条件は?」志村が問う。


技術班が解析を進める間、

フィクサーXは静かに

K市への最終アクセスを試みていた。


彼のAIは、

まだ本格稼働前の

テスト環境という「隙」を突き、

休眠プログラムを試験的に起動させ、

街の一角――高額資産家が集中する

居住区の監視網を、

数分間だけ止めようとしていた。


だが、志村たちが

解析を進めていたその同じ瞬間、

休眠プログラムが

起動条件に近づいていることを示す警告が、

技術班のモニターに表示された。


「動きます! 誰かが今、

 外部からアクセスを試みています!」


松永が声を張り上げた。


志村は即座に技術責任者へ叫んだ。


「該当区画だけでいい、

 監視系統を、手動の

 バックアップ回線に切り替えられるか!」


「……間に合うか分かりませんが、やります!」


管制室内が慌ただしく動き出す。


フィクサーXのAIが

最終的な起動信号を送り込むまで、

残された時間はごくわずかだった。


結果は、辛うじての成功だった。


休眠プログラムが完全に起動する数秒前、

対象区画の監視系統は

バックアップ回線へと切り替えられ、

フィクサーXのAIが送り込んだ命令は、

宙に浮いたまま処理を拒否された。


実害は、一件も発生しなかった。


だが、フィクサーX自身は、

この結果に驚くことも動揺することもなかった。


「ふむ。……守られたか」


彼はモニターの向こうで、

静かにログを閉じた。


今回の一件は、彼にとって

あくまで実証実験の一つに過ぎない。


失敗もまた、AIにとって

貴重な学習データだった。


むしろ、

日本の捜査当局が予測より早く

「盲点」の存在に気づいたという事実

こそが、彼にとって

次なる設計を精緻化するための、

新たな入力値になっていた。


「次は、守られない場所を選べばいい」


一方、K市の管制室では、

志村が安堵の息を吐きながらも、

モニターに残された

最後のアクセスログを見つめていた。


発信元は、これまでと同じく、

幾重にも匿名化された

海外サーバーを経由しており、

特定には至らなかった。


「一つ防いだ。だが、これで終わりじゃない」


松永の言葉に、志村は静かに頷いた。


「蜘蛛」が遺した思想は、姿を変え、

より冷たく、より計算高い存在として、

今も日本のどこかで

次の標的を選び続けている。


窓の外、

完成間近の未来都市Kの街並みが、

夜の光に照らされ静かに輝いていた。


その美しい光の裏側で、

まだ名も知れぬ「フィクサーX」との、

本当の戦いが、これから始まろうとしていた。


©2026 [風風風]. All rights reserved.

2030年秋。フィクサーXは、

これまでのすべての実験を経て、ついに最終段階へと踏み出そうとしていた。

人間を一切介在させない

「完全無人・自動実行テスト」――案件屋の下見も、……。


本日、19:40 に、第2章 第1話を投稿します。

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