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第1章 カタリストⅡ  第3話【 設計図の行方 】

「奴が育てたのは、AIだけじゃない。……

 俺たち自身の油断そのものだったのか」


松永は言葉を失ったまま、志村の横に立ち尽くした。


窓の外、東京の夜景は

変わらず美しく瞬いていたが、

その光の一つ一つが、

いまや薄氷の上に灯っているように見えた。

「技術コンサルティング企業」

というキーワードを手がかりに、

松永は該当する法人の登記情報を洗い出していった。


だが、そこで待っていたのは、

予想以上に複雑な迷路だった。


問題の「設計思想」が

流れ込んだとされる企業は、

いずれもペーパーカンパニーに近い

実態の乏しい会社であり、

出資元をたどると、

香港、シンガポール、ケイマン諸島と、

複数の国をまたいで資金が転々と移動していた。


最終的な資金の出所は、

五年前に凍結されたはずの

「蜘蛛」関連の口座と、部分的に重なっていた。


「凍結したはずの金が、動いていたのか」


志村は資料を睨みつけた。


「いえ」


技術班の報告書を持ってきた若手捜査官が首を振る。


「凍結された口座そのものは

 動いていません。ですが、

 凍結される直前――蜘蛛が

 拘束される数週間前に、

 すでに資金の大半が、

 別の匿名口座群へと

 分散移転されていた形跡があります」


つまり、警察が「蜘蛛」を追い詰め、

拘束したその瞬間には、

すでに彼の資産と思想の大部分は、

別の器へと移し替えられていたことになる。


志村の背筋に冷たいものが走った。


「あの拘束は……最初から、

 奴にとって想定内の

『終わり』だったということか」


一方、フィクサーXは、

日本の捜査機関が、ついに

設計図の断片へとたどり着いたという情報を、

独自の監視網を通じて静かに察知していた。


もっとも、彼にとってその事実は、脅威ではなかった。


むしろ、あらかじめ織り込み済みのプロセスに過ぎない。


「奴らが辿り着くのは、五年前の『抜け殻』だけだ」


フィクサーXは、モニターに表示された

捜査の進捗予測グラフを眺めながら、

かすかに口角を上げた。


彼のAIは、

日本の警察組織の

捜査手法や意思決定プロセスすらも、

過去の公開判例や報道データから学習し、

捜査の進行速度と到達点を高い精度で予測していた。


「連中が

『設計思想の出所』にたどり着く頃には、

 俺はもう次の段階に移っている」


彼が今まさに手をつけようとしていたのは、

フルオートシティに残された「盲点」を

実際に起動させる、初の実証実験だった。


標的として選ばれたのは、

日本国内でもとりわけ完成度の高い

インフラ統合が進む、九州のある地方都市――

住民の大半が

非接触型の生体認証と自動送金システムに

生活のすべてを依存する、

次世代型スマートシティだった。


「人間が信頼を注ぎ込んだシステムほど、

 崩れた時の落差は大きい」


フィクサーXは静かにキーを叩き、

実証実験の起動コードを準備し始めた。


志村と松永は、

資金移転の痕跡をたどるうちに、

ひとつの都市名にたどり着いていた。


九州のスマートシティ、通称「未来都市K」。


国家プロジェクトとして

数年前に完成した、

日本最先端のフルオートシティである。


「設計思想の流出先の中で、

 唯一まだ本格稼働していないシステムがある」


松永が地図上にその都市を示した。


「K市の第二世代インフラ――来月、

 正式稼働を控えています」


志村の顔から血の気が引いた。


「盲点」が仕込まれたシステムが、

まだ実際には動いていない。


つまり、

これから起きようとしている脅威は、

過去の被害の延長線上にあるものではなく、

これから初めて牙を剥く、未然の危機だった。


「本部に報告する。K市の稼働を止めろと」


だが、上層部からの返答は、

志村の予想を裏切るものだった。


国家プロジェクトの稼働延期は、

政治的にも経済的にも、

極めて高いハードルを伴う。


確たる物的証拠のないまま、

稼働停止を決断できる立場の人間は、

誰もいなかった。


「証拠がないなら、稼働までに作るしかない」


志村は資料を鞄に詰め込みながら、松永に告げた。


二人を乗せた車は、その夜のうちに、

まだ知らぬ脅威が静かに待ち構える九州へと向かっていた。


©2026 [風風風]. All rights reserved.

未来都市Kは、まさに完成の途上にあった。


街全体を覆う統合管理タワーには、

まだ工事用の足場が一部残っており、

正式稼働まで残り三週間という段階だった。


志村と松永が現地入りした時、……。


明朝、7:40 に、第4話を投稿します。

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