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第2章 想定を上回る成功  第1話【 標的選定 】

窓の外、

完成間近の未来都市Kの街並みが、

夜の光に照らされ静かに輝いていた。


その美しい光の裏側で、

まだ名も知れぬ「フィクサーX」との、

本当の戦いが、これから始まろうとしていた。

2030年秋。


フィクサーXは、

これまでのすべての実験を経て、

ついに最終段階へと踏み出そうとしていた。


人間を一切介在させない

「完全無人・自動実行テスト」――

案件屋の下見も、実行役の物理的な移動も、

いかなる人間の手足も使わず、

コードの力だけで富を移動させる、

彼の思想の集大成となる実験だった。


AIが選び出した標的は、

日本のある地方都市に位置する、

最新鋭のセキュリティで守られたスマート邸宅だった。


住人は資産家の高齢夫婦。

かつてであれば、

案件屋が壁の物陰にひっそりと

「象形文字」を刻み、

それを頼りに実行役が押し入っていたであろう場所だ。


「だが今回は違う」


フィクサーXは、

街頭カメラ網から自動収集された

象形文字の画像を、

モニターに次々と映し出した。


AIはこれらを画像解析によって

即座に読み解き、邸宅内部の資産状況――

保管されている暗号資産の推定額、

金庫の設置場所、家族構成までを、

瞬時にデータ化していく。


だが、それはあくまで

「準備段階」に過ぎなかった。


真に恐るべきは、その先だった。



AIは、

標的邸宅が契約している

民間警備会社の通信プロトコルの解析に、

すでに数ヶ月を費やしていた。


定期的にやり取りされる巡回報告、

異常検知アラート、機器の自己診断信号――

そのすべての

トラフィックパターンを蓄積し、

正規の通信と寸分違わぬ

「偽の信号」を生成できるまでに、

モデルをきたえ上げていたのだ。


同時に、

邸宅の玄関に設置されたスマート鍵の

暗号パターンについても、

過去のファームウェア

更新履歴と通信ログから、

暗号鍵の生成規則そのものを完全に解読していた。


「鍵を破るのではない。鍵になりすますのだ」


フィクサーXは、静かにそう呟いた。


人間の強盗であれば、ドアをこじ開け、

住人を脅し、混乱の中で証拠を残す。


だが彼が作り上げたシステムには、

その一切が存在しない。


侵入の痕跡すら、最初から

「痕跡として認識されない」形で設計されていた。


モニターには、

実行予定日時が表示されていた。


深夜2時15分。


住人が最も深い眠りにつく時間帯として、

AIが

数ヶ月分の生活パターンから算出した、

最も安全な「無音の刻限」だった。



準備がすべて整った夜、

フィクサーXは

椅子に深く腰掛け、腕を組んだ。


「侵入なし。破壊なし。

 暴言も、流血も、内輪揉めもない」


これまでの犯罪には、必ずどこかに

「人間の乱雑さ」が伴っていた。


脅えた声、震える手、予期せぬ抵抗、

そして仲間割れ。


それらすべてが、証拠となり、

摘発の糸口となってきた。


だが今夜、

彼が実行しようとしている計画には、

そのいずれも存在しない。


「2024年のスキームA。あの頃はまだ、

 人間の悪知恵に頼るしかなかった」


フィクサーXの脳裏に、

これまでの長い試行錯誤の記憶がよもいがえる。


案件屋たちの泥臭いマーキング、

警察の監視網との果てしないいたちごっこ、

そして「蜘蛛」時代の失敗――

物理世界に残る人間の足跡という、消しきれない綻び。


「2027年、2028年……幾度の失敗を経て、ようやくここまで来た」


彼はモニターに表示されたカウントダウンを見つめた。


実行時刻まで、あと数時間。


すべての条件は整っていた。


あとは、AIが自律的に動き出すのを、

ただ静かに見守るだけでよかった。


「今夜、犯罪は初めて『計算』そのものになる」


熱帯の夜が更けていく中、

フィクサーXの視線は、

モニターの向こうの日本へと、じっと注がれ続けていた。


©2026 [風風風]. All rights reserved.

深夜2時15分。

日本のある地方都市、閑静な住宅街の一角。

高齢資産家の邸宅は、静寂に包まれていた。

最新鋭のスマートホームシステムが、

家全体の空調、照明、防犯機能を

一括で管理し、住人は……。


明朝、7:40 に、第2章 第2話を投稿します。

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