磁石星の磁石星人なんです私。
その後ヒボシが、今日は泊まったら?と言ってくれたから、私はお言葉に甘えさせて貰う事にした。電車に乗るのも面倒臭いし、何かの間違いでこの騒動に引き寄せられた異形達に遭遇したりしたら最悪だから。
そんな気持ちの天秤の片方に、一緒に晩御飯食べたり、お菓子沢山買ってダラダラパーティーとかしよ!?と、とんでもない魅力のある提案をずしっと置かれたら、レッツパーリナイッ!とおどけてしまうのは仕方ないだろう。
私とヒボシは近くにあるコンビニで晩御飯と大量のお菓子を入手しに行く事にした。
ヒボシは行く寸前、訳の分からない事を言い出す。
「待ってラクノ、これ絶対かけた方が良いと思うよ!」
ヒボシは真っ黒なサングラスをかけながら、私にも同じようなサングラスを渡してくる。
「ええぇ……私はいいよ、だってあんまり意味なさそうだもん」
ヒボシは五流スパイのような見た目をしながら、プクーッと頬を膨らませて言う。
「じゃあいいもん。私二個つけるから!」
ヒボシはおでこにも、もう一つサングラスを着けた。
もうそれ、一種の異形だよ……
「わかったよ……つけるから貸して」
少しため息をついて、したり顔のヒボシからサングラスを受け取り、サッとかけては玄関の鏡で格好を確認する。
案外似合うじゃん。ヒボシに貸して貰った、お嬢様学校の制服みたいなパフスリーブの空色のワンピースに合せると、朱色の髪も相まって、異国の魔術師みたいな感じになった。
「かっこいい……」
ヒボシは羨ましそうな声を上げる。
「そっ、そっかなー?」
まんざらでもない自分が、先程の自分に笑われている気がした。
私達はまるで本当のスパイかのようにキョロキョロし物陰に隠れながら移動する。
逃げるのがこんなに楽しいのは初めて。
そして近くのコンビニにササっと入ると、お弁当とお菓子を大量に買い込んで、ミッションコンプリートと即座に店を出た。その時、店員のおばさんが楽しそうねと笑っていた。私達は褒められたみたいに顔を見合わせてはクスクスと笑い大きな返事をした。
私は帰り道、道を歩きながら思う。
また世界が変わっている……
これは、新たに獲得した能力による感覚だろう。他の能力を獲得した時にも感じた。
目の前の現実の世界で、人間の能力としてどのような行動を取れるかという限界の認識が変わるのだ。
例えば、ヒボシのタワーマンションも、恐怖心さえ無ければ、一階層ずつジャンプして掴まりながら登り、最上階まで行けるだろうし、近くの武庫川だって中々に広いが、本気を出せば三歩ぐらいで渡れるだろう。
そして、今回獲得した能力を体で感じて世界を視ると……
「ヒボシちょっと待って」
私は近くの自販機の前で止まる。
「好きなジュースあったの?」
ヒボシはコンビニで買った商品の袋の中に既に沢山入っているジュースを見ながら言った。
私はサングラスを額に上げ、ヒヒッと笑った後、自販機中央の角を片手で掴んだ。
次の瞬間――
自販機は空箱みたいに簡単に宙に浮く。
ガラガラと揺さぶる私。
「ええ!!!」
ヒボシは衝撃でのけ反る。近くを歩いているお婆さんがヒボシに挨拶されたと思い、カートを押しながら頭を下げている。ヒボシはあっどうもです!、と返す。
私は自販機をパッと離した、地面がドスンと揺れる。
体感的には傘でも持ち上げているような感覚だった。
これが、鋼鉄の魔人から得た怪力の能力。朱色の太刀と今までの能力とこの能力を組み合わせれば、何か凄い事が出来そうだ。
相変わらず目がテンのヒボシを見ながら重要な事に気づいた。ヒボシには私の能力について、まだ詳しく説明していなかったのだ。どうやって鋼鉄の魔人が消え去ったかすら、ヒボシは死んでいたから全く知らないだろうし。
まっ、ご飯食べる時にでも適当に話しますか。
今はそれより……
「私、磁石星から来た、磁石人間なんだ……騙しててごめんヒボシ」
迫真の演技、決まったね。
どう反応するんだろ?この天然ちゃんは。考えるだけで笑っちゃう。
「そ、そ、そんな遠い所から!?」
一体何処よそれ!?やばっ、吹き出しそう。
「うん。この星の磁石を全部頂きにね」
私は演技を崩さず薄ら笑いを浮かべてヒボシに、にじり寄る。
ヒボシは口に手を当てて、昔のホラー漫画みたいな大袈裟な驚愕の表情を浮かべている。
「イ、イヤ……も、もってません磁石」
もう既に泣きそうになりながら、首をブンブン振っている。
この子、なんで本当にこんな可愛いのかな?胸が締め付けられる私。
愛し過ぎて騙すのが辛くなった。
「うっそぴょーん!」
私はそう言って、軽やかにヒボシに駆け寄り、なだめるハグをした。
「よかったぁ。バッグの方位磁石見つかるかと思ってドキドキしちゃった」
ヒボシは真顔で焦りながらそう言った。
方位磁石持ち歩いてるんだね……
ヒボシの家へ戻ると、私達はとてもお腹が空いていたのか、テーブルに広げた食べ物を巨人のバイキングみたく二人してムシャムシャと頬張った。適当なテレビ番組を流し、私の能力の話をしたり、お腹がよじれるようなバカ話をひたすらしていた。
私は、こんな楽しい夕食は家族がいなくなってから初めてで、ヒボシが口を押さえて爆笑する姿を見ると、私はもう何かに許して貰えたんじゃないか?今からは楽しい事しか起きないんじゃないか?と思える程だった。
ご飯を食べた後、順番にさっとお風呂に入り私達はパジャマに着替えた。
動物達の絵柄が可愛い色違いのパジャマを着た私達は、動物の真似をした踊り合戦をしたりして大笑いし合い、体に湯気を纏ったままソファーに座る。
「明日予定ある?」
ヒボシは唐突に聞いてきた。頬を紅潮させ恥ずかしそうにしながら、白くて細い指を重ねて回しモジモジしている。
「ないよ別に」
私はカラッと笑って返した。
「じゃあさぁ……デートしない?」
もっと軽く言えば良いのに、プロポーズみたいに溜めちゃう所が面白い。
「勿論、オーのケーだよ」
私は指で丸を作り優しく微笑んだ。
「ヤーのター!」
ヒボシはソファーから飛び上がり変なダンスをする。
先程のダンス合戦の際聞いたが、この子はダンスが好きらしい。しかし習っているとかでは無く、アニソンを流して適当な自作ダンスをするらしい。運動音痴なんだろうと一目で分かるダンスだ。
「絶対楽しいデートにするからね!」
ヒボシはウサギみたいに飛び跳ねながら言った。
「それは、楽しみだね」
私は手を耳に当て、ヒボシの真似をする。
そして、私がそのままソファーで寝ようとするとヒボシは私のパジャマを引っ張った。
「ベッドで寝なよ?疲れとれないよ?」
「あー、でも悪いからいいよ、ヒボシこそベッドでゆっくり休みなよ」
私は目を閉じながら言う。
「二人寝られるスペースあるよ?」
目は閉じているが、鼓動が跳ねる。
「うん……でも……」
「えっちぃ事考えちゃったの気にしてるの?」
え……?なんか私の事誤解してない?
「違くってぇ、ちょっと気まずいし……」
意識してる私がおかしいのかな?
「私と隣にいると気まずいよね……へへ」
ヒボシはしょんぼりしだし、悲しそうに笑った。
「違う違うそんな顔しないでよ!わかったからっ!」
「やっほー。じゃっ早くいこー」
切り替えが早すぎて、もはや誘導された可能性が浮上した。
「う、うん」
私とヒボシは暗い寝室の同じベッドで背を向け合って寝ている。
実際一緒に同じベッドに入ると思いの他緊張して、二人して何も言葉が出ない。
幽かに触れ合う相手の背中の温もりから、相手もドキドキしてるのだと伝わってくる。
ヒボシが言った。
「ラクノはこれからどうするの?」
どうする?かー……
私は死にたくない。
今、かつてない程に強くそう思っている。理由は色々あるけど……
「襲ってくる異形達をもっと倒す……かな。私、敵倒す程強くなるみたいだし……それで誰にも負けないぐらい強くなって、生き抜いて、意味を……知りたい……かな」
「意味?」
ヒボシの背中がさっきより近づく。
「呪われた意味とか、私の人生がこうなった意味ってあると思うんだ、カルマって言うのかな?それを知りたいんだ」
全てに意味があるとずっと思ってきたから、私は人生を諦めないでいられた。
もしそうなら、きっと今まで苦しみを耐え抜いた頑張りは無駄では無いから。
「それ、すごい分かるかも」
ヒボシのその共感の言葉に私は無性に嬉しくなり、背中をピッタリとくっつけた。
この気持ちが、友情、恋、えっち、なんであってもいい。今、私はこうしたい。
「ありがと」
私は時計の針だけが鳴る部屋で、心の底からお礼を言った。
「それ、一緒に手伝って良いかな?」
ヒボシは、躊躇いなく手を私の方に伸ばし、探るように私の手を見つけては、絡ますように握った。
はーーーやばい。やばいぞ私。涙出ちゃう。
「いいよ」
そんな気持ちを悟られないように、あっさりと返す私の背後で、ヒボシはふふっと嬉しそうに笑い、体をくるんっと丸めた。




