一番素敵な未来、プレゼントしたいから。
それから少し時が経ち、異形が姿を見せない日々が続いて、私とヒボシはかけがえのない幸せな毎日を過ごしていた。
しかしその間でも私は、時折、使命について考えさせられていた。
巫女達の夢を見てから、私には成すべきことがあるという忘れていた深い気持ちを呼び起こされた気がする。
いや、能力を獲得していく程に、少しずつ思い出していたのかもしれない。
異形に追われる自分では無く、もっと広い範囲の存在達を守らなければならないという使命感だ。
最早、夢で見た巫女達や大妖魔達ですら他人とは思えない。
なので、今日は想い出の場所で、その使命を果たすべくやらなければならない事があると言う事をヒボシに打ち明けようとしている。
私達は阪急宝塚駅から北東に位置する、山手台北公園に向かっている。
阪急宝塚駅から十分程電車に乗り、そこからバスに乗り換えた。
同じく少しの間、高台にある閑静な住宅街をバスで進んで行くと目的地付近のバス停に到着し、そこから少し坂道を上った所で、目の前に山手台北公園の入り口が現れた。
公園なのかと疑う段数の階段が目の前にそびえ、苦笑いしながら私達は昇る。
やがて階段の横幅が広くなり、天空にあるステージのように開けた場所が現れた。
ここが私の一番好きな場所だ。 やっとこれた、ヒボシと一緒に。
時間もピッタリで、燦燦と輝く夕陽が、辺り一面を金色に染め上げている真っ最中だ。
四方に大きく開いた眺望。広大な街並みが圧倒的なスケールで眼下に広がる。
黄昏の大きな風が私達の体を通り抜けた。
遠くの空を見れば、大気で雲は伸び、水彩の碧のような色が街を優しく包んでいる。
ヒボシは嬉しそうにトッタトッタと跳ねて、広い空間を自由に動き回っている。
「私、パイロットになりたいかも」
影響されやすいのかわいい。
「いいね、後ろ乗せて」
私は静かに歩く。
「いいよ!でも宇宙までいっちゃうけど大丈夫?」
「そりゃー宇宙飛行士だね」
私はクスクスと笑い、陽のコントラストが強くなる街並みを眺める。
「だね!目指すは銀河!」
空を指差して、勇ましい顔をするヒボシ。
「もういるね!」
この子が、愛しくて愛しくて仕方ない。
「あ、そっか。地球も銀河の中にあるんだっけ?ヒボシちゃん間違えちゃったよ」
そう言ってヒボシは、笑いながら公園中を走り出した。
「ラクノちゃんなんて伝えよっかなー……」
私は一人小さく呟いた。
「流星アターック!」
急にヒボシが背中に乗っかってきた。
「ちょっとおーもーいー!」
と言いながらも、おんぶしてあげる私。
「この流星とぶつかるのは奇跡なんですよ?お嬢さん。当選おめでとうございます!」
ヒボシは執事みたいな喋り方で楽しそうに言った。
「何キャラなのよー!」
「ラクノちゃん大好きキャラでーす!」
ヒボシは思いっきり抱き締めてくる。
「うわわっ!こけちゃうよー!」
私達は大騒ぎして、右へ左へ操縦不能な機体みたいな動きをした。
ホントなら、怪力を使えばヒボシをおんぶしながらだって、この公園すら数歩で降りられるけど……
今は女の子でいたい。今だけはそうでありたい。
「操縦しなければ!」
ヒボシが私の両耳をこしょばす。
「バッカ、えっちぃ!もう降ろすよ?」
私はクネクネと体を揺らしながら恥ずかし気に怒った。
「えっちぃはそっちだよ。ふふふ」
ヒボシは以前の事があってから、私をえっちぃだといじってくる。
「自分も結構えっちぃな癖に」
ヒボシは急に静まり返った。
「え!?なになに?ごめんねヒボシ?私、言い過ぎた?」
慌てて謝る私。
すると、ヒボシはちょっとずつ絞り出すような声で言い出した。
「待ってる……から……ね」
え?何を?え!ええ!?
顔は見えないが、この子やけに体温が上がってる。
「な、何を待ってるのかなぁ?ヒボシちゃん?お姉ちゃんに教えてぇ?」
「知りませーん。ふふふ」
ヒボシの明るい声だけが、公園内に過行く幻みたいに響いた。
少し時間が経ち、青紫、赤紫の混じったトワイライトに染まる街並みを、二人で立ち尽くし眺めていた。
「ねぇヒボシ」
「ん?」
「私ね、やらなきゃいけない事があるんだ」
作った明るい声で言う私。
「……何かな?」
私の気持ちを察知したように不安な顔をするヒボシ。
「少し危ない事」
少しでは無い。
「……」
「でもね、きっとそれが上手くいけば、ぜーんぶ上手く行く気がするんだ……」
「上手くって?」
ヒボシはじっと私の顔を見つめる。
「ずっと一緒にいられるかも」
「未来はわかんないじゃん……今楽しむのはダメなの?」
現状を考えれば、その答えが一番正しいと思う。
でも……
「ヒボシには一番素敵な未来に進んでもらいたいから、私」
ヒボシは何も言わず俯いた。
陽はもう完全に落ちそうだ。
「その未来には勿論、ラクノもいてくれるんだよね?」
……
「勿論だよ」
私はヒボシの手を両手で握り、自分の頬にギュっと押し当てた。
「私、何があっても離れないんだからね!」
ヒボシは少しきつい声で言った。
「ありがと」
私は握ったヒボシの手の甲にそっとキスをした。
「私もやるから……」
ヒボシは暗がりの中で青白い回復魔術を光らした。
「いいの?」
「当たり前じゃんか。ラクノがやらなきゃいけない事は、私のやらなきゃいけない事なんだよ?夢もそう言ってるし」
夢?
「それじゃあ、ほぼ私じゃんヒボシ」
「そうだよ。私達、融合できるかもね」
その言葉に私は笑って言った。
「なんかえっちぃね」
「その考えがえっちぃだよ」
そう言ったヒボシは、言葉に反して熱烈なキスをしてくれた。
闇に沈む公園には、愛の火だけが儚く強く灯る。




