これが愛でなくて、何が愛だ。
私達はピザを食べた後しばらくしてから、ソファーに座って電気を消しテレビをつけた。
どうでも良い事で大爆笑しているバラエティー、凶悪な事件のニュース、誰が悪いと攻め合う政治論争。
様々な映像と音声が流れるが、私達にとってそれらは、この暗い部屋で穢れの無いキスをし続ける為の伴奏みたいなものでしかない。
雑音があるほどに、自分達がその中で相手しか見えないなんて、これほど一体感を持つ事は無いだろう。
どんな時も、世界には色々な事が起こる。
それに翻弄されてはいけないと、私は最近理解した。
人は自分の運命を生き抜かないといけないのだ。
「ねぇラクノ……私ちゃんとここにいるよね……」
鼻と鼻が触れ合う距離でヒボシは言った。泣きだしそうな顔をしている。
「ヒボシがいないなら、私もここにいないよ」
私は穏やかな表情でヒボシを安心させるように言った。
唇と唇は深く重なり続け、私達はお互いの体温で生きていると実感する。
私の心が朱に染まり、この子と生きていきたいと躍動する。
その燃焼が視えたように、ヒボシの青い瞳が呼応し輝く。
可愛い、好き、愛している、ずっと一緒にいたい。
ごくありふれた普通の感情が、私を普通だと証明してくれる。
もう空っぽにはなりたくない。
すごく怖いのよ。
ヒボシ……
私が生きてるって、ずっと証明していて。
自分がまだこんなに弱いんだと戸惑う私。
これじゃあ、不安を紛らわす為に愛してるみたいじゃない……
そうなのかな……?
フラッシュバック。
一気に不安が蘇る。
それらから逃げるように刺激を求め、私はヒボシのシャツを捲り、脱がそうとした。
ヒボシの顔が急激に紅潮する。だけど、薄くこちら見る目が私と同じ感情を持つように視えた。
手が震える程に、この子は可愛い。
触れてしまえば何もかも忘れられるだろう。
私はヒボシの背肌に手をピタリとくっつける。
掌に愛しい鼓動を感じた。
唐突に記憶が蘇る。
初めてヒボシが笑顔を見せてくれた時の記憶だ。
そうだ。
……
……
私はヒボシの背中から手を離した。シャツを丁寧に元に戻す。
「ねぇヒボシ、出会ってくれてありがとね」
私は熱を制御し、とても穏やかな声で言った。
ヒボシは目をまん丸にして拍子抜けしたような顔をしたが、少し遅れて満面の笑みでこう言った。
「こっちこそだよ!!」
これが愛でなくて、何が愛だ。
手放した途端、不安も熱も無い、優しい空っぽを私は見つけた。




