お姉ちゃん泣かないで、大好きだよ。
前方で海中が光る。
私は即座にそれが魔弾だと理解した。
「ヒボシ、目瞑って息止めて!!!」
ヒボシを片方の腕で強く抱きかかえながら、全力で水を掻いては蹴る。怪力の能力のお陰で魚雷のように進み、もう少しで地上に辿り着く。振り返れば私達のいた場所に一直線の水柱が怒り狂う水竜の如く立っていた。
「大丈夫ヒボシ!?」
「わっぷわっぷぜんぜんだひじょぶ」
そう見えないけど……とにかく海から出なきゃ。
そして、先程私達がいた場所辺りに、奴はシュモクザメのような巨大な頭を海面からぬーっと出した。
「ホラー映画じゃん……」
私が流暢な事を言ってる内に、ソリッドマンが奴の頭目掛けて隕石のような飛び蹴りで突っ込んだ。
竜巻が巻き起こった様に激しい水しぶきを上げながら、二体の異形は人知を超えた攻防を交わしている。獣怪獣の高出力のビームみたいな魔弾が四方に飛び交い、ソリッドマンの斬撃は昼でもはっきり見える残光を放ちながら荒波をもスパっと賽の目に切り刻んでいる。
私はその隙にヒボシと地上に上がった。
ヒボシは鼻に水が入ったように苦しそうにしながらもソリッドマンを応援している
。
「すごい…………頑張ってぇーーーソリッドマーン!!!!!」
獣怪獣は打ち出す魔弾の数がどんどん少なくなっていく。
それに反する様に、ソリッドマンの十字閃光の爆発的な残光が海上で花火のように連続で輝く。
きっとこれは勝負があった。
やっぱりカナタの言った通り。
ソリッドマンは最強なんだ――
私は胸の中が燃える様な気持ちになり、拳を強く握った。
きっとカナタはこんな気持ちを私に伝えたかったのだろう。
そして、間もないうちに獣怪獣の魔弾は完全に飛ぶ事が無くなり、ソリッドマンのトドメの超一閃が大きく輝いた。
その希望の残光を最後に、海は元通りに静まり返る……
ソリッドマンがスイーっとこちらに泳いで戻る影が見えた。
「やった……ソリッドマンが……あいつを倒してくれた……」
私は急に力が抜けた。
「凄過ぎるよソリッドマン!!!あんな怪獣倒すなんて!!!」
ヒボシは飛び跳ねて大喜びする。
そんな私達の前で、ソリッドマンは海上から地上に上がり、濡れた金属の体で
シュインシュインと機械音を鳴らして歩き私達に近づいた。
私達の三倍はある体で、上からじっと見降ろすソリッドマン。
「あ……ありがとね、ソリッドマン。かっこよかったよ」
私は何故か、無性に照れくさくなりながらお礼を言った。この感覚は弟にお礼を言う時以来だ。
「ホントッもう凄過ぎだよ!!!私、滅茶苦茶興奮しちゃった!!!」
ヒボシはソリッドマンの足に子供みたいにしがみつく。ソリッドマンは何も言わず目が光った。
そして……
ソリッドマンは私に手を伸ばし掌を大きく開いては、掌の内部から機械仕掛けの動作で、ある小さな物を取り出して私に見せた。
それは……
小さなビー玉だった。
「……ん…………あっ……これ……カナタの宝物じゃん……」
私がそれに触れるとソリッドマンは、私にとって胸が張り裂けそうになる音声を何処から流し出した。
『これはこの星の宝物だよ。だってお姫様のお姉ちゃんがボクにくれた物だもん、間違い無いよ!ねぇ、ソリッドマン?これあげるからさ、お姉ちゃんの事守ってあげてくれないかなぁ?お願ーーーい!!!………………え!?ホントに!?ありがと!!!約束だよ!!?やっぱソリッドマンは世界一かっこいいや!!!』
……
……
「バカバカバカバカ!!!カナタのバカ!!!」
私は延々と止まらない涙を流しながら、ちっぽけなビー玉を握りしめる。
ヒボシはそんな私の背中をそっとさすってくれている。
そして私はソリッドマンに掴みかかった。
「なんで死んじゃうのよーーー!!!お姉ちゃんあんたの事大好きだったのよ!!!友達なんかよりずっとずっと好きだったんだから!!!何よりも誰よりも大好きだったのよーーーっ!!!」
ソリッドマンは私の肩に優しく手を当て、無言でジーっと機械音を鳴らしながら目を光らせている。
その時不意に忘れていた記憶が蘇った。
事実を認められず深い場所に閉じ込め、自ら欠落させていた記憶が。
私の家族を奪った自動車事故のあの日、カナタは車に乗る前に私にこう言ったのだ。
『お姉ちゃん席変わってよ、ボクそっちの方が好きなんだ。へへっ!いっつもワガママばっか言ってごめんね!』
そう言うカナタの笑顔は妙に寂しかった。
その後、私の座っている場所だけが運良く事故による損傷が少なく、家族で一人だけ生きながらえた……
……
そうだ。
もうとっくに守ってくれてたんだ。
それなのに……
それなのに私は……ずっと……
「カナタ……ごめんね……お姉ちゃん……」
ソリッドマンは再び音声を流した。
『お姉ちゃん泣かないで。大好きだよ』
私は両手で顔を覆い、その場に立ち尽くした。
……
……
ふと、私の肩からソリッドマンの手が離る。
突然、歩き出した。
待って、何処行くのカナタ?
……
この気配……
薄く感じる気配の方に目を向けると、先程の家族連れが私達とは反対方向のメリケンパーク入り口付近でこちらを見ていた。
なんでまだ逃げて無いのよ?
その傍らの海上から瀕死の状態の獣怪獣が地上へと這い上がる。
家族連れは悲鳴を上げて座り込んだ。
ソリッドマンは走る。その背中はカナタが泣いてる子に駆けつけるのとそっくりだった。
行かないでよ……カナタ。
もういなくならないで。
私は後を追う。
獣怪獣は口に猛烈な魔のエネルギーを蓄積している。
ダメだ、間に合わないって。
だが、ソリッドマンは不可能なんて覆してやるというような不屈の意思を込めた超特大跳躍を見せ、その場へと滑り込んだ。
「カーーーナーーータァァァ!!!!!!!!」
発射される、破滅的威力の魔弾。
ソリッドマンはその背中に、悪意から巻き起こった忌まわしきエネルギーを一心に一人で受けきる。
地面に二本の剣を差し、絶対に負けてなるものかと踏ん張り、目前の家族連れを守護神のように庇っている。
なんで……
……
あ。
そっか。
カナタはやっぱりカナタなんだね。
……
お姉ちゃんより、全然強いもんね。
……
私、カナタみたいにかっこよくなれるかな?
私は宙を舞い、太陽に朱色の太刀をかざし、破壊に夢中になっている獣怪獣の体を真っ二つにした。この闇がもう何にも危害を加えぬように……
そして……
二つの存在の気配が消えるのを感じた。
家族連れは無事みたいだ。
よかった。
私に新たな能力が流れ込む。
視界が揺らいで、意識が遠のいた。




