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聖なるフレーム、君は綺麗。

 私は最寄駅から電車に乗り、途中で阪神沿線から阪急沿線に乗り換えて阪急宝塚駅へと向かっている。


 車窓を見れば、落ち着いた街並みがゆっくりと過ぎ去り、上空にそびえる蒼く澄み渡る空は、何一つこの世界には問題が無いような平穏さを漂わせている。


 ヒボシちゃんは宝塚駅付近のマンションに住んでいるらしい。


 近くに美味しいケーキが有名な喫茶店があると言うから、そこで会って話す事にしたのだ。


 彼女はメッセージの最中、呪いの事には一切触れず、ただ小気味よく私とふざけ合っていた。遥かな時を無人島で過ごし久しぶりに人に会った事が嬉しいみたいな温度感で、文字や絵文字すらも踊って視えた。


 しかし、話す内容は明るい事だけでは無く、今彼女は、訳あって一人で暮らしている事、引きこもりがちで学校に行っていない事なども話してくれた。


 私は彼女の孤独を想像し、自分の孤独と照らし合わしながら、車窓に現れた武庫川という、私の街とヒボシちゃんが住む宝塚を貫いて流れる大きな川を眺めていた。


 そろそろ到着だ。最初に交わす言葉は何にしようかな?




 待ち合わせの喫茶店は、阪急宝塚駅直結の複合商業施設にあるとの事だ。


 実は私もこの辺りは好きでよく散歩に来ている。特に、花のみちと言う西洋の雰囲気があるお洒落な通りがお気に入りだ。


 しかし、今日はとても妙だな……


 いつもは、そこそこ人がいて、洋館のような建物は落ち着きと上品さで満ち、ゆっくりと時間が流れているのに、今日は魔窟のようにどんよりしている気がする。


 人は不自然に少なく、僅かにいる人達も顔は虚ろで、施設内の照明も何故か薄暗い。


 もしかすると、何か特殊な魔術を使う異形がこの場所にいるのかもしれない……


 とりあえず私は警戒しながら例の喫茶店へと向かった。


 


 ヨーロッパのレトロな映画のワンシーンにでも出てくるような喫茶店の前に、既にヒボシちゃんは立っていた。彼女の周りだけは、淀んだ気配に穢されていない気がする。


 フリルのついた白いブラウスに、足の線が美しく強調される紺のジーンズ。


 絵になるとはこの事で、透明水彩を用い軽やかなタッチで、目の前のこの瞬間を表現したくなった。淡く儚く美しい光景、気が付けば私はスマホを彼女に向け完璧なフレームを探っていた。


 パシャリ。


 あ、撮っちゃった、写真。


 モラルを疑われるより、この瞬間を失う方が私には大きな問題に感じた。悲惨な世界で、夢のような光景などあまり出会え無いのだから。


 ヒボシちゃんがこっちを見た。怒られるかな……?それとも、いきなり変態認定されちゃうかな?


 ヒボシちゃんは太陽の宝石がパッと弾けたような笑顔で、直角に大きく手を振ってきた。


「やっほー!ラクノちゃーん!」


 気にしてないみたいだった。というか、やまびこじゃないんだから。


「やっほっ!」


 私達は駆け寄り、無言で少しの間見つめ合い、瞳と沈黙で言葉を交わした。


 


 私達は窓際のアンティークなテーブル席に座る。ヒボシちゃんおススメのケーキセットがあるらしいので私はそれにした。


 メッセージではボケ合ったりもしたが、対面になるとどうも恥ずかしく、ヒボシちゃんは頬を赤くしてキョロキョロしているし、私も彼女のメッセージに毎度ウキウキしていた事実があるから、自分を騙して、今更気にしてませんよなんて素振りは出来なかった。


 しかし、私が切り出さないと一向に話が進まなそうだったので、おもむろに聞いてみた。


「ねぇヒボシちゃん、あなたも呪われてるんですかって私に聞いたよね?あれってどういうことなのかな?」


 彼女が何故そう思ったのか?あなたもという事は、ヒボシちゃん自身もそうなのか?一体彼女が何者でどのくらい呪いについて知っているのか?私は、それらの点が凄く気になっていた。


「ヒボシでいいですよ。私を追っていた異形が急に何処かへ行き出したので、おかしいと思ってあとをつけたら……そのぉ……退治する瞬間を見てしまったので……」


「私もラクノでいいよ。同い年なんだしタメ口でいこ!」


「同い年万歳だね。へへ!」


 結構切り替え早い……やっぱり面白い子。


「ふんふん、それじゃあ、あのワニみたいな異形は先にヒボシを追っていたって事?」


「うん、最近ずっとつけ回されてたの。前に私を追っていた、メリーゴーランドみたいな頭の怪人が消えた後ぐらいからずっとかな……」


 結構前から追われてるのか。それに、頭がメリーゴーランドの怪人って……不気味過ぎる……


「お互い大変だね。聞いてばっかで悪いんだけど、ヒボシはどうやって呪われたの?」


「突然、道端に光の枠みたいな扉が現れて、引き寄せられるみたいにほぼ無意識にくぐっちゃったんだ。そっからかな……?髪も目も、どんどん変わっていって、異形にも追われだしちゃって……」


 ヒボシは透き通るような薄水色の髪を指でつまんで自分で見つめている。


 おかしいな。私と全く同じ状況だ。


 そもそも異形は何故私達を急に追いかけ出したんだろう?


 やっぱ、あの光の扉をくぐった呪い?


 それか……あの光の扉をくぐった事によって追いかけるべき理由が出来たのかな?


 異形自体は昔から普通に存在するけど、何もしなければ無害っていうのが現代に生きる人間の普通の認識だし。政府も、敵うはずの無い相手も多数いるので関わらないでいきましょうという、触らぬ神に祟りなしの方針を貫いているし。でも、異形達側は、全く多種多様の存在達なのにその関わらないルールを私達人間以上に守っている節があるんだよね。


 なのに今私とヒボシは、ルールの外のように異形に追われている……


「奇遇だね……私も全く同じ呪われ方だよ」


 私が全く同じという言葉を発した時、ヒボシは青い瞳の奥を光らせた。


「本当に奇遇なのかな……?」


 この呪いには何か意味がありそう、ヒボシはそう言いたげだった。


 私は、不意に喫茶店の外をガラス越しに見た。


 やはり妙だ。幾つかの店舗のシャッターがこんな時間に降りている……


「ちなみになんだけどヒボシは呪われて能力とか目覚めた?」


「あ……うん。でも弱くって……」


 あまり言いたくないんだろうな、実際まだお互いよく知らないし。


「ごめんね、色々聞いちゃって。答えたくない事は無理に答えないでいいからね。ストレスは体に毒毒だよ!!」


 私の無理矢理捻じ曲げたテンションにヒボシは微笑んだ。そして、不安そうな瞳の陰りをピタッと消してこう言った。


「ラクノ、優しいんだね」


 驚いた、そんな目するんだ……


 ヒボシは青い瞳を揺らし、優しい王子様みたいな眼差しを急にしてきたので、私の中の女の子の部分が少しくすぶられてしまった。

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