呪われた少女、千知ヒボシ。
あの後私は、突然話しかけて来た彼女と連絡先を交換して、そのまま帰宅した。
異形との戦闘の疲れもあり、お腹も空いていたので、込み入った話をする気分にはなれなかったのだ。
しかし、彼女の言った「あなたも呪われているんですか?」と言う言葉は、私には衝撃的な言葉で、シャワーを浴びている間もレトルトカレーを温めている間もループする様に何度も頭に浮かんできた。
湯煙が立った浴室で、家の中でしか見せない心底くたびれたような目が鏡に映る時にも、電子レンジの暗がりの中でレトルトカレーが小さな舞台のように温められている時も、その言葉は目の前の現象を置き去りにする程だった。
スマホもSNSなどにも興味の無い私が、彼女からの連絡をまだかまだかと気にして囚われている。
彼女がオロオロとしながら私に言葉を吐いたその瞬間、私だけが歩く闇の道路に誰かが現れてくれたみたいな気持ちになったのだ。
彼女は、千知ヒボシ(センチ ヒボシ)と言うらしい。
変わった名前だ。
何不自由無く育てられたお嬢様みたいに穢れ知らずな無垢な雰囲気だった。
何処の国の人間でも無いような薄水色の不思議な髪と青い瞳がまだはっきり思い出せる。
あれは呪いのせいかもしれない。
漫画の弱弱しいキャラクターみたいにソワソワとして、ビー玉みたいな瞳に涙を滲ませ私を見ていた。
彼女には申し訳ないんだけれど、正直あの時私は、得体が知れないと警戒する半面、笑いを堪えるのにも必死だった。
そんなこんなの色んな感情で、一旦全てを持ち帰ってから、ゆっくり話してみたいと思ったのだ。もし、縁があれば繋がるだろうし、そうで無ければいつものように、闇の道路を一人、歩いて行くだけなのだから。
レトルトカレーを頬張りながら、毎度の様に物価高を謳うニュースを見ている時、スマホの液晶が暗い画面から急に彩り出す。
ヒボシちゃんからだ……
『ここんばんは!』
文字ぐらい落ち着きなよ。やっぱりちょっと変わった子だな。
私は記憶に無いぐらい久しぶりに他人から受けたメッセージの短文を見てクスッと笑った。
なんて返そうかな?
んー……
『こここんばんは!』
送信。ヒボシちゃん、なんて返すかな?
私は、さらに勢いよくカレーを口にかき込み、テーブルのスマホを凝視する。
斜に構えて世界を視ていたはずの私が、こんなにも他人の言葉を欲しているなんてなんだか恥ずかしい。
この気持ちは誰にでも沸くモノでは無く、突然私の日常に現れた、愉快で神秘的なあの子だからこその特別な感情だと思いたい。
彼女からの返信は早かった。
彼女も私の返信を待ってくれていたのだろうか?
『ふふっ 仲間ですね』
……
仲間?なんの?
(こ)の仲間?それとも呪い仲間?
きっと深い意味なんて無いのだろうけど。
そうだ、ヒボシちゃんがどのくらい私を許容してくれるか試してみよう。
『えっ仲間!?もう恋人には戻れないの私達!?』
さすがに、この意味不明なノリの文章がくれば、彼女は私に声をかけた事を後悔するだろう。それでも構わない、友達とこう言うやり取りをするのも一つの夢だったから。
友達じゃないけど。
……長い。まだこないの?
本当にしくじったかも。
あ、来た。
『実は……戻れます!抽選で100名様に!』
……
ふふっ。100名様ってなによ。面白いじゃない。
私……一回この子と会ってお話してみたいかも。
そうして私達は、全く本題とは程遠いメッセージのやり取りを何度かして、
自然な流れで会ってお茶しながら話す約束をした。




