ペコペコのペコリ―ニョ三世だよ、いっせーのーせ。
「そろそろ行こっか?ハーバーランド。お腹空いたし」
私は立ち上がる。
「そだね。ペコペコのペコリーニョ三世だよ。一世NOせ(いっせーのーせ)」
ヒボシも勢いよくジャンプして立ち上がった。
あ、今朝ペコリ―ニョ二世って言ってて、今全部伏線回収してきた。すご。
その時、少し離れた場所に座っていたカップルの女の子の方が、え、マジで怖いんだけどと悲鳴に近い声を上げながらパニックになりだした。男の子の方の顔も真っ青になっている。
そして、メリケンパーク中央の方からも家族連れの悲鳴が聞こえた。
私とヒボシは、即座にその方向に目を向けた。
あいつ、生きてたんだ。
しかも、アーケードで飛んでた怪獣のお化けみたいな奴もいるし。
シュモクザメの頭のような顔を胴に持つ多腕多足の野人の異形は、クンクンと匂いを辿る様な仕草で、様々な家族連れの方に近付きながらもこちらに向かって来ている。公園内に沢山いた人達は、その異様な光景を見て一目散にメリケンパークから逃げだした。
そして、野人の異形よりもう少し離れた所から、くすんだ赤色のローブを派手に公園内に発色させ、ここは魔界であると勝手に宣言しているような大型の異形が、不気味な速度で野人の異形の後をつけている。
一つの家族連れが動けなくなっているのが見えた。
異形が人を襲う事は例外を除いてほとんど無いが、何か様子がおかしい気がする。
もしかすると、あの野人の異形は門番の悪魔スアヴィに滅多打ちにされた事で、怒り狂って分別がつかなくなっているのかもしれない。
迷いは無かった。
「行ってくる私」
ヒボシは駆け出そうとする私の肩を掴んだ。
「待って、一人で行こうとしないでよ。私も一緒に行くんだから」
ヒボシの目に恐怖は薄く、共に戦おうと言う意思が強く現れていた。
「うん、ごめん……でも無理は絶対にしないでね」
君がいないと生きてけないんだからね私。
ヒボシは真剣な顔で頷いた。
私達はその場に駆け寄ったと同時に想像を絶する光景を目の当たりにする。
動けない家族連れの匂いをクンクンと狂ったように嗅いでは立ち止まっている野人の異形が、怪獣のお化けみたいな大型の異形に鷲掴みされたのだ。そしてバキバキと握られてから胴体付近にあっさりと持っていかれた。
動けずにいる家族連れの母親は絶叫し、父親は子供に目隠しし、子供は異様な雰囲気を感じ取って大泣きしている。
怪獣のお化けみたいな大型の異形は、胴体中央がスライスされたみたいにパカっと開き、真っ赤な体内に野人の異形をポイっと放り込んだ。
ただの捕食、悪意の無い栄養摂取そんな感じだった。
奴は大人しくその場で咀嚼し、動きを止めている。
今決めてやる。
私は朱色の太刀を顕現し、一気に足を踏み込もうとした。
その時――
怪獣のお化けは鈍く不気味な声で、歌うように呪文らしき言葉を唱え出した。
「アーヴァンヴァン……ビル……デン……ビィア……シマーゾ……アーヴァン……」
きっとこの言葉には意味があり、こいつにはかなりの知性があるんだろう、そんな歌だった。
その音はしっかりと私の耳に入る。
いや、入ってしまった。
地に踏み込んだ瞬間と同時にこの音が耳に到達したのを感じたが、その瞬間から、全身がロックされたようにビクとも動かなくなった。
声も出せない。
後ろから感じる気配を辿ればヒボシも同じようだ。
家族連れの悲鳴だけがこの場に響いている。
奴は気味の悪い口から、ただただ呪文を唱え続けている。
そして、それは始まった。
奴の人の肌のような質感の体は、ゴキゴキと激しい音を鳴らし変形していく。
脇腹辺りから巨大な腕がさらに二本生えて、上半身しか無かった体に下半身が形成された。パワーアップみたいに全身から生えてきた腕や足は野人の異形と同じく、得体の知れない獣のモノのようだった。
顔も野人の異形みたくシュモクザメみたいに変形し、被っていたオオアリクイの頭部の骨のような仮面は地面にゴロンと落ちた。大きな尻尾が伸び生えて、それが鞭のようしなって雷の音みたく激しい音を鳴らして地面を叩く。
忌まわしき融合。それが相応しい言葉だ。
呪文を唱え終わり、奴の体は完成した。
「す……すまない」
動けない私達を見ながら家族連れの父親がそう言って、家族を抱き抱えてゆっくり後退りして離れて行く。
進化した獣怪獣は、のそのそっと、出来たての足の踏み心地を確かめるように歩いて私達に近づく。
四本の巨腕が私達に躊躇いなく伸びてきた。
やばい。
本当にやばい。
死ぬかも私達。
こんな訳の分からない不気味な奴に食べられて。
助けようとした人達にもあっさり見捨てられて。
これじゃ、昔と全く一緒じゃない。
救いようのない理不尽な終わり。
……
光、あると思ったのに……
……
ごめん、ヒボシ。
本当に。
……
守れなくって。
私、弱かった。
凄く弱かった。
ごめん。ほんとうに。
愛してたよ。
すごく、すごくすごく。
動けない私の瞳から涙が零れ落ちる。
その時だった――
視界の隅にあるポートタワーの頂上辺りから何かがこちらに飛んで来る。
……
そのシルエットに、何故かもういるはずの無い弟の記憶が私の脳裏に浮かんだ。
『お姉ちゃんはボクが守るんだ!!!』
え……
カナタ?




