魔女、見参。
三宮センター街より、少しレトロな雰囲気の元町商店街を私達は駆け抜けている。
飲食店、専門店、老舗などを通り過ぎながら、私とヒボシは左右に首を振り目を凝らす。占いの館自体が多くて、中々、何処が闇端ロワクの占いの館かがわかりずらい。
「多分この辺だよ!」
ヒボシは何度も後方を振り返りながら言った。後ろのあいつとは大分距離が離れたが、あの巨体のせいでとても近くに感じる。
不意に私は、アーケードの店の並びに、ひと際狭くて奇妙な魔圧が放出されている入り口を見つけた。そこは、階段で降りられるようになっている。
「ここじゃない!?」
私は走っていた足を踏ん張って制止する。
「うん!たぶんここだよ!」
「降りよ!」
私達は躊躇なく短い階段をトトトと降りた。
薄暗くてかなり狭い通路だ、人二人が歩くので精一杯の幅。十メートル程で行き止まりになり、そのすぐそばに扉が一つあった。
異界の王が住む扉。
そんな感じだ。
お洒落に見せているのではなく、幻想世界そのものの物体であり、その世界でも位の高い存在が君臨する部屋に繋がる扉と言う感じだ。
私は戸惑いながらもドアノブに手をかけた。
ガチャガチャ。
「あれ閉まってるよ……」
その時、急に通路がさらに暗くなり、同時にヒボシが大きな悲鳴を上げた。
「きゃあああああああ」
私は来た道を振り返る。
そこには……
壺があった。
最初に見たあの不気味な壺だ。異界の文字みたいなのが書かれたお札が沢山張られている壺。
しかし、随分見た目が変容している。
壺の底付近から得体の知れない獣の足が八本伸びて、人間みたいに立っている。
壺の口付近からも同じく八本腕が伸びている。だが、腕の方が異常に長く、全ての腕が地面に触れている。
後退りするヒボシ、カクカクと気味の悪いリズムで近寄る壺の異形。
一瞬で決めなきゃ。
私は刀の柄の部分を既に顕現して握っている。
その時だった――
「スアヴィ」
浮世離れした若い女性の声が通路に響いた。
次の瞬間。
壺の異形の背後の空間から、桁違いの魔圧と共に、三つ指の巨腕が二本出て来て、壺の異形を玩具みたいに掴んだ。
壺の異形は、見た目からは想像出来ない速度で腕や足を振り回し抵抗する。
しかし、その三つ指の腕は、尋常では無い力であっさりと壺の異形をアーケードを挟んで反対側のシャッターが閉まった店へと吹き飛ばした。
爆発音のような轟音と共にシャッターは大きく凹む。近くに少なからずいた人々は関わりたくないと全速力で何処かへ走っていった。
壺の異形はかなりダメージを受けたみたいだが、ギリギリな雰囲気で再度立ち上がる。
だが、壺の異形のすぐそばの空間からまたしても腕が伸びる。しかし今度はとても大きな拳、巨人の手ような三つ指の拳。
その拳は無慈悲なように、壺の異形を三度、激しく叩き潰した。
壺の異形の壺は完全に割れ、上半身と下半身に沢山の腕を生やし、胴にシュモクザメの頭のような頭部を持った野人の異形が現れた。
しかし、その野人の異形はピクリとも動かない。
私達はその光景に終始圧倒され、息を呑み無言で眺めていた。
その時、私達の沈黙を舐めて溶かすような甘い声が暗闇の通路に広がる。
そして、入り口に魔術師みたいなローブを深く被った人物が現れてこう言った。
「いらっしゃい」




