天使の気配、陽の静寂。
ヒボシといると、全てが色づいて視える。
今までの人生は、終わりの無い無味乾燥な暗闇の中を一人歩いているみたいだったけれど、今は何もかもが輝いている。
近くの公園で散歩するのも、なんとなく行くコンビニも、家で観るくだらない映画も、ヒボシが隣にいるだけで別の出来事みたいに楽しい。
私はヒボシと夙川のほとりを歩きながら、映画のモンタージュシーンみたいに、めくるめく過ぎていった二人の日々を思い出していた。
「どしたの?ぼーっとして」
ヒボシは松ぼっくりを蹴りながら笑う。
最近は何故か、異形がほとんど追ってこない日々が続き、ヒボシはとてもリラックスしている。奴等は偶に姿を現すが、大抵が私達の姿を見た途端、すぐに踵を返して何処かへ行ったりする。勝手に思っているだけだが、私が強くなったせいもあるのかなと考えたりもする。自分の魔圧には鈍感だからよく分からないけれど。
「あっという間に時間過ぎるなーって思ってね」
私も松ぼっくりを川の方へと蹴飛ばした。
「私といるのが、楽しいって事ですかねぇ?」
抑揚をつけ悪戯気っぽく笑い、私の腕にしがみつくヒボシ。甘い日々の中で、私の弱点を見つけては、ドンドンと得意げな性格に変わっていっている。
「たぶん……そうだね」
私は素直に認めて微笑み、ずっと先まで続く、眩い木漏れ日のカーテンを薄目で眺めた。
川のせせらぎの音。木陰の涼しい道。陽の匂い。
今日もなんて良い日なんだろう……
穏やかな陽だまりの中、ヒボシの声が通る。
「今日は帰ったら何しよっか?」
帰っても、この幸せは続くのだ。
「暗い部屋でだらだらしよーよ?」
そんな気分だ。深い意味は無い。
「いいよぉーふふふ」
ヒボシは、また少し密着してきた。
「なんで笑ってるの?」
前髪を整える私。
「べーつにーうふふ」
ご令嬢みたいな服装に似合わない笑みを浮かべるヒボシ。
川の風が、彼女のアクアマリンみたいな神秘的な髪を、ハープを弾くようになびかせる。
私は天使の気配を感じた。
私達はそのまま山手に向かって歩き、夙川駅近くのレトロで洋館的な雰囲気のショッピングモールに入り、喫茶店でホイップの沢山乗ったパンケーキと冷たいロイヤルミルクティーを味わった。
落ち着いた雰囲気で、ゆっくり時間が流れるとても素敵な場所だった。




