山もお寺も神社も、この街を守ってくれてるんだよ。
よく晴れた日、私とヒボシは西宮市に流れる夙川という河川の近くにある市立図書館に来ていた。
神戸にも連なる六甲山系を水源として南の大阪湾へと流れるその河川は、美しい川沿いの高級住宅地と共に地元の人々に知られている。
春になると、ずらりと一直線に途轍もない量の桜が咲くので、その名所としても有名だ。
市立図書館にしてはお洒落過ぎる場所にあるよねと、ヒボシと話ながら優雅に涼しい館内を歩く。
ここなら、この地の古い郷土資料があり、古来から存在する異形についての資料や、私達の呪いに関する何らかのヒントや情報が得られると思ったからだ。
「ねぇこれ見て」
天井が高く開放感がある館内で、ヒボシが私を手招きする。
ずらーっと並ぶ本の前をスタスタと歩き、ヒボシの所へ行く私。
ヒボシは百科事典みたいな大きさの、主に絵で西宮市の歴史が記された本を開いている。
少し重そうだ。
「へー、この本良さそうじゃん」
私は自然にヒボシの頭を撫でる。
「うん」
ヒボシは、少しくねりと動いた。
私はその少し風変りな絵を、目を細めて見た。
海が描かれている。大きな船があり、それに乗る賑やかな人々、船の前には巨大なウミヘビらしき何かがおり楽しそうに笑っている。全て墨で描かれている。
「異形っぽいね、なんか楽しそう」
私は静かに笑いながら言った。
「そうだよね、凄く楽しそう。これ江戸時代の資料だから、やっぱりかなり昔から異形っていたっぽいよね」
「あー、そう言えば、なんか学校で習った事あるけど、この街は今でもお酒が有名なんだけど、江戸時代からそうらしくって、港から船で江戸まで運んでたらしいよ?たぶんその絵だと思う」
私は小学校の社会見学で酒蔵巡りをした事を思い出した。
「へーそうなんだー、詳しいねラクノ。じゃあこの異形はその航行を手伝ったりしてくれてたのかな?私達を助けてくれた、おっきいお魚さんみたいな感じで?」
そう言えばあの異形、なんで助けてくれたんだろう?
「あり得るね、珍しい話じゃ無いし」
ヒボシは次のページを開く。
そのページには無数の扉が描かれていた。扉はあらゆる色で塗りたくられて至極不穏、周りに描かれている人々が尋常じゃ無い表情で飛び跳ねたり、鼻をつまんだり、失神している。
「これ、こわい……」
ヒボシが呟く。
「呪われそう……あんま見ないでおこ。次開いて」
私がそう言うと、ヒボシは次のページを捲る。
「これは……」
私は堪らず声を出す。
「すごいね……」
ヒボシも圧倒されている。
字が崩れていてわかりづらいが、ページ左上に甲山と書かれている。
六甲山とは違うが、西宮市に住む人なら知らない人はいないぐらいに有名な山だ。
私自身、神聖な場所として捉えており、山中にあるお寺だったか神社だったかに家族でお参りした事もある。お父さんは、山もお寺も神社もこの街を守ってくれてるんだよと言っていた記憶もある。
その絵には無数の木々が描かれ、円を描くように何人かの巫女姿の人物が立ち、
真ん中に明らかに禍々しい黒色の石碑かモニュメントみたいな物がある。
まるで巫女達がその邪悪な何かを封印しているみたいだ。
「封印してるみたいだね……」
私はヒボシに言った。
「うん……」
この地を守ってくれている偉大な山の霊脈を利用して、何処かから来た邪悪な異形でも封印してるのかな……
「もしかしたら昔から、私達が経験してるみたいな事って繰り返されてきたのかな?」
ヒボシは私を見て静かに言った。
「そうかもね、単純に呪いって言葉では片づけれそうでないしね、前から思ってたけど、私達の能力と異形が襲ってくる事は別な気がするし」
私は掌を前方にかざす。透けた朱色のバリアが小さく展開された。蝙蝠のデーモンを倒して獲得した能力だ、もっと大きくも展開できる。
「あぁそっか。私達が能力を得る事が、悪い異形にとって都合が良くないみたいな?」
ヒボシが私のバリアを見ながら呟く。
「そそ、そんな感じ」
ヒボシが最後のページを捲った。
そこには、しめ縄に囲まれた場所が描かれ、何体かの妖怪がおり、それらが二段階、三段階と進化している様子が描かれていた。
私はそれが、とても清らかな行いをしているように感じた。




