お姉ちゃん、お姫様みたい……ごめんね。
私達はパンケーキを食べ終わり、屋上庭園に向かった。ホイップで少し胃が重い。
屋上庭園は沢山の緑が生い茂り、中央に巨大な噴水があって、その周りに綺麗な人工芝が敷き詰められている。小さな子供が可愛い声をキャッキャと上げて噴水で遊ぶのを、お母さんやお父さんが微笑みながら見ている光景は、世界は平和なんだとこっちまで幸せになれる。
その奥には、イベントが頻繁に行われているステージがあり、それに使用される特大な観客席みたいな、横方向に大きく広がる大階段がある。
「ラクノこっちこっち!」
ヒボシが手を振るのでついて行った。
彼女が私に見せたい景色はなんとなく分かっている。
それは当たり前で、私は家族を亡くしてから、本当に何度もここに着ているからだ。
沢山の幸せそうな家族を見ていると、かつてここに自分の家族達と来た時の記憶があの日のまま鮮明に蘇るからだ。
きっとヒボシが見せたい景色は、弟のカナタがお気に入りだった景色だろう。
「待って、ホイップが暴れてるから」
私はウップと胸がつかえながらも階段を昇り、ヒボシに並んでその景色を見渡した。
「ほら、凄いでしょ!!!」
百八十度遮りが無く、天空の風が吹く。デパートの屋上なのに王宮から都市を見下ろしたみたいな景色みたいだ。
遙遠くまで敷き詰まった建物。六甲山系の山々を終点として、その内側に、左側から芦屋市、西宮市、前方に宝塚市。何処を見渡しても息づく街がリアルに感じられる。
「うん、凄いね……」
街を眺める私達の間を、懐かしい風が止まらず吹き続ける。
私の朱色の髪もヒボシの薄水色の髪も、王国の旗のように力を持ってうねる。
ヒボシが言った。
「この景色、ぜーんぶあげます!」
やめて、その言葉は。
かつての記憶がフラッシュバックする。
『お姉ちゃんはお姫様だから、この景色ぜーんぶあげるね!』
両親が、カナタはロマンチストだね、と笑っている。
カナタは時折、私をぼーっと見ては、お姫様みたいと恥ずかしくなるような事唐突に言ってくる癖があった。まるで何かを私に視ているようで少し怖かった。
やばい。また浮かんでくる。
私は頭を抑えた。
「ラクノ!!大丈夫っ!!?ちょっと座!?」
ヒボシの声は聞こえるが、まだフラッシュバックが続く。
自動車事故。それが、私が家族を失った理由だ。
お父さんはとても真面目で間違った運転なんて一切した事無かったのに、ルールを守らない悪魔がいたせいで私の人生は滅茶苦茶に壊された。
家族を失った最後の瞬間、私は辛うじて意識があった。
あの時、両親はもうダメだったが、隣にいたカナタだけはまだ少し息があった。
カナタは最後、私を見つめながら虚ろな目でこう言った。
「お姉ちゃん、お姫様みたい……わぁ……綺麗……守れなくっ……て……ごめんね……」
右手にはソリッドマンみたいな人形を握り、左手は私の手を握っていた。
……
意識が今に戻る。
まるで、当時に戻ってしまったように悲惨なイメージを想起してしまい、私はほぼ放心状態になっていた。気が付けば、私の目から涙がとめどなく流れ、ヒボシが私を抱き締めていた。まるでこの世界に繋ぎ止めてくれるように強く強く。
「ごめん……もう大丈夫だから。ちょっと昔の事思い出しただけ……」
私はヒボシの頭をありがとうと撫でる。
「無理しないでね!?私なんでも聞くからね!?」
ヒボシは服の袖口で何度も何度も涙を拭いながらそう言った。
「ありがと……ヒボシ」




