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トドリ?知ってる。ロワク?知らない。

 本屋に入ると、ヒボシは一目散に写真集のコーナーへ行った。


 好きなインフルエンサーの写真集が発売したらしい。


「あっ!あった!トドリちゃん発見!」


 あ、流図トドリのファンだったんだ。


 彼女が手に取った写真集は、流図トドリと言う、元トップアイドルで声優や俳優もこなしていた人物だ。元というのは、彼女は公の場から忽然と姿を消して、自分のキャリアをいきなり全て捨ててしまったからだ。後になって分かったのだが、それは自らの意思だったらしく、あの時は、連日バラエティー番組で話題になっていたから結構覚えている。


 しかし最近、突然公に姿を現しては奇妙な配信を始めて、瞬く間に人気を取り戻し、さらに、途轍もない衝撃的なカミングアウトをした。


 私は異形なんです、世間がひっくり返るような出来事だった。


 絹の様に滑らかなでクリアな金髪、透き通る黄金の瞳、どの異国にも当てはまらないような端正な顔立ち。


 あらゆる方面に尋常では無い才能を持った彼女はやはり人間では無かったのだ。


 しかし、ファン思いな気持ちと、世間一般以上に熱意を持った志に、彼女は再び全盛期をも上回る人気を破竹の勢いで取り戻して、こうして写真集になったりしている。


 テレビの特集で見たが、今では大阪の日本橋辺りにメイド喫茶をプロデュースして大成功し、自らもメイド長として働いているらしい。


 私はあの時思った。この世界は思いの他、異界との繋がりが濃いのかもしれないと。


「可愛いよねトドリ」


 私もなんとなく手に取って見てみる。凄く可憐なのに、勇者みたいな眼差しをしている。


 女の子人気高そう、私もちょっとこれ欲しいし……


「うん!私、トドリちゃんが声担当したアニメ全部見てるよ!」


 そういえばこの子、アニメ凄く好きだったんだっけ?


「へー、今度一緒に見ようよ!」


「いいよ!また泊まりに来て!夜更かしして一緒に見ちゃおっ!」


 それ最高。くっついちゃったりなんかして……


 ヒボシは二冊手に取ったと思えば、見失う程の速さでレジに並び、すぐさま購入した。


 よっぽど欲しかったんだね。


 そして帰ってきたと同時に私に一冊渡してきた。


「はい、これあげる!」


「え!?いいの?保存用とかじゃなかったの?」


「うん、いいよ。押し付けっぽくてちょっとあれだけど、ラクノには私の好きな事全部知って欲しいからね……勿論!ラクノの好きな事も全部知りたいよ!」


 全部なんて……結構な事言ってるよ君。


 ヒボシは気づいたのか恥ずかしそうになって、誤魔化すみたいに言った。


「パンケーキ食べない?私お腹空いちゃった」


「ありありだね。私アイスとホイップ乗せちゃおっと!」


「ラクノてんさーい!早く行こ!」


 私達は四階にある、屋上庭園に近いカフェへと向かった。




「やばやばだよー!!!」


 ヒボシはホイップのタワーが乗るパンケーキを前にして、女の子らしく手を組んで、青い目をキラキラさせている。


「あちゃー、カロリーもやばやばそうだ」


 私はそう言いながら、テーブルの下で自分のお腹のお肉を摘まんだ。


 しかし、私達は女子。


 目の前のパンケーキの塔はみるみる小さくなっていった。


「そう言えばさ、ヒボシの寝室のピラミッドみたいなポスターあるじゃん?あれってなんか不思議だよね?」


 遠回しに、何か意味がある絵なのか聞いてみた。


「あれはね、闇譚ロワク(ヤタン ロワク)ちゃんの描いた絵だよ。どうしても欲しくて高いけど買っちゃった。錬金術を表した絵なんだって」


 ヤタン ロワク?変な名前だ。ちゃんて事は女の子かな?


「誰それ?」


「まぁ、マイナーだからね。でもオカルト界隈では有名だよ。都市伝説化したりもしてるし。神戸の元町で今度占いやるらしいから絶対行きたいの!ほらこれ」


 ヒボシが見せてくれた写真には、私達と変わらないぐらいの年齢の女の子が映っていた。真っ白な髪にピンクのメッシュ、肌は蒼白で魔術師みたいなローブを着ている。顔は流図トドリみたいに人間離れした美人で、私よりも、もっとクールな顔立ちだ。


「へー可愛いね。この子がなんで都市伝説化してるの?」


「噂ではね…………魔女らしいんだ」


 ヒボシは溜めた後、不敵な笑みで言った。


 !!!


 魔女。あり得ない。


 その存在は、オカルトや世間一般に疎い私でも知っている。


 最上級のデーモンや、多数の異形達を束ねる魔の王などに匹敵する程の存在。


 その存在が居るだけで、一つの都市の雰囲気は簡単に変わってしまうらしい。魔女が意思を持って動けば、もっと計り知れない何かが起きてしまうらしい。


 極普通の一般人の集まりで出来た魔女信仰のグループすらあるんだとか。


 社会に鬱憤の溜まったサラリーマンや学生がネットを介して魔女を信仰するとは、


なんとも現代っぽい感じがする。


「それって流石にただの噂じゃない?」


 私は感じた恐怖から、半ば否定したくてそう言った。


「確かにね、でもね……彼女が描いたあの錬金術の絵を見て思うの。錬金術には、マグナム・オプス(大いなる業)って言う、完成へと到達する道の四段階があってね、ニグレド、アルベド、キトリニタス、ルべドなんだけど、最上に達すると、賢者の石を得るとか、完全な存在に達するとか言われてるんだ。その段階を色として分けたのがあの絵。それでね、私はあの絵の雰囲気や色使いを見ていると、それが適当に描いてるようには全然思えないんだよね……あの絵自体がまるで禁忌の魔法陣みたいな……」


 ヒボシ……意外とかしこちゃんだったんだ。


「なんか難しいけど、そう言われるとあり得るような気がしてきたよ」


 でも、あり得たとして、ヒボシみたいな能力を持つ子が、その存在に思いを馳せるのはちょっとやばいような……


「でしょ!?今度、神戸の元町に来るって噂だから一緒に行ってみようよ!?」


 怖いし、行っちゃいけない気がするんだけどなー……


 滅茶苦茶行きたい顔してるじゃんヒボシ……


「んー……まぁ、タイミングが合えばね」


「やった!!約束だよ!!」


 え???約束???

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