見て!ハイスピード。ダメダメ、他の人いるんだから。
私達は、カリヨン広場から直結する大型商業施設へ向かった。駅から、その施設までは距離も近い上に動く歩道まであり、かなりアクセスが良い。その商業施設に至るまでの道は、まるでお祭りみたいに沢山の人々が行き交いしている。
その大型商業施設は、多種多様な商業施設、映画館、屋上庭園、フードコートなどが集まって出来ており、解放感のあるテーマパークのようで、家族連れやカップル、一人で楽しみたい人達、誰もが余暇を楽しめるスポットとして街の内外の人々から愛されている場所だ。
かく言う私も、家では落ち着かず気晴らしをしたいときに、ここへきては、ぶらぶら歩いて、ウィンドウショッピングをしたり本屋で立ち読みしたり、お腹が空いたらフードコートで何を食べようか?と、吟味したりしている。
そんな、私の大切な空間にヒボシと来られるのは、とても嬉しい。
「見て!ハイスピード」
ヒボシは動く歩道で小走りしながらそう言った。当たり前の事を凄く楽しそうにしている。
「危ないよ、他の人もいるんだから」
ヒボシは、はーい!と言いながらも飛行機みたいに両手を広げ、ぶつかりおじさんの事なんかすっかり忘れて、ケタケタ笑っている。この子、本当にデートプラン考えてくれてるのかな?と少し疑った。
「今日ってどんな事する予定なの?」
最後にダーリンをつければ、彼氏に少し不満がある彼女みたいだ。
「えっとね、取り敢えずモール内ぐるーって回って、お買い物して、美味しいご飯食べて、屋上ちょっと散歩して、そっからバスに乗ってヨットハーバーまで行きたいなーって思ってるよ」
意外と詰め込んでる事に驚いた、それにヨットハーバーというのも中々良いチョイスだと思う。あそこは、ここから近いしリゾートみたいな雰囲気が結構好きだ。
綺麗に舗装された海沿いで潮風を浴びながら歩き、蒼が滲んだ地平線を眺めたり、神戸の方角に広がる六甲山や澄んだ街並みを眺めるのは非常に気持ち良い。
「いいじゃん。あたしあそこかなり好きだよ」
私はヒボシの肩に手を回し、やるじゃんと微笑む。
「うわっ!!そーだと思いましたぜ、兄貴」
私が急にグッと引き寄せた事にヒボシは驚いていたが、すぐに小賢しいキャラを演じて肘で私の脇腹を二回ツンツンと突っついてきた。
私は妙にそれを喰らった。うふっと変な声が出たのはスルーしてくれたので助かる。
私達は館内に入り、取り敢えず時計回りに移動しながら階を昇って行く事にした。五階まであるので、ただ歩くだけでも結構距離がある。
そしてヒボシは、まだ移動して間もないのに言い出した。
「えーっ!私、揚げたてのコロッケ食べたいかもー!」
コロッケ屋さんの前で立ち尽くすヒボシ。
早いわね。それにクレープとかアイスとかじゃない?デートって?
「もう?お腹空いたのヒボシちゃん?」
半ば呆れ気味に言った。
「うん、おへそと背骨がくっつきそう」
変な所に焦点合わせてるね。
「それは……『ちょう』がないね」
一応ダジャレを言ってみた。
「……ふっ、ダジャレ……」
軽く鼻で笑って、ニヤニヤするヒボシ。
「あ……うん……面白く無かった?」
「ううん、私は好きだよ」
「『は』って何よ。恥ずかしいじゃない」
私はヒボシのおへそ辺りを摘まんで軽くねじる。
「くすぐったいよー!私のおへそ閉じないで」
妙に鼓動が早くなった。
「蛇口みたいに言うんだね」
私は平静を装い淡々とツッコむ。
「実はお湯出ます」
ヒボシがコショコショと耳元で言ってきた。
「ほーう、それはへそで茶を沸かせそうですね」
私も耳元で囁き返した。
私達はアハハ!と人目も気にせず大笑いした。
私達はどんどん歩く、幽かに口元をコロッケの油でテカリらしながら。
服屋や雑貨屋を見て、あれ欲しい、これ欲しいのオンパレードを繰り返す。
お揃いのネックレスも買って、髪留めも買った。同じ化粧品を使ってみてどっちが可愛くなるか勝負しようと、奇抜な色のアイライナーもお揃いで買った。
私達はきゃっきゃうふふと遊園地みたいに騒ぎながら、足を躍らせ広大な商業施設を闊歩する。
「こういう、友達とデートみたいなの初めてだったんだー」
私はありがとうを瞳に込めて言う。
「私もだよ……」
ヒボシは恥ずかしそうにモジモジしながら、ゆっくりと返してきた。
良いのだろうか?
私は暗闇を歩いていなくて?
ずっとそうだったからこんな幸せになる事に罪悪感を感じた。
「本屋いこっか?」
私は何も考えないようにしようと、そう言って暗い気持ちを振り払った。
「うん!!私、本屋大好きー!」
ヒボシがそう言って、大手を振って歩こうとした時、私達の手が一瞬触れて重なる。
彼女はその時、私の手を密かに握ろうとした。
私が恥ずかしくて握れ返せないせいで、ヒボシは頬をジーンと赤く染めて、さりげなく自分の方へ、その手を戻した。




